Interview

writtenafterwards collection #07 THE SEVEN GODS -clothes from chaos- 1/2

2012年10月20日writtenafterwardsによるおよそ2年半振りのランウェイショーが宮下公園にて開催される。今回のテーマは”THE SEVEN GODS-clothes from chaos-”昨年の東京オペラシティギャラリーでの展示から始まった物語(「第一章 new world order 動物たちの恩返し」、神戸ファッション美術館で発表した「第二章 the human’s no clothes はだかのアダム」、5月5日VACANTにて発表された「第三章 love affair 秘密の浦島アダム太郎」)の最終章となる。

今回のインタビューは「第三章 love affair 秘密の浦島アダム太郎」直後に行われたインタビューを一回目、ランウェイショーを一週間後に控えメールにて行ったインタビューの二回に分けて掲載する。

―まず最初にオペラシティ、神戸ファッション美術館、そして5月5日にVACANTで行われたアダムとイブの物語がうまれたきっかけを教えてください。

神々のファッションショー(Collection#05)をやった時に初めてそういうイメージが浮かんだんです。そこで神様という登場人物が出て来て、罪と罰にも神様が出て来た。その次に2011年の5月5日に秘密のファッションショーというファッションショーを行いました。その時も神様がお客さんとして会場に来て、逆に通常のご来場者がランウェーを歩くファッションショーをやりました。  

そのショーは震災から1ヶ月半くらいで考えて行なったものです。ファッションはどうすれば良いのか、世の中的にもフラジャイルな中でファッションで何が出来るかと考えた結果出て来たアイデア、それを一ヶ月ちょっとでまとめたのがあのショーでした。こどもの日に元々何かやるということは決めていたのですが、震災前は何か少し違うことを考えていたと思います。ですが、 やはり何か変えなきゃという気持ちになりました。

そんな時にオペラシティの話をもらったんです。
震災があり日本もフラジャイルでぐらぐらしている、そんな時にもう一度ファッション全体のシステムや状況を最初から紐解き、ファッションの歴史そのものを勝手にもう一度描いてみたらどうなんだろうかという発想になったんです。
聖書に出ているエデンの話ではアダムが禁断の果実を食べ、そこから衣服を着始めました。一番最初に人間が自分自身の意志で行なった行為が衣服を着るということ、そこと噛み合わせて罪をおかすというところからのスタートでストーリーを作っていく。以前からやっていた神々のファッションショーの続き的な意味合いも含め創世記やアダムとイブの話を引用し、又それだけではなく、 日本の民話、神話を合体させてみました。

―それを服という形ではなくマネキンや剥製等を用いて表現したのはなぜでしょうか?

オペラシティでの展示では最初から服を展示しなくても良い、美術館にありがちな服をただ並べるような展示は求めないと言われていました。他の人は展示と同時にコレクションを作らなければいけませんが、僕の場合はあれがコレクションの発表の場でもあったので、全く新しいものをみせようと。僕にとっては見せる場所がオペラシティギャラリーというのは絶好の場所でした。

経済を考えた時に中心軸としてお金が出て来ます。そして衣服の素材は布です。お金と布の歴史を紐解き、それぞれの歴史を巡ってみると、ある関連性が見えて来ます。それは昔は布がお金の役割をしていた時期がありました。貨幣や紙幣の“弊”という言葉は、神に供える布帛という意味もあり、布は交換する上でいつでも信頼出来る一定の高価なものとしての役割をしてました。そこで僕は0点コレクションとか0というものを価値ある存在として描いていたので0の価値を持つ紙幣を布で作ってみたらどうかと思いました。そこからスタートして価値ある布とわかりやすく価値が無い紙幣「0円紙幣と合体させて最終的に価値のあるものにしたいと思いました。お金を題材にした布が作りたいと思ったんです。

そこで創世記をから引用したストーリーを考え、マネキンや剝製を使ったインスタレーションが最も表現に適していると思ったからです。

―#05”神々のファッションショー”や#04 “0点コレクション”等過去のコレクションでも世相を反映させたコレクションを作ってきましたが今回も世の中の空気を反映させているんですね。

それは凄く反映させています。作っている最中を見せる、それが現代版の鶴の恩返しです。アダムが覗いてしまい、そこでは鶴ではなくキジが生地のお金を作っていた。そのお金を作る途中の過程を見せるというのがオペラシティでの展示です。

―では全てがファッションショーへの向けての過程だったいうことですね

そうです。オペラシティからスタートしてファッションショーへ続く過程を3章にわたりインスタレーション形式で見せたんです。オペラシティでは「new world order-動物たちの恩返し-」をテーマに、アダムとイブの最初のストーリーを作り上げた。神戸ファッション美術館では「the human’s no clothesはだかのアダム」をテーマに、”洞窟の中でアダムが見ていて先にあるものは”というのを裸の王様のストーリーとかけあわせて、アダムがそこで初めて服を見るというストーリーを作った。歴史衣装を並べてそこに裸の王様がいる。アダムが初めてそこで人々の装いを見た。装う欲望にかられたアダムは一人旅に出る。その流れで今年の5月5日は「love affair-秘密の浦島アダム太郎」をテーマに、装いを求める旅に出たアダムが海の楽園へ。だけど旅に出ているのに、目的を忘れつい浮気しちゃう。更に脱線してしまったというのが第3章。すべての話が脱線しながらも続いているんです。

―アダムは浮気をしていました。その浮気が意味するものはなんだったのでしょうか?

それはファッションは浮気のようなものでもあるからです。欲望にまみれているという。ファッションは常に脱線する可能性を秘めています。
曲がりくねってちょっとのりで考えた結果ファッションにたどり着くまでの過程を見せる為に、カウンターとなる要素をいれました。

―それは自分自身のファッション活動や理念を投影しているものでもあるのでしょうか。ファッション界のはみだしものというか。

ファッションそのものが脱線的というか人間そのものがそういう生き物でもありますよね。それをある種ユーモアを用いて描いている。目的を忘れてそっちに行っちゃったみたいな。

―そのファッションショーに続くストーリーは最初から全部考えていたのでしょうか?

そこまでは考えていませんでした。ただ最終的に服にするということは決めていましたし、10月に向けて少しずつ見せていこうと思っていました。でもその中で計画通りにいかない部分もいろいろ出てくるので臨機応変にやらなければいけない。のりでやっている部分もあります。

―オペラシティ、神戸ファッション美術館, VACANTの3部作すべてを見ている人は少ない。5月5日の展示だけ見た人には正直伝わりづらいものだったと思うのですがそれも敢えての展示だったのでしょうか?

そうですね、わからないと思います。
わからないけどその意味不明感をちょっと楽しんでもらえればいいかなと。はい?みたいな。あえてわざと脱線させる。僕がいつもやっていることというのはファッションの脱線なんだけどそれをまた更に僕の気分的にも脱線させてしまった。

―でもあの展示もwrittenafterwardsとしてのファッションの活動の一環なんですよね?

それは変わりません。

―でも普通の人からしたらあれはファッションではないですよね。

ファッションではないですね。
ほとんどの人が意味不明って言っていました。
しかし最低限、意味不明な中での失笑みたいなそういう感じの空気が作れればいいかなと思っていました。

―同時に開催されていたドミノ倒しはどんな意味があったのでしょうか?

ドミノ倒しとアダムとイブの物語は全くの別物です。ドミノ写真展は昨年の5月5日にVACANTでやったことの種明かしです。ショーを行ったのは2011年5月5日ですが写真には12.5.5と刻印されています。1年後の未来を撮った写真。12S/S(5/5)も意味しているんです。

ドミノ倒しにしたのは秘密のショーに500人くらいきて500枚ほどの写真を撮った。それをどうやって見せようかとなったときに連なる行列、自分の中ではファッションというのは行列というイメージがあります。それと行列のようなドミノの連なるイメージと掛け合わせたものです。
もう一つドミノにしたのには理由があって今まで写真の歴史の中でこういうような展示方法はなかったと思います。写真のフォーマットは今まで美術館に並べることくらいしか出来なかった。それをティルマンス(Wolfgang Tillmans)が2000年くらいにようやく壊していった。ドミノ倒しはファッション写真の展示の方法としての提案という意味も入っている。そういうのを知っている人からしたら面白いって言われるけどそういうのを知らない人からしたら全然面白くないかもですね、見えずらいですし。。(失笑)
写真のコンテンポラリーフォトの歴史の中でどういう風に展示するかというのは大事な文脈なんだけどそこをちょっとやってる。意外に保守的だから、 そこを自分流に表現してみようかと。

―次回のコレクションのイメージはもう出来ているのですか?

ありますね。アダムとイブの創世記の話と共にファッションの歴史をもう一度作り直したい。僕が勝手に解釈して作り直すんです。

―それが現在のファッションシステムに対するwrittenafterwardsなりの答えなんでしょうか?

そんな大それたものではありません。僕がこのファッションの歴史を作り上げていく中で一番見せたいものは”装いの力”です。

―洋服をこれまでなかなか作ってこなかったのに装いの力ですか。次回のコレクションでは洋服を作るのでしょうか?

作ります。でも僕しか出来ないこと、writtenafterwardsでしか出来ないことをそこでは絶対に見せようと思っています。

―今なぜファッションヒストリーを作る必要があったのでしょうか?

ファッションを俯瞰出来る場所を作りたいというのが理由です。現実を俯瞰するために非現実的な物語を作り、客観性を持たせたかったです。それはある種絵本みたいなもの。絵本に現代に対するメタファーを入れた、おかしな話ではあるんだけど現代に繋がっていたり現実と繋がっていたりする。

―10月といえば東京コレクション期間中での発表ですよね。過去数年はコレクション期間を避けて新作を発表してきましたが今回は敢えてそこに合わせて発表する意味とはなんなのでしょうか?

やっぱり僕はファッションの人に見てもらいたい。ちゃんとした人達にちゃんとした日程で。ファッションを好きな人が僕は凄く好き。だからそういう人に見てもらいたいというのは凄くある。一応そこのフィールドで勝負していますし服を作る気持ちも全然ありますし、僕は洋服も凄く好きなので。そのフィールドでやりたい、勝負したいという気持ちは常にあります。

―では罪と罰のコレクション以降、この2年という期間洋服という形で新作を発表してこなかった理由はなんだったのでしょうか?

そこには色んな理由と感情が絡まっています。罪と罰を終えて最初は凄く落ち込んだ。自分的に迷いがあった。その迷いを解消したいというのが凄くあり、深く考えていた。でもそれは服を作らないことに対しての疑問ではない。何か中途半端な気持ちがもやもやしていたんです。
僕は学生の頃からセントマーチンズの卒業コレクションにアンデルセンの「裸の王様」
をテーマに制作したり、洋服なのに裸とか、何も作らないというのも最初からベースとしてあった。それはなぜかというと、ファッションは服を作るということが全ての答えだと思い込むことに何か違和感を感じていた。服がなければファッションが生まれないとは言えません。洋服がこれだけありふれている中でファッションの役割とはなんなんだろうか。そういう気持ちがある中で自分たちはどうするべきなんだろうかというのを僕らの学生時代の頃からみんな感じている感情なんじゃないかと思っていた。その葛藤の中で、だけど服は好きだし服作りしている人は素晴らしいと思っているし、尊敬している。そういう感情の中でファッションデザイナーがやることを服作りだけでとどめるということが100%正解かというとそうではないという状況をもっと作れれば良いと思っている。だからこそそこの立ち位置で僕はやってみたいなと。

―ファッションデザイナーがやれることは服をデザインすること以外にもたくさんあると。

そうですね。服を必ずしも作らなくてもいいと思った時に「今は服はつくりません」と言えた方が人間の心理的には本当は自然で健康的だったりする。でもそれをビジネスシステムのジレンマみたいに絶対に服を作らなければいけないという感じになってしまっている。例えば90年代の中で僕が凄く好きなコレクション、意味があったコレクションと思っているのがマルタンマルジェラが93年にやったコレクション。そのコレクションでマルジェラは何も作らない、新しいデザインをしないと公言し過去のアーカイブを集めた発表を行いました。それはプレタポルテの歴史の中で重要なコレクションだったと思います。最近僕はファッション以外の人と関わる機会も多くなってきていますが、そういう方と話をしているといつも思うのがファッションは消費だけで語られがちなところが、他の業界からしたら冷めた目で見られているところがあります。それはどうなのだろうかと。消費はもちろん必要な部分ではある。でもファッションの本質はもっと深いものですし、そうではないところで活動出来る部分、いろいろな視点がファッションにも必要なのかと思います。ぼくは見えずらくなっているけど、実はファッションの本質な部分を常に表現していきたいと思っています。

Interview & Text:Masaki Takida

writtenafterwards collection #07
THE SEVEN GODS
-clothes from chaos-

ADAM URASHIMA
2013 $$ collection “Bye Buy”

究極の衣服を求め、いつしかファションデザイナーとなった、アダム浦島。
しかしながら、究極の衣服が作れず苦悩の日々を送っていた。
アダムが作ったおびただしい衣服は、人々には到底理解されず、
作品はいっさい売れることはなかった。
日々の過労により、アダムは衰弱しつつも、力を振り絞り渾身の18体を制作。
ついにアダムは人生初のファッションショーを披露することとなる。

※THE SEVEN GODSは、昨年の東京オペラシティギャラリーでの展示から始まる物語の最終章となります。

DATE:2012.10.20 ( Sat. )
TIME:21:00 start ( 20:30 door open )
PLACE:SHIBUYA FASHION FESTIVAL at MIYASHITA PARK
※一般の方もご来場頂けますが、会場の広さには制限があり、見えづらくなってしまう事もあります

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