TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.2015-16 A/W Collectionがパリで発表された。今季のテーマは「INTRO」
INTRO.が鳴り始める。
………INTRO.が鳴り始めることは物語の始まりを想像させる。
宮下の頭の中に常に存在している様々な物語が詰め込まれた洋服から聴こえてくるイントロダクションは、着る者に自由と愛を語りかけるだけでなく洋服の着方や概念、選択肢に変化を与える。同時に、自分自身が洋服に対してチューニング、アジャストする行為は次のページをめくる必要な要素となる。
読み終わった物語を再び読み返す行為は、想起感覚とともにある種の緊張感を纏う。また、その行為は些細な箇所ほど過去とは違う世界観を創造する可能性を抱いている。タカヒロミヤシタザソロイスト.の洋服は宮下自身が創造してきたもの、過去から存在するものを破壊し再構築することで生まれる。ウエスタンコスチューム、エドワーディアン、ヴィクトリアン、バロック、テーラード、ワーク、ミリタリー………。宮下の多角的な解釈から紡ぎだす物語には、些細な箇所を見落としてしまうほどあたかも以前から存在していた様な無意識的シンプルさと、意識的不安定な荒々しさ、大胆な装飾がそこに併存する。それ故に、故意的ではないベーシック且つ相反する先鋭的でアップデートされた世界観を生み出す。
装飾は、一般的に付属とカテゴライズされるかもしれないが、オールハンドメイドのフックやアイ、Dカン、角カンを始め、メタルボタン、ウエスタンディテールのコンチョやブレードなどは、タカヒロミヤシタザソロイスト.の洋服に対してアクセサリーとしての大きな存在感をもたらす。宮下は、それぞれを自由にチューニングすることで時代や様式、国籍の境界線をフラットにする。
いつの日かのニューヨークの記憶、5年間の主夫生活を終え「ダブルファンタジー」をリリースしたジョン・レノンにあたかも呼応するかの様に黒のコレクションを並べ、5年間のチューニングを終えたタカヒロミヤシタザソロイスト.のINTRO.が鳴り始める。
破壊するために物語を再び読み返す行為は必要となるが、モノクロ−ムな視点のみでの原点回帰はしていない。
ましてや単純明快なアーカイブや集大成でもない。チューニングに終わりはなく、続けることが新しい物語を再構築させる。
タカヒロミヤシタザソロイスト.は破壊と再構築を繰り返し、物語を創造する最初のコードを鳴らす。
今はただINTRO.が鳴り始めただけ………。
デザイナー/宮下貴裕
「NUMBER (N)INE」脱退後一年の沈黙を破り、2010年「Soloist,Inc.」を設立し「TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.」として再び洋服創りを始動させる。
”TheSoloist.”とは、洋服に携わる各個人が、”独奏家”として孤高の精神を持ち合わせて欲しいという宮下の願いであり、また再び洋服の世界へ戻ってきたという自分への不退転の決意の表れである。
http://www.the-soloist.net/
https://www.youtube.com/watch?v=EYMWadsZjE8&feature=youtu.be