Interview

Kenji Kawasumi 2/5

セントマMA時代 ―「僕はもう、次落とされたら2年生に上がれないという状況だったのですが、ルイーズは『これぞセントマーチン!』と言って評価してくれました」

→Kenji Kawasumi 1/5 卒業コレクション

―セントマのMAでは2年間ずっと、卒業コレクションに向けた活動をしていたのですか?

基本的にはそうなのですが、人によっては一年生の最後のプレコレクションで、これでOKとかこれはダメだとか判定されるので、ガラッと変わっちゃう人もいます。例えば今回賞をとったCraig Greenも、もともとは可愛い感じのウィメンズをつくってたのですが、卒コレでは全然違う感じになっていました。

―けんじさんはそのプレコレクションの時から今回のアイデアを使っていたのですか?

そうです。僕は、MA初めの1年間にとにかく模索しすぎていて、次に評価がもらえなかったら本当にヤバいという状況になってしまって、色々な人に助けてもらいながら何とかこのピンクのピースを提出したら、「すごいいいじゃん!」っていう反応をもらったんです。笑
それまでは、「君はアイデアをコロコロ変えて、いつも最後まで発展できていない。それに学校もこないし。」と言われてたのですが。笑 一年時は基本的にはルイーズ(セントマーチンのMA Fashionのトップ教授)ではなく、他のチューターが作品を見てルイーズに報告するという感じだったのですが、初めてのルイーズとのチュートリアルのとき、「あなたね、一週間ですぐにアイデアをコロコロ変えるのは、、」って言われましたし。笑

―それは怖いですね。笑

ピースに加えフェルトのレイヤーのサンプルなど、とにかく沢山のものを持ってチュートリアルにいきました。僕はもう、次落とされたら2年生に上がれないという状況だったのですが、ルイーズは「これぞセントマーチン!」と言って評価してくれました。笑 アイデアを変えて短い期間で急にいいものをつくるっていうのもセントマーチンらしいところでしょうか。
それで僕も舞い上がって、よしもっとおもしろいものをつくろう!と意気込んだのです。

―卒コレに向けてスイッチが入ったのですね。

でも、違う方向に頑張ってしまったんです。笑 僕の中では、テキスタイルの方向性は決まったので、次は服のシルエットを模索しようと思って、前半はずっと色々なジャケットやコートを試したりしていたのですが、ほとんどボツになりました。笑
この素材で、(卒コレで実際に披露したものとは違う)普通のジャケットとかも試したのですが、ルイーズ的には、初めに提出したピンクのピースの色違いとか、フェルトのレイヤーの素材を使ってピースをつくるとか、実際の生地でコレクションを製作し始めていいよっていうことだったみたいで。僕はもう一歩戻って、シルエットをもう一度考えてしまっていたんです。

―実際の卒コレの作品は、服ではありますが、クラフトっぽさが出たフォルムになっていますが、より服っぽいシルエットも模索していたのですね。

服の形も模索していましたし、他にもこのテキスタイルで何ができるか色々と模索しました。

―それでも、結局はじめのままがいいと。

そうですね、結局半年くらい無駄にしました。笑 皆そういう感じだとは思いますが。

―実際の製作期間はどれくらいですか?いつ本格的に製作をスタートしましたか?

年末年始くらいにスタートしたので、2ヶ月間くらいですね。

―その後卒業ショーを迎えたわけですが、あれはMAの2年生の生徒全員がショーをするのですか?

そういうわけではないです。2年生は28人いたのですが、実際にショーに出たのは20人です。

―どういう8人がショーを迎えられなかったのですか?

最初のMA入学時には40人いて、その中で2年生に進学できたのが28人なので、その時点でもう既に絞られた生徒達といえるのですが、8人のうち半分はストレスで自分から辞めてしまったり、ルイーズとうまくいかなくて来なくなったり。あとの生徒は作品を提出しても、ルイーズに評価をもらえなかったという感じですね。

―なるほど、2年生にいくのは何人、ショーに出るのは何人、といったように定員が決まっている訳ではないのですね。そして、在学中はやはり相当なプレッシャーがあるのですね。

精神的にきますね。頑張って頑張って、よしこれはいけるぞって思って提出しても、ルイーズにめちゃくちゃに言われたりするので。ほんとに嫌になることもあります。笑 2年進学時に落ちた生徒はもう一度1年生をするか、辞めるかなんです。ルイーズは「もう一度一年生をするか、国に帰るか」っていいますが。笑

―笑 ショーの順番などもルイーズが決めたのですか?

そうです、全部彼女が判断していきます。

―けんじさんは真ん中くらいでしたよね?

そうです、おそらく僕の作品は全体から見て変わってたので、アクセントになったのかと思います。一番目と、最後の作品のふたりは評価が高かったですね。最後の彼は、オーガナイズがうまく、前から良い作品を作っていて今回も15ルック以上の作品をつくってましたし、最初の彼は特にアーティスティックでエネルギッシュで、ルイーズも気に入っていました。最近セントマのMAがまたそういう感じになってきているんです。少し前までは全体的にもっとミニマルだったのですが、最近はカラフルで、テキスタイル重視のものが増えているように思います。そういう強いものを始めにバンと持ってきて、ちょっとミニマルな作品があったりして、それから僕の何でできているかわからないものをポンと持ってきてという感じだと思います。見ていた友達も、「けんじのときは皆ざわついていた」って言っていましたし。笑

―笑 でもそれは良いざわめきだったのではないでしょうか。

そうだと良いのですが、主には作品を謎に思ったざわめきだと思います。

―確かに、僕が初めけんじさんの作品のランウェイ写真を見たとき、何でできているのかわからなかったです。マテリアルがスポンジとかフェルトだとは全然思わなくて、紙粘土的な重くて堅いものでできているのかなと思っていたので、実際手に取って見てたときにすごく驚きました。このようなマテリアルの使い方をしているデザイナーってあまりいないですよね?

いないと思いますね。僕は削れるかどうかしか考えていなかったですが。 笑

―素材使いという点では、ショーの20人のなかでも一番斬新だったのではないでしょうか?

斬新ではあったと思いますし、見るのにはおもしろかったのではないかと思います。
あとMAでの専攻はニットウェアで、実は途中までウィメンズのつもりでつくっていたのですが、ある日ルイーズに「ケンジ、あなたが着てみて」って言われて。笑 それからメンズとウィメンズ半々で考えていたのですが、結局全てメンズで発表しました。

―そうだったんですね。実際、ショーを終えてメンズでよかったと思いましたか?

今まで正直メンズウェアを避けていて、、それはメンズをデザインするとしたら自分が着ることのみを考えてしまって、普通の古着みたいになってしまうんです。ウィメンズだと自分の体から離れるぶん、おもしろいアイデアができる。
でも最終的にMAでメンズができたことで、そういう僕の中のメンズとウィメンズのわだかまりみたいなものが少しなくなったのかなと思います。

―初めからメンズって決めていたら、こういう作品にはならなかったかもしれないですね。

そうかもしれないです。それに可愛いっていうのが逆にメンズのほうが映えたかなと。ウィメンズだったら、例えばヴィトンなどハイブランドの完成度でやれば素敵ですが、僕の作品の感じだとウィメンズにしたら安っぽくなったかもしれないなと思います。

―そう思うと、やっぱりルイーズは厳しくても、すごく適切なアドバイスをくれていたんですね。

そうですね。もらったアドバイスはほとんど全て正しかったと思います。

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