ヴァージル・アブローがピッティ・ウオモで発表した「OFF-WHITE c/o Virgil Abloh™」の2018 春夏メンズコレクションのテーマは “temperature(温度)”。
会場となったピッティ宮殿の壁とファサードにはアーティストのJenny Holzer(ジェニー・ホルツァー)のライトプロジェクションが投影され、その前をモデルが歩く間、Opera di Firenzeのオーケストラがライブ演奏を行った。
「ピッティは伝統的なメンズウェアとテイラリングの祭典です。そのコンセプトをNYのダウンタウンの若者たちに向けて自分なりに解釈したのが今回のコレクションです。私がイメージしたのは今までと同様、都会的な若
者達の為の服です。ただ毎シーズン彼らも成長して洗練されていくということも考えています。また、私はユースの為だけではなく、大人にも自分の服を着てもらいたいと思っています。クラシックな要素のリミックスは若
者にも大人にも提案できるスタイルだと思います。」-ヴァージル・アブロー
ヴァージルはコンセプチュアルで脱構築的なアプローチでファッションに向き合い、業界の常識を疑問視しながらも、テイラリング、構築、ワードローブの伝統に敬意を払いながら服をデザインしています。そして時として、業界でよく使われる用語やツールを客観的な視点から見直し、その中で彼が疑問に感じる言葉をクオテーションで表現してきた。ダブルクオテーションで言葉を囲むことにより、その言葉の従来持つ意味を比喩的
に捉え、その言葉の再定義や皮肉的な解釈を提案している。今回のコレクション“temperature (温度)”も同様に、受け止める人がこの言葉の持つ様々な意味をファッション、また普段の生活の環境の中でどう捉えるかという疑問を投げかけている。現代社会で服やスタイルの話をする時に使われる文脈の中で、実際の気候という意味での”温度“だけでなく、今何が”HOT(いけてる)” なのか, どういう意味で“cool”という言葉が使われているのか、今 ”熱い(heat of the moment) “ブランドは何なのか、など比喩的に多く使われている”temperature”にまつわる言葉を表現した。
実際のコレクションではインテリの為のガーメントと考えられていたテイラリングを脱構築し、着用者が自身を投影できる服として、まっさらなキャンバスの状態からテイラリングを提案。ヴァージル・アブローにとって重
要なのは“new(新しい)”ではなく”now(今)“であるということ。現代を切り取る手法として言葉を多く使うヴァージルが今回のPITTIでのショーで様々なメディアを通して言葉を表現してきたアーティストのJenny Holzerとコ
ラボレーション。モデルがランウェイを歩く背景の宮殿の壁にAnna Świrszczyńska, Omid Shams, Alemu TebejeAyele, Dunya Mikhail, Ghayath Almadhoun, Osama Alomar, Yousif M. Qasmiyeh, Khawla Duniaなどによる実際に被害にあった個人の立場から見た紛争や難民問題を訴えた詩が次々に投影された。自身もガーナからの難民の息子であるヴァージルにとって、痛みが飽和している現代社会を取り上げたホルツァーのプロジェクションの言葉は、彼がコレクションを通して伝えたかったメッセージでもある。ホルツァーとヴァージルといったパワフルな二人の緊張感に満ちた今回のコラボレーションは、ファッションショーという空間に現実逃避ではなく、危機感を持ち込んだ。