Interview

THIMISTER 2/2

“私のコレクションのほとんどはリアルクローズであり時代を超えて着ることが出来ます。10年後にカバーを取り外してみても普通に着ることが出来るモノを常に目指してきました。エイジレスでタイムレスと言うことはそれが良いピースだということです”

→THIMISTER INTERVIEW 1/2

―話は変わりますがあなたはイギリスのケンブリッジ大学を卒業していますがファッション業界に行こうと思ったのはなぜですか

私は勉強がとても得意な子だったのです。普通は18歳で高校生活を終えるのを私は16歳で終えたのです。ケンブリッジ大学で学ぶことは私の父が望んだことです。私は3人兄弟なのですが上の2人はそれが出来ず私は一番下だったので父にとっては私が最後のチャンスだったのです。だから私はケンブリッジに行きそこで学位を取得しました。でもそれは私のやりたいことではありませんでした。私は常にファッションを学びたいと思っていたのですました。ただ私は勉強をするのが好きなので、勉強すること自体は全く問題ではありません。
大人になった今でももし時間が許すのであれば学校に行き新しいことを学びたいと思っています。薬品についての勉強もしたいですしもっともっと学びたいことがあります。とても好奇心旺盛な人間なのです。生まれ変わるとしたら来世は医者になりたいですね。

―アントワープのアカデミーでの勉強はあなたにとってどのようなものでしたか

アカデミーではたくさんのことを学びました。私はそれまでずっとあまやかされて育ってきたのです。勉強も常に他の人より出来ていました。でもアカデミーにきて1年目は本当に大変な毎日でした。先生はとても厳格で学ばなければならないこともたくさんありましたし、アカデミーオブファインアーツなのでドローイングも出来なければいけません。アートのことも知らなければいけないし、ファッションだけをやればいいのではありません。1週間で何千ものスケッチを書きましたし、本当にタフな1年でした。ただその1年で学んだことは数えきれません。良い先生に出会い様々なことを教えてもらいました。私は幸運なことに若い先生から大分上の世代の先生まで全ての世代の先生から学ぶことが出来たのです。それはとても恵まれていましたね。アカデミーはとても良い学校でした。私にとっては全く新しい領域でした。もしあなたが新しいことをしたいならそれくらいのことを学ばなければいけません。デザイナーにとってdiscipline(鍛練)はとても重要です。

―これまでにたくさんのメゾンやブランドでデザインしてきましたが自分のブランドでやることとの違いはなんですか

全てのメゾンはそれぞれ違うワークフォームがありますしその役割も様々です。それぞれのメゾンで学ぶことはたくさんあります。同様に、メゾンもまた私たちから学ぶことがたくさんあります。今現在私は他のメゾンで働いていたのと同じようにThimisterの為に働いています。これはとてもおもしろいことです。例えば素材を見てこれはThimisterかThimisterじゃないかということで、私が好きか嫌いかではないということです。メゾンの精神があるのです。そして明確なビジョンがあります。デザインは勿論私のパーソナルの経験からきているものです。ただ今はメゾンとしてのThimisterとしてやっています。私だけがThimisterではないのです。

―色んなことに興味を持っているとおっしゃいましたがあなたはファッションデザイナーとしてだけではなくデコレーターとしても活躍していますよね

そうですね。でも私にとってファッションとデコレーターは一緒のことです。テクスチャーにカラー、プロポーション、カッティングそれにライト・・・・。私にとってライトはとても重要です。ライトによってどのように服が見えるのか、ライトの下でどのように洋服が動くのか。また、家の中をライトがどのように照らすのか。ライトというのは私にとってとても重要なのです。

―お気に入りのマテリアルはありますか

多分お気に入りのマテリアルはないと思います。もしそれがあったらきっとそればかり使っているでしょうね。ウールは色んな用途に使えるし、シルクもまた違った方法で使うことが出来る。でもお気に入りとは違います。
個人的にはほんとうにシンプルなプレーンの綿のシャツが好きです。それにネイビーのVネックのセーターも。それはずっと変わらないことです。

―自分がデザインした洋服も着たりするのですか

基本的にはあまり着ないですね。私が着るには少し歳を取り過ぎているし体重が・・・・(笑)
もし自分がもっとスリムな体型でもう少し若ければ着ているでしょうね。

―でも今あなたが着ているコートはThimisterのものですよね

そうですね。これはThimisterのものです。このコートは私でも入ったのです(笑)。でも今シーズンのコレクションは私には合いません。例えばシャツやシンプルなセーターなら着ることが出来ますがそれ以外はあまり着られません。私自身の着こなしはとても地味です。私はファッションのクリエイトはしますが、ファッションは着ません。私にとっての洋服はユニフォームに近いのかもしれません。50種類程度のシャツを持っていてそれを朝どれにしようかなって。それで終わりです。もう少し細かった時はそのシャツの上にVネックのニットも着ていましたね。

―他のデザイナーの洋服とかは買ったりされますか

若かった頃は買っていましたね。それに以前はBalenciagaのデザイナーもしていましたし他のブランドでも働いていましたし。15歳から20歳くらいの頃はほんとうにファッションに夢中でたくさんのデザイナーの洋服を買っていました。特にコムデギャルソンの洋服は数えきれないくらい買っていましたね。それに80年代のYohji Yamamotoの洋服も買っていましたし、ジルサンダーが手掛けたジルサンダーの洋服も買っていました。ただ私が若い頃に買っていたデザイナーの洋服はそれをサポートする為に買っていたのです。たくさん洋服を買っていましたが自分が着る為のモノではありません。若い才能あるデザイナー達をサポートする為、買うことが彼らの為になると思ってデザイナー達の洋服を買っていました。今はもうそういうことに費やすようなお金はありません。以前はとてもお金もちだったんですよ(笑)

―今でも膨大な数のコレクションは持っているんですか

持っていますよ。でも家が小さすぎますね。コレクションを貯めておくにはもっと大きい家が必要です。

―コレクションが終了したばかりですがもう次のコレクションのアイデアはあるのですか

アイデアは既にありますね。一つのコレクションを終え次の新しいコレクションを作る。常に興味深いことです。またチャレンジでもあります。一人子供を産み、また新しい子供を産むようなものです。

―これまでの自身のキャリアの中でのベストコレクションはどれですか

正直どれがベストコレクションかはわかりません。ただ私にとってとても重要で好きなコレクションは10年間のシグネチャーブランドの休養の後、披露したコレクションです。あのコレクションは私にとって色んな想いが入っているコレクションです。それ以前のThimisiterのコレクションはよりパーソナルなもので私自身の精神分析のようなものでした。バレンシアガにいた時は美しいカッティングを追求したコレクションを作っていました。今見てもそれは美しいと言えるでしょう。
思うに私のコレクションのほとんどはリアルクローズであり時代を超えて着ることが出来ます。10年後にカバーを取り外してみても普通に着ることが出来るモノを常に目指してきました。エイジレスでタイムレスと言うことはそれが良いピースだということです。

―私も今あなたの昔のコレクションを見ても未だに美しいと思います。それと同時にあなたの作品の中には何か建築的な要素を感じるものも多いと思います

そうですね、私が良いと思ってデザインしてきたものは今も美しく、そして着られると考えています。ストラクチャー(構造)というものは建築のようなものです。シンプルに見えてもとても難しいものです。パターンは自分でもしますが他のスタッフもします。Thimisterの作品にはシームがない洋服やバイアス使いの作品も非常に多いです。

―モノ作りの過程について聞かせて頂けますか

ドローイングして作って、またドローイングしてその繰り返しですね。色んな過程のミックスです。ただそれは毎シーズン違います。ドローイングをより重視する時もあれば今シーズンのようにドレーピングやカッティングを重視する時もあります。

―あなたにとってファッションとはなんですか

私の一部分ですね。小さい頃からそれをやりたいと望んでいましたしそれを今でもやっています。ファッションのことを忘れたいと思ったことも、リタイアしたいと考えたことも何度かありますが結局続けています。私にとってのファッションとは“自由”なんです。私自身を表現する方法でもあるし、他の人達と共有する方法でもある、そしてチームを維持する手段でもあります。チーム、ファミリー、友人、そして私が生きている世界そのものです。ファッションをすることは社会の中で生きていく為の私のほんの小さな責任でもあります。

―ファッションデザイナーとしている為に最も重要な要素とはなんだと思いますか

しっかりとした考えを持ち、自分自身の伝えたいことを表現することだと思います。

Interview & Text:Masaki Takida Portrait:Ayako Masunaga

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