Interview

Glenn Martens

2008年にアントワープの王立芸術アカデミーを主席で卒業した期待の若手ウィメンズウェアデザイナー、Glenn MartensがAW12パリファッションウィーク期間中の2月に記念すべき初のシグネチャーコレクションを発表した。

歴史的に芸術都市であったベルギーの故郷、ブルッへをインスピレーションに、コレクションは革新的なロングパネリングの使用に象徴される建築的なカットと垂直的なラインで構成され、その結果構築的なエレガンスを表現すると共に、スリットやレイヤーが各ガーメントにデイリーウェアとしての快適なフィットも実現している。

テーラリングとスポーティな要素の繊細なクロスオーバーにより、コレクションは視覚に印象付けると同時に身体的にも機能的、またシックであると同時にガーリーな仕上がりになっている。そこにいるのは、知的で成熟したレディから思春期のやんちゃなおてんば娘まで、様々な異なる表情を持つモダンでミニマリストな女性。彼女はそっとエモーショナルで、密かに一途なアティチュードを有しているように見える。

パリを拠点に活動するベルギー人デザイナーの彼にインタビューを行い、コレクションのアイディアと共に彼のバックグラウンド、現在の生活について尋ねた。

―どのようにしてファッションに興味を持って、やがてはアントワープの王立芸術アカデミーに進むまでに至ったのですか?

ファッションには常に興味を持っていたのだけど、ブルッへの小さな田舎町で育ったので、ファッションを実際に勉強できる環境ではなかったんだ。だから高校を卒業後、インテリア・アーキテクチャの分野へ進んだ。そして21歳で学校を卒業したのだけど、働く人々の世界に入って行くにはまだ若すぎたから、他に何か勉強できないか探してみたんだ。

その時までにアントワープのアカデミーのことは聞いたことがあったから、よし挑戦してみようと思って、入学試験を受けたら70人の合格者の一人に入ることができて、ほんとに行くことにしたんだ!でもしっかり考えていたわけではなかったから、初めてのパターンメイキングの授業のときソーイングマシーンの前に座っている自分が嫌になったりもしたよ。自分が描いたものを実際に縫わなきゃいけないっていうことに気付いてなかったんだ、、、それでも今まで、それが僕の仕事の一つとして続いている。今に至るまでに、実際に服を製作するということがこの仕事をする上で一番好きなことになったよ。ボリュームを探し求めたり、模型をつくったり、トワルを縫ったり、、、そのような作業が僕の気持ちを楽にしてくれるし、落ち着かせてくれるんだ。

―アカデミーでの生活や、Jean-Paul GaultierやYohan Serfaty、最近ではBruno Pietersといったファッションデザイナーのアシスタントの経験からは何を得ましたか?

アカデミーの勉強は本当に刺激的な経験だったよ!ハイレベルで、タフな課題。4年間ですることはただ学校へ行って、残りの時間は家で自分のプロジェクトを進めること。クラスメイトの仲間は世界中から集まった(生徒の90%は海外から来ているんだ)豪華でカラフル、そしてクリエイティブな精鋭達。アカデミーを終える頃には本当に皆がファミリーみたいになるんだ。プレッシャーもきつくて、皆時々少し気がおかしくなると思うけどね。でもアカデミーを終えた時はひるむことはもう何もないように思えたよ。

GaultierやSerfaty、それに「Bruno Pieters for Weekday」では、クチュールから小さなデザイナー、大量生産(WeekdayはH&Mの会社の一部)まで、ビジネスの全てのステップを味わうことができたよ。どれも全ておもしろくてエキサイティングで、自身のレーベルをスタートするのにパーフェクトで不可欠な準備期間だったね。

―今回のファーストコレクションに関して、メインインスピレーションは歴史的に芸術都市であった故郷のブルッへ、及びそこのゴシック建築だと聞きました。そのようなアーティスティックで歴史的な要素をどのようにモダンでミニマルな美学をもった自身のコレクションに応用したのでしょうか?

今回のデビューコレクションはこれから続いて行くレーベルの最初のコレクションだったので、今現在と未来へ向けて、レーベルの美学を具現化しようとしたんだ。僕自身のパーソナルな世界を解剖して、好きなものや心を動かされるものを研究してみると、音楽、アート、映画など違ったプラットフォームでも好きなもの全てが、育った街への僕の個人的な見解に結びついているという結論に辿り着いたんだ。

ブルッへはルネサンス時代の初めに港へ続く川に土砂が堆積したことで衰退してしまった、中世の都市の独特の雰囲気を持っている。その時に経済もだめになってしまって、街の成長は止まってしまったけれど、今は大衆観光のホットスポットとして再開発された小さな田舎街になっているよ。

そのような2つの世界のクリンチが魅力的なんだ。年中オープンしているクリスマスショップや、幾つものチョコレートショップ、ネオンライトなどがあって、その全てが街のゴシック建築の厳格で優美なシルエットに溶け込んでいる。すごくシュルレアルな世界だよ。

―コレクションの中で特徴的な、垂直のカットやロングパネリングに潜むアイデアは何なのでしょうか?

インテリア・アーキテクトの一人として、僕は常に建築、建造物や構築物への愛を作品に反映させていると思うんだ。そして服そのものにもね。垂直性は滑らかなゴシック大聖堂に直接関係しているんだよ。そのような視覚的なカットがシルエットを引き延ばして、見る人の目線をそのピースを着ている女性のスマイルへと導くことができる。視覚的な美しさのためだけにラインがある訳ではないんだ。全てのシームやダーツは、各ガーメントを構築するのに不可欠で、重要なそれぞれのストーリーを持っているんだよ。

―コレクションでは、テイラードアイテムとスポーティなアイテム、シックなカラーとガーリーなカラー、ハイヒールとプラットフォームスニーカーといった、相反する要素のコントラストとクロスオーバーが表れています。僕が思うには、コレクションの中の女性は、「シックさを備えた、現代的で知的なトムボーイ(おてんば娘)」というみたいに見えたのですが、、、コレクションに反映させたフェミニニティや理想の女性像はどのようなものなのでしょうか?

そのような2面性は僕がさっき話した2つの世界のクリンチを映し出しているんだ。更に、僕はこのコレクションに全ての女性を反映させようとしてきたんだ。各ピースにはそれぞれ秘密があって、コレクションを着る人に適合させる方法を沢山用意してあるんだよ。体を心地よく撫でるように、隠れたスリットやごく薄いレイヤーが施してあって、、、着用した人は少しずつそのピースについて発見して行くことになる。この点においても、コレクションは全ての女性に関連付けることができると思うよ、、、秘密を持った女性、そう、女性は皆秘密を持っているからね!

―僕はまだコレクションを実際に触れてはいないのですが、写真ではわからないガーメントの秘密の工夫を何か教えてもらえますか?

スカートとドレスはじっくり研究したプリーツを施してできているんだ。ベルトを上げ下げすることで、ヒップやウエストラインを強調しながらそのピースを自分仕様にすることができる。他のピースではシルエットを解放したり滑らかにするジップがあったり、レイヤーとスリーブが取り外せたり、、、常にあなた自身のテイストに合わせることができるよ。

―まだ今回がファーストコレクションですが、自身のデザイン美学やシグネチャースタイルはどのようなものだと思いますか?それと、自身ではとてもベルギーっぽい、アントワープっぽいデザイナーだと思いますか?

ある一定のシグネチャースタイルは今回展開できたと思うよ。もちろん成長を止めるデザイナーはいないけれど、僕のメイン・コードは常にエレガンスとフェミニニティで、、、それらは建築的なカットとシュルレアルなタッチを通して表現される。

ジェファーソン・ハック(Dazed&Confused)が僕のアカデミーの卒業コレクションについて、その年で最も「ベルギーっぽい」デザイナーだと書いてくれたよ。レーベルの立ち上げ以降、またそう言われることがとても多いから、僕の作品を形容するひとつの表現なのだろうね。

―毎日どのような服を着て、どんな音楽を聴いていますか?

僕はこの世界でサバイブするために頑張っている若手デザイナーの一人だからね。今のところ僕のワードローブは安いヴィンテージと昔の仕事でもらったデザイナーピースの組み合わせで成り立っているよ。毎日16時間働いたりもするから、自分のルックスに構っていられないんだ。ミーティングに出るとき以外は、動きやすいジーンズとセーターで走り回ってる僕を見かけることになると思うよ。

音楽のテイストは幅広くて、クラシックからエレクトロまで切り替えて聞くね。でも、僕のitunesの「トップ25モストプレイ」リストは、Archive、The Black Keys、Blonde Redhead、Light Asylum、Koudlam、フランスのバロック音楽(リュリ)、そして何人かのシンガーソングライター(Gerges BrassensやBarbara)だね。

―誰かすごく好きなデザイナーはいますか?もしそうなら理由も教えてください。

すごいと思うデザイナーは沢山いて、それぞれに違った理由があるよ。アイデンティティを持っていて、自身のパーソナルな方法でクラフトにフレッシュさを持ち込んでいる限り、ね。プロポーションを一新したRaf Simons、Dries Van NotenやProenza Schoulerのカラーとマテリアルの使い方、エレガントなPilattiのYSLとか、、、

―このコレクションは絶対的に女性へ向けたものなのでしょうか、それとも男性も着ることができるユニセックス的なものだと思いますか?また将来メンズウェアやよりユニセックスなルックをしていくことに興味はありますか?個人的には見てみたいと思っています。

このコレクションは女性に向けられたものだよ。でも男性からも沢山のパーソナルオーダーを受けて、グレーのスカートでさえ男性にも魅力的みたいなんだ。過去の仕事では常にメンズとウィメンズの両方をデザインしてきたし、昔の男性用の作品もうまくいっていたし、本当に楽しんでやっていたよ。いつかまた始める機会を得たいと思うね、、、良きタイミングでね。

HP:http://www.glennmartens.com/

Interview, Text & Translation:Yasuyuki Asano

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