Interview

JUN OKAMOTO 時代に寄り添うクリエーション 3/4

一過性のものではなく思い出に残るものを。そういう感覚を得られる服作りをしたいと思っています

→JUN OKAMOTO 時代に寄り添うクリエーション 1/4
→JUN OKAMOTO 時代に寄り添うクリエーション 2/4

―結局日本に帰ってくるきっかけは何だったのですか?

きっかけは日本で仕事ができるようになってきたことに加えて、東京をおもしろそうだと思うようになったことですね。ビジネス的にパリにいる理由が無くなったこともあると思いますが。それで2010年に帰ってきました。けどそのときも前もって考えてた訳ではなく、南仏に旅行中に急に日本に帰ろうと思って、その1ヵ月後には日本にいました。本当に何となくですね。

―東京のどこに興味を持たれたのですか?

言葉に出したプロジェクトなりが前進しやすいと感じます。リアルに動き出す感覚というものが伝わってきて、やはり東京っておもしろいなと。パリにはそういう感覚はないと思います。特にフリーランスでデザイナーやっている人には。今回のパルコの出資の件もそうですが、パルコの代表の方とお話する機会のようなことはパリにいる頃は考えられませんでした。
ただパリで自分のアイデンティティーの全てが形成されたといっても過言ではない、本を読むようになったのもパリに行ってからですし、音楽を聞く事、料理をする事や、お酒を楽しむ事も、パリのお陰だと思います。

―ご自身でもそういった違いを実感されるものなんでしょうか?

誰でも海外に行けば変わると思います。海外に行くことで日本、フランスの2つの常識が必要になりますし、より多角的な視点で見れるようにはなると思います。

―パリと東京でファッションに違いはありますか?

東京にそこまで詳しくないですが、東京は何でもあるような気がします。ただ気がするという感じで、蓋を開けるとどこまであるかという感覚です。

―日本に帰ってきて素材の選び方や使い方にも変化はありましたか?

変わりましたね。まず1つはポリエステルでもシルクに負けないような生地を作ったり出来たりする、日本の素材技術の高さがあります。あとは日本では展示会や取引先での受注会を通して、直接個人のお客さんに接する機会が多いのですが、そういう場で聞かれることは女性の方は特に洗えるかや、肌触りなど、やはり服っていうのは1回着て終わりではないということだと感じたんです。取り扱いやすさという視点も素材選びで加えるようになりました。

―デザインの面では特に変化はありませんか?

特には無いと思います。ドレープの出し方や生地の落ち感の具合などの感覚はパリにいた時から変わっていないと思います。

―自身のアーカイブを見直すこともあるのでしょうか?

あまりないですね。ただパリにいるときは写真集の1ページに出てくるような場面をイメージして洋服のデザインをしていました、なので今よりもはるかに現実離れしていたというか着易い服ではなかったのかもしれません。今はよりクラフト的な作りになってきていると思います。ここ最近は詩を服に落とし込むような作り方をしているのですがそのようなことを続けていると、またどんどん現実離れしていくようになってしまうかもしれないなという不安はあります。

―2010年にはJUN OKAMOTO初となるショップが熊本にオープンしました。

これから楽しめる選択肢が1つ増えたということが今の心境です。今はまだ難しいと思いますが今後は東京でもショップを出せたらと思います。

―そもそもどうして熊本でオンリーショップをやろうと思ったのですか?

親のお店の隣が空き物件になったからというのがきっかけです。それと、オーダーメイドのスタイルを受け継ぎたかったというのが大きいです。例えば、量産向けの縫製工場みたいに裁断機があるわけでもなく、1点1点型紙をあてながら限られた生地の要尺のなかで裁断するというのが、オーダーメイドのやり方で、JUN OKAMOTOが今より大きくなったとしても量産をするという事で実家のシステムを使うことは難しい。でもオーダーの店を出すことによりその技術を守っていく事が出来る。自分としては実家の店も残していきたいという思いもありますので良い機会だと思いお店を出すことにしました。

―wallflower by jun okamotoではセミオーダーが出来るそうですがどこまで自由に選べるのでしょうか?

過去のアーカイブのトワルを置き、それを見て生地から細かいディテールについて相談していくという感じです。例えば、袖を伸ばしたり、肩幅を詰めたり、丈を伸ばしたり、襟の型を変える事も出来ます。

―wallflowerについて「今の時代に合った洋服を作る場所」と書いてありましたがそれはどういう意味なのでしょうか。

洋服を買うという事においては、高いものからもの凄く安いものまで限りなく幅が広がったと思います。と、同時に選ぶことだけが洋服を買うという事になってきていると思う。スタイリングする感覚はどんどん進化していると思いますが、日本でも着物の時代から生地を選ぶという文化があったように、自分で想像するという感覚はどんどん退化していってると思います。wallflowerという場所は、自分自身で出来上がっていないものを想像し、作り出せるところ、それともうひとつ大事なのが、出来上がるまでに時間(10日前後)がかかるという点です。これによって想像力やワクワク感などが今までの『買う』に『待つ』という感情が加わる、文章もそうですが、服を買って頂いたときに、「あのときのブログの文章のことなんだ」と気付かせることがあると、より楽しいと思います。一過性のものではなく思い出に残るものを。そういう感覚を得られる服作りをしたいと思っています。

―ブログにも詩のようなものを掲載したり、コレクションも詩から着想を得たものだったりしますが文章を書くことは好きなんですか?

文章を書くことは好きですね。ブログを始める以前に熊本のフリーペーパーで連載をしていたことがあって、当初はパリのおしゃれ日記みたいなものを書いてくださいとお願いされて書いていたのですが、途中から詩のようなテキストに変わってしまいました。でも詩のようなものを書き始めたのはパリで酒に浸っていた頃からです。

―文章を書くことがデザインのウォーミングアップとブログでも書かれていました。

そうですね。特に最近はその傾向が強いです。テーマまでいかないまでもトピックとして使用したり、書いているうちにアイディアが浮かんできたりします。今シーズンからはどんどん詩が前に出てきていて、今後もその傾向になると思っています。元々は最後にテーマを決めていました。テーマは人に伝えるために必要なことだとは思っていましたから。

―そういうことを書くことによってブログを読んでいる読者に次のテーマであったり、コンセプトがばれてしまうこともあると思いますが?

それも面白いと思います。「次こういうものを発表しそうだな」という推測や、「ああこれがブログで書いていた内容のものか」という思い出す行為も可能になります。見てくださる方の想像力を掻き立てるというか。そこまで深く読んで頂けると嬉しいですが。

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