Interview

西山高士×山縣良和×坂部三樹郎 4/6

「クリエイションのレベルもそうだし、ファッション性もそうだし、コレクションの勝負。でも日本にはそこがない」

―先生方2人は西山君が今後どうすべきと考えますか

坂部:世界を見るというのは大事ですね。

山縣:世界の中で彼がどう自分をプレゼンテーション出来るのかということを考えて行かないといけないからそういう意味で言えばまず最初に言葉を勉強して向こうで働く機会があれば働いてみるのも良いと思います。ガリアーノの元ディレクターの方がガリアーノオムが良いんじゃないかということで紹介すると言ってくれたのでそういうところで経験を積んで大手メゾンを見るのは凄く勉強になる。拠点をどこにするのかはどこでも良いのですが仕組みは知るべきだと思う。彼が凄いと思っているメゾンがガリアーノならばガリアーノの生を見た方が良いし、それを見る事で一つの軸が出来る。僕もパリに行ってガリアーノやディオールを見て「うわ、これかぁ」って思った。世界レベルを知ることが出来るし自分の物差しを作った方が良い。そういったことをしたうえで「自分は何を出来るのか」ということを考えればいいと思う。それで日本に戻って実家のある千葉でやるというのも一つの手だと思うし、こじんまりでもいいから世界に発信できる何かをやって欲しいかなと個人的には思います。
ただ今回Collection of the Yearを獲り作品を作る為の賞金も貰い来年またITSで作品を発表出来る。言ってみれば一年の猶予期間をもらったわけだからその間に色々準備が出来ると思います。

西山:次はどんなコレクションを作った方が良いと思いますか?

坂部:今までの賞を獲った人の流れで言うとリアルクローズを作るのが流れ。

―前回賞を獲った人の作品はまた次の年注目されるんですか

坂部:注目はされにくいですね。ショーの為にやるものではなく売れるモノになってしまう。賞金を獲ったことにより売れるものを作ろうということでリアルクローズになってしまうから。

山縣:ただやってみたらそっちが慣れていないから弱く見えてしまう。だから僕は彼にはそこは「関係無いよ」という姿勢でやってもらいたい。もう一回大賞を獲るような感覚で。

坂部:次はITS#10で盛り上がることは間違いない。そこでグランプリを喰ってしまうくらいのインパクトを残して欲しいと思います。その後にパリに行けばいいと思う。規模の大きさにかかわらず良いものは見た方が良い。むしろ規模の小さいもので良いものを見れたら本当にラッキーだと思う。

山縣:ロンドンにいた時はそういうショーをたくさん見れた気がします。

坂部:そういう人達の方が距離が近い。そのうえでクリエイションだけの勝負で見せつけられるから凄さが残る。スペクタクル系は凄いけど距離があるから何となく自分の中で言い訳が出来てしまう。「金があるんだな」とか「良い演出家がいるんだな」とか。でも金の無いデザイナーがやると明らかに同じ土俵で戦っている人で「こんなに考えられるんだ」って凄く心に残る。

―そういう意味で言うとロンドンは毎シーズンのようにそういう人が出てきては消えていく

坂部:パリではないですよね。

―彼が賞を獲ったことにより今後日本の学校に注目が集まるということは考えられますか

坂部:それはないですね。そこまでになるにはまだ大分時間がかかると思います。

―ここのがっこうはなぜ今回アドバンスドコースをやらなかったのですか

山縣:人数が集まらなかったんです。アドベンチャーに名前を変えたんですけど「アドベンチャーって何?」って。だからもう一度アドバンスドに名前を戻して始めるつもりです。

―なぜそもそもアドベンチャーに変えたんですか

山縣:ファッションでアドベンチャーしたいなって。僕のやりたいことはそういうことだから。だけどコンペという目標も必要。そこで迷っていた。今回はアドベンチャーに振ってみたら思うように人が集まらなかった。その時は(ITSの)結果も出ていなかったし。アドバンスドは空気作りが凄く難しかった。

―教える側としてどこが難しかったですか

坂部:まずは結果が無い学校ということが前提です。そこに生徒を引っ張らなければいけない。

―でも2人は実績を残していますよね

坂部:例えば今回西山君が大賞を獲った。それで「ITSを目指します」とする。それで「これやらなかったら獲れないんだよ」って言ったらなんとなく信憑性はありますよね。でも一回目の時は「これやらなければITS通らない」と言っても、「やっても通らない」と思ってる人がいっぱいいる。そんなに厳しくやっても結局現実味がないという現実との狭間で迷い始めてしまう時がある。でもそれって生徒が弱いというよりも実績のない学校だとそういう問題はいつでも出てくることだと思う。厳しいことを言うと現実味がないって。

山縣:更にITSとか知っているしやってみたいとは思っているけど世界のコンペがどこまでのレベルかもわからないし、だからどこかでみんな「なにがITSだよ」ってなったりもするし、折れたりもする。今回凄くそれを感じた。

坂部:生徒と山縣君との間で板挟みでストレスでノイローゼみたいになって僕も蕁麻疹になってしまった。山縣君に怖い先生になるように言われていたから大変だった。僕らも一番最初だから教えながらも「本当に通るのかな」って不安があった。通さなければいけないけど現実的にはアントワープやセントマーチンズで何年も学んだ人が最終学年でやったりするコンペ、その中でここのがっこうはたった4ヶ月のコース、それも週一回という、そこで教える事はやっぱり難しかった。最初は「通ったら奇跡だけどそこを目指そう」だったけどやりはじめたらこっちも手を抜けないし。

―期間が少ないここのがっこうではなく自分達が教えている他の学校で受賞者を出そうとは思わなかったのですか

山縣:実はそれもやっていたんだけど出来なかった。自分が思うような空気感が作れない。

坂部:僕自身プライマリーコースにはそんなに興味はなかったのですが世界を目指すコースということで先生を是非引き受けたいと思いました。

―デザインはデザイナーが教えるべきだと思いますか

坂部:デザイナーで無くてもよいかもしれないけどクリエイターであるべきだと思います。

山縣:「この人クリエーションわかってて喋ってるのかな」とかはわかってしまう。創ったことがあるからこそ信憑性がある言葉って出てくると思うから。

坂部:日本はクリエイターが教えるデザインの授業がなかった。だからその延長でコンペもクリエイションで見るというよりは素材が良いとか技術が新しいとかパターンが凝っているとか点を付けやすいものの点数制度になったから学校側はクリエイションじゃなくなってしまった。

山縣:絵は上手い子はいっぱいいるけど「どこにファッション感があるの?」って。

坂部:ITSを体験して海外と日本で一番違うと思った点はなに?

西山:作品自体の雰囲気も全然違うなって思いましたね。クリエイションのレベルの部分もそうだし、やっぱりファッション性というのもそうだし、コレクションの勝負じゃないですか。でも日本にはそこがないからやっていったほうが良いと思いますね。

―専門学校時代、周りの人達のレベルは高かったと思いますか

西山:全く思いません。当時は自分のクリエイションもしっかりしてなかったので自分と比べることは出来ないのですが賞を獲っていた人がレベルが高かったとは思いません。

続く

Photo©Photo©Giovanni Giannoni

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