“気持ちを高められる服、着てその人を幸せにする服、ありきたりな言葉ですけどその通りに服が作れたらいいなって”
―(writtenafterwardsの時のように)ショーをやりたいという気持ちはありますか
ショーは好きなんですけどね。でも時代的にも自分のもの作り的にも今はショーじゃないのかなと思います。
―毎回職業を必ず変えるわけではないんですか
それは気分ですね。勿論変えながらやっていく気持ちはありますけど。ただその職業に縛られるようなことはしないです。仮想の職業を作るということもあると思いますし。
―神様とかでしょうか
そうですね。神様良いんじゃないですか。
―学生とか
それもありだと思います。ロールプレイングであるような職業でもいいと思いますし。神様だったり学生というのも今のロールプレイングならそういう職業もありそうじゃないですか。たまに自分のやっていることが昔自分のやっていたロールプレイングと被ったりするんですよね。感覚的に。そこはまだ自分の中で紐解いてはいないですけど。自分が小さい頃にやっていたドラゴンクエストであったりファイナルファンタジーだったりというのが何かしら影響を与えているんだなと思います。
―ファーストコレクションをやってみて周りからの反応はどうでしたか
僕が展示をして見に来てくれた方というのは同業者が多かったんですけどざっくりいって良かったと思いますね。その中でも色々な意見があって今後の課題もあるんですけど自分が評価して欲しい人に評価していただいたと思っています。
―山縣さんはなんと言っていたんですか
純粋に誉めてもらいましたよ。「writtenafterwardsの時もこういう風に表現して欲しかった」と言われましたね。
―writtenafterwardsを辞めて自身のブランドを出したことに関してのまわりからの反応はどうでしたか
凄い大多数で「一人になって良かったね」って言われました。
―それは自分も思いますか
思うんですけど人からそう言われるのはちょっと複雑な気分でもあるんですよね。それだけwrittenafterwardsで表現出来ていなかったという裏返しでもあるので嬉しい半面、複雑な気持ちではありますね。
―ファーストコレクションに対しての自分的な評価はどうですか
納得していない部分はいっぱいありますよね。常に成長していかなければいけないので。勿論その時の自分のやりたいことを表現、出し切る形ではやっていますけどその中でもやっぱり自分一人で作っているわけではないので色々反省点はありますね。
―今回のコレクションでは天然素材を使用されていますがそこはこだわった部分なのですか
こだわっている部分というか普通に僕が作りたい服って多分見て何かを与えるものじゃなくて着て何かを感じる服だと思うんですよ。そうなった時にやっぱり着て気持ち良いとか、違和感が無いというか、凄い自然なものを選んでいくと必然的に天然素材を選ぶことになるんですね。勿論僕の背景にMargaret Howellがあるのもあるんですけど。天然素材を選ぶことはこだわりではなくて自然ですね。
―着る人のことやスタイリングの提案も考えてデザインされたのですか
今後どうなるかはわからないですけど今回のコレクションに関してはスタイリング提案というよりも一点一点の服のフェースとして考えています。今って古いじゃないですかトータル提案というのが。そんなのファッションじゃないし、考え的に無理があるのでそこと自分のやりたいことがリンクしているかいないかはさておき僕的には単品でのデザインの方が良いと思って1個1個デザインしています。勿論これとこれを組み合わせる可能性というのを踏まえながら、これをこれを絶対に着なきゃいけないという形よりもこれ1個で着て幸せになって欲しいという考えで作っていますね。
―植木鉢を入れる服などがありましたが実際に植木鉢を入れたら汚れてしまいますよね。あれは汚れてもいい洋服なのでしょうか
汚れちゃ駄目ですか?それは人それぞれじゃないですか。元々土臭い服が好きというのもあると思うんですけどそこまで逆に「汚れてもいい洋服」とか「汚れちゃいけない洋服」とか考えていない気がしますね。多分元々僕が考えているものってドレスじゃないと思うんですよ。もっと生活的な服なので。そういう意味では根底にドレスとかフォーマルウェアという考えがないから出来る服ですね。
―そういったドレスやフォーマルウェアを作りたいとは思いませんか
作ったとしても土臭いものになると思います。
―ターゲット像はありますか
ターゲット像というのはありますね。あるんですけど言葉で表現できないですね。その時代に正しく装うことが出来る人というか無理のない人ですかね。無理に装うことをする人ではないですね自分のターゲットは。どちらかというと自分のライフスタイルを大切にする人、そういう人に向けて作っています。
―下げ札には花の種が入っていました。これはどういう考えから出たものですか
前々から思っていたんですけど下げ札って凄く商業的なものに感じるんですね。タグであったり品質表示ってある意味お客さんとのコミュニケーションツールでもあると思うんですよ。デザイナーとしては自分の表現方法なんですけど買い手側からはそれがブランドシンボルであったり、なにかしら売る側と買う側の機能ってあると思うんですよ。下げ札ってどちらかというと売る側のエゴじゃないですけど買う時の「これが売れました」というツールだと思うんですね。そこにもう少しお客さんとのコミュニケーションツールとしての機能を持たせたいなということで種を今回袋に入れて買ってもらった人が種を植えて目が生えてきたらその話で次回また売り場の人とコミュニケーションを取れるという風にしました。その考え方が自分のブランドコンセプトとしても機能としてもあっているんじゃないかなと思って。
―次回以降もそのアイデアは続くんですか
絶対種を入れるかというのはまだわからないんですけど何かしら下げ札というものがお客さんとのコミュニケーションツールであり続けることはしたいですね。
―10S/Sという表現ではなくwork permit 001という表現になっていますがシーズン性はあまり考えない洋服になるんですか
あまり考えない洋服になると思います。勿論年間2回表現はしていくとは思うんですけどその中でも着て気持ち良い洋服、その人のライフスタイルにあった洋服を提案するという上で来年になったら着ないというそういう服であって欲しくないなという気持ちはあります。
―春夏秋冬という考えではないと
今の時代そういうのは無くてもいいと思います。
―ただ2回提案するという形ですね
それはある意味流通システムに乗っかっているだけであって自分がその表現が正しいから出しているというわけではないですね。
―今後どのようなブランドにしていきたいですか
コンセプト通りのものですね。特別であって特別でないもの。さっきも言ったんですけど見てなにか幸せを与える服ではなくて、着て(気持ち的に)温かいもの、着て気持ち良いものが提案出来たらベストですね。
―時期が来たらKentaro Tamaiの名前でやることも考えられますか
どうなんですかね。僕の性には何か装っている方が合っているんですよね。自分を全て曝け出すのってこっぱずかしいというか、ある意味くさいことが出来ないというか。そういう意味ではあまりコミュニケーションを取るのがうまくないので。最近知人と一緒においしい野菜が食べれるレストランに行ったんですね。それは出てくるものをただ焼いて食べるとか旬の食材をそのまま味噌につけて食べる程度なんですけどそれを食べた時に凄いテンションがあがったんですよ。食材で。何かその感覚って昔air max95とかを欲しかった時の感覚に似ている気がしたんですよね。「この靴絶対買わなければいけない、この服絶対手に入れなければいけない」って。それを着て自分を装うというか自分のランクを上げる、そういうわくわくする気持ちって僕ら最近あまりないじゃないですか。そういう服って出会ってないじゃないですよね。そういう感覚忘れていたなって野菜食べて思って。実際自分のブランドがそうあって欲しいな、そうなれればいいなって思っています。気持ちを高められる服、着てその人を幸せにする服、ありきたりな言葉ですけどその通りに服が作れたらいいなって思います。ファッションじゃないんですけど人への反響じゃなくて自分への反響というか。服とその着る人とのコミュニケーション。そういう服作りをしていけたらなーと思っています。
―やっぱり山縣さんが一番評価されたい人なんですか
評価されたいというか一番気になる存在ですね。ずーっとそうだと思います。純粋に彼に評価してもらうことは嬉しいですし。だから僕は神様のコレクションの前に展示会をやったんですけどその時に山縣が純粋に思ったことを言ってくれたので僕もまっさらな気持ちで彼のショーを見れたんだと思います。
続く