Interview

Sandra Backlund

2007年にイエール国際モードフェスティヴァルで大賞を受賞したSandra Backlund。

ベックマンス・カレッジ・オブ・デザイン(スウェーデン)卒業の翌日に自身のブランドを設立するという行動力を持ち、若くしてルイ・ヴィトンやエミリオ・プッチといった錚々たるブランドともコラボレーションをも行う彼女にインタヴューした。

―2010-11年秋冬コレクションについて説明していただけますか

今回のコレクションのインスピレーション源はいつもと同じで、デザイナーとして会社を経営するために日々努力するなかで起こっていることです。それは、ファッションにつきまとう矛盾、つまりこのビジネスの美しい部分と醜い部分のあいだのバランスをとるための絶え間ない闘いなのですが、今回私はより表面的な観点からニットウェアにアプローチすることにしました。ある意味では、布帛で服を作るのにはサンドラ・バックランド的なニットウェアのヴォリュームとシルエットを用い、ニットには、通常布帛を裁断し、仕立てる方法を用いたとも言えるでしょう。

―ブランド設立の経緯を教えていただけますか、ブランドを起こす前に、他の会社で働くことは考えましたか

在学中には既に自分の好きなことをやりたいと思っていましたので、卒業の翌日に会社とブランドを起こしました。私はとりわけニットウェアを得意としていて、この分野で仕事のお誘いをいただき、ルイ・ヴィトンやエミリオ・プッチのような会社とフリーランスでコラボレーションを行ってきました。ですが、どこか他のところでフルタイムの仕事をしようと考えたことは一度もありませんでした。

―あなたがデザイナーになったのは偶然ですか。それともずっと望んでいたことでしたか

常々美術や工芸に強いつながりを感じていましたし、クリエイティヴな仕方で自己を表現する必要も感じていたのですが、私は芸術的な一面だけでなく理論的・数学的な気質も強く持っています。これまでずっと、私のなかで対立するこの両者を折り合わせようと努力しようとしてきました。最終的にファッションを通じて、自分の自由な面と数学的な面を結びつけることができたのです。

―なぜニットウェアを選んだのですか。ニットウェア・デザインのどこに惹かれたのですか

何か特定のことについて、私という人物を形成した原因を明らかにしようと思ったことはありません。事実、ニットウェアを選んだという気はしていませんし、たまたまそうなっただけです。わたしはずっと様々な素材と三次元的な形で実験をしてきたのですが、それにはニットのようなものがぴったりだったのです。私にとって、ニットは自由なクリエーションと同義なのです。制作するにあたって独自の生地を作り上げたり、数学的でありながら即興の余地があったりする方法を私は好んでいるのです。

―あなたの作品は時々彫刻や芸術作品のようだと形容されます。ファッションとアートの差異についてはどう考えますか

個人的には、ファッションは産業と言うよりは芸術の一形式だと考えたいです。ある意味では、ファッションはもっとも民主的な芸術形式のひとつであり、私たちの多くが日常生活で関わるものです。ファッションに関して、一般の人々はもちろん自ら決断を行っているのですが、たとえファッションのことを考えても気にしてもいなかったとしても、着るものの選択は何かの表現なのです。それは個人的あるいは政治的な声明です。他の誰かになる手段、あるいは周囲の人々に溶け込む手段であったり、ただ美的な理由のためであったりというような。何が流行しているだとか、何だと会話にならないのかといった考えに私は我慢がなりません。何かあなたが好きなものがあれば、誰に教えてもらうことなく、それがわかるはずです。

―どうやって各シーズンのテーマを見つけたり、決めたりするのですか

わたしは本当に内向的で、制作のアイディアを考えるときにはアトリエに閉じこもっています。そういう意味では、生活のなかで起きることすべてからインスピレーションを見つけているのだと思います。それは、きわめて個人的で深いところにあるものかもしれませんし、よくある日々の努力かもしれませんし、場合に

Photo©Peter Gehrke

よります。

―コレクションのイメージを表現するにあたって、シーズンごとのテーマやブランドのコンセプトは重要だと感じますか

私はそういう意味ではテーマやコンセプトについて考えたり、自分がすることを分析しようとしたりはあまりしません。ですが、もちろん哲学、制作プロセス、形態の言語などから生じるものすべてが一体となり、コレクションの精神とスタイルを作り出しています。

―ファッション・デザインにおいてもっとも重視することは何ですか

ひとつだけを挙げることはできません。すべてが混ざり合うことで、ファッションが面白いものになるのだと思っています。

―あなたのファッション・デザインのインスピレーション源は何ですか

技法と素材という明白なものをのぞけば、衣服やアクセサリーで自然なシルエットを強調し、ゆがめ、変形させるあらゆる方法に興味をかき立てられます。

―あなたの作品に強い影響を与えるデザイナーや人物はいますか

特にいませんが、自分自身の声を強く持ったひとは皆尊敬します。

―ファッションに興味を持ち始めたときのことを覚えていますか。きっかけは何でしたか

それがいつなのかはっきりとはわかりませんが、10代の頃に住んでいた街のショップに面白いファッションがなかったことが、自分で服を作ろうと思ったきっかけです。アーティストとしてファッションを選んだのは10年前のことですが、それ以前は美術や写真に夢中になっていました。

―ベックマンス・カレッジ・オブ・デザインについてお聞きします。そこでの勉強はどのようなものでしたか

私はウーメオというスウェーデン北部の街の出身で、10年前にベックマンスに入学するためにストックホルムに移りました。そこは本当にいい学校で、私は何が好きなのか、何に長けているのかだけではなく、ファッションに関してこういう制作はしたくないということなど、4年間多くのことを学びました。ただスケッチするだけでなく、アイディアを練ったり、実際に製品を作ったりすることは、デザインのプロセスのなかでいちばん好きなところでした。

―スカンジナビアについて何か考えはありますか

スカンジナビアを一言で言い表そうとしたり、地域全体のスタイルを説明したりするのは不可能な話だと思いますが、どうしてもと言うのであれば、シンプルでモダンだけどもちょっとばかり無難だと言えるかも知れません。

―デザイナーとしての最大のターニングポイントは何だったと思いますか

2004年にベックマンス・カレッジ・オブ・デザインを卒業したこと、2007年にイエール国際モード&写真フェスティヴァルで大賞を取ったこと、2009年にイタリアで小規模なファースト・コレクションをスタートさせ、バイヤーに自分のコレクションを提供できたことです。

―今日のデザイナーが直面する困難はどこにあると思いますか

現在デザイナーとして働くことは大きな責任を伴いますし、新しいモノを裕福な世界に向けて作る権利を持つデザイナーのひとりであるべき理由を述べるのはとても難しいです。私たちはリサイクルされたモノだけでは生きられず、私たちの時代の言語で語られた新しいヴィジョンと物語を享受する必要があると私は信じたいのです。しかし、新しいモノを作り出す使命を持った私たちは、世の中にはあらゆるものが過剰にあふれていること、自分が本当に得意なことに集中し、それ以外は他の人たちに任せなければならないことが今の主要な問題だと自覚する必要があります。

―あなた個人のスタイルを教えてください

たいていは黒やグレーといったベーシックなものにユニークなヴィンテージの服をあわせています。特別なときには自分でデザインしたものを着てみます。

―あなたにとって「ファッション」とは何ですか

今のところ、私の生活すべてです・・・そしてもちろ

Photo©Kristian Bengtsson

ん私の大好きなものです。

―将来の展望を教えてください

私は常々オープンマインドであろうとしていて、将来についてあまり心配はしていません。一生懸命に働いて、わたしの原点と自分が得意とするものを守り、それでいてなお私のデザインと会社を発展させる道を見つけていきたいと思っています。

Interview:Masaki Takida Translation & Text:Hiroshi Ashida

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