Interview

保科路夫 後篇

演出のヒントって凄く身近にあると思うんです。例えば「想い」だったり


—コレクションを演出する上で一つのブランドについてどのくらいの時間をかけてつくるのでしょう

普通のブランドは(コレクションの)3ヶ月前くらいにまず最初の話を聞いて、そこからイメージややりたいことを聞いて会場提案しながらプランを出して、プ ランにOKが出れば音楽打ち合わせやイメージの打ち合わせを一度入れてオーディションやってフィッティングやって本番です。だから3ヶ月前から大体全てが始まるという感じです。

‐‐‐モデル選びにも携わるということですか

そうですね。ブランドにもよりますが演出家がモデルを決める場合もあります。

‐‐‐何回くらい打ち合わせを重ねるのですか

普通のブランドは大体5,6回くらいですね。Factotumに関しては打ち合わせの数は相当多いですね。2.5倍から3倍くらいはやっています。

‐‐‐演出をする上でそのブランドを好きかどうかというのは関係あるのですか

やっぱりそれは関係あると思いますね。ブランドにしてもそうだけどやっぱり人に対して(好きかどうか)の方が大きいですね。服は(演出を)やってれば好き になるし(そのブランドの服を)持ってるか持ってないかは別として。やりたいことがちゃんとあってそれに向かってやっているのであれば自分も一緒になってやりたいと思いますね。

‐‐‐では逆も考えられるということですよね

まだそういうことを言える立場ではないですがそういうこともあるかもしれないですね。ただそれはブランド側に対しても言えることで自分の演出がイメージに合わないというのもあると思う。自分達のところでも演出家は何人もいてその中で自分を指名してくれるということはそこに理由があると思うので。

‐‐‐演出をするブランドについてどの程度調べるのでしょう

一番初めにオーダーが来たときはそのブランドについて調べますね。店も行くし販売員とも話すし、服にも触れますし。

‐‐‐どういったところから演出のヒントを得るのでしょうか

演出のヒントって凄く身近にあると思うんです。例えば「想い」だったり。今回のFactotumに関しては参考になった資料を何回も見て何回も読んで情報を集めて。情報を集めるというのが大前提ですね。その人についてとことん調べる、「その人だったらどう思うんだろう」、「その周囲の人間はどう思ってたんだろう」というのを紐解いていくと必然的に結構近いところにあったりするんですよね。最後はやっぱり自分の想いだと思います、「自分はこう思う」という。でも演出に関するインスピレーションだったりそういうことは本当に些細なところにあると思います。(店のシャンデリアを眺めて)「こうやって見えるんだー」とか「人の距離感はこうだったらこう見えるんだー」とか。

‐‐‐日常的に観察してヒントを得ているということですか

ヒントっぽいヒントを探しに行くときもありますね。写真集を見に行ったり、映画を見に行ったり、美術館行ったり、そういうのはあくまで貯蓄なわけでやっぱり(ヒントは)意外と近いところにあると思います。窓から光が入って、ステンドグラスに反射した光が綺麗だったりとか、そういうところから例えばこういう風に光りをいれればよく見えるんだとか。自分は街中で音楽も聴かないし、歩きながら音楽を聴いたりとかもないですし。

‐‐‐それは色々観察をしたいからということですか

自分は街が、外が好きなんですよね。音楽を聴いていても景色というのは見れるけど例えばカフェにいても向こうの人の喋り声が聞こえてきたりだとかこっちでこういう音楽が流れていて向こうではキッチンの音がしてここではナイフとフォークの音がするみたいな。そこに行けば必然な音、そういうのを自分の耳で見たり聞いたりするのが好きなんですね。

‐‐‐演出家としての自分のスタイルはありますか

こつこつという感じ?ですかね。まだテイストがどうこう言えるほど本数もやってはいないですし。派手な演出をすればそれが演出かと言われればそうでもないわけでやっぱりそのときの空気感だったり、そのときの時間に合わせるだったり、そのときの気温に合わせることだったり実際は凄く細かいことが積み重なって演出というのは出来ると思うので自分はそういう一つ一つの凄い些細なことを気にしますね。

‐‐‐では特別今自分はこういうスタイルなんだというのはないということですか

それは後に皆様が「保科ってああいう人なんじゃん」って思ってくれれば別にいいと思うし、「彼の演出ってこういうスタイルだな」って思ってくれればいいですね。 やりたいことはたくさんあるけどそれがそのときのブランドに合ってるかどうかって言うのはまた別なので。だからその時々に応じてそのブランドのイメージを 最大限に引き上げてあげるというのが大事なのではないかと思ってやっています。あくまで裏方として、一番は服であり、ブランドであるので自分がやっているFactotumじゃないし、Factotumをやってる(演出している)自分で充分だし。有働さんがいてプレスがいて、スタイリストがいてヘアメークが いてその中のスタッフの一員の中の自分なだけなので。

‐‐‐ロンドン、パリ、ミラノと比べて客観的に東京のブランドはどう映りますか

東京って東京っぽいていうのが評価されたりするけどその東京ぽさってなんだろうっていつも考えるんだけど実際よくわからないんですよね。 ファッションショーももっとお祭りっぽくなってもいいのかなって思う反面、もっと身近であって欲しいって思うのもあるし、若干立ち位置が中途半端だったりするというかもっと皆がなにか一つの目標を明確にして進んでいけばいいなというのはありますね。

色々な都市を回って個人的に思ったのですが東京って良い意味でも悪い意味でも演出に凝ったブランドが多いなって

多いかもしれないですね。東京人の性質かもしれないですが。モデルが少ないから演出でカバーしなければいけないという面もあるだろうし、自分は演出過多にはしてはいけないと思っていますが。演出が洋服を消してしまうということはやっぱり懸念材料ではあるので。服をしっかり見せたいというのはデザイナーの最低限の希望であると思うしそういう演出を心がけているわけですがやっぱりブランドによってそれぞれの考え方も違うので(洋服より)演出が目立ってしまうというブランドがあるのも事実ですね。

‐‐‐今後海外例えばパリなどでのショーを手掛けてみたいとの願望はありますか

日本ブランド、海外ブランドといった区別無く勿論海外でやってみたいですね。英語は実際喋れないので勉強する必要はありますが勝負というかこういう仕事をやっているのであればやってみたいという気持ちですね。パリでもNYでもミラノでもロンドンでも。そうすればまた東京の良さもわかるだろうし世界基準というのもわかると思うし。まだ自分は勉強不足で経験不足ですがやれるチャンスがあるのであればやりたいという気持ちは強いです。

‐‐‐自分でショーを見に行ったりとかもしますか

そんなにたくさんは行きませんが行きますね。誘っていただければ行くようにはしてます。

‐‐‐客としていってそこで気付くこともあると

そうですね。(細かいところでも)気づいたところを生かす様に出来ればと思っています。

‐‐‐やはり洋服より演出の方に目が行ってしまうと

仕事柄そうなってしまいますね。その上で服を見るという感じですね。やってる立場だから演出が気になってしまいますね。

‐‐‐演出をする上で最も重要、難しい点とはなんですか

空気感ですね。凄い大事なのってやっぱり全てがうまく作用するようにする空気感というか。そういう空気感というのをうまく作りたいなーって。それが一番難しくて重要ですね。本当に細かいところ1つ1つの積み重ねで自分は空気感というものを出したいなとは思っていますが、それが1個ずれると色々ずれてしまって。むずかしいですがそれ(空気感)をうまく作れればと思っています。

‐‐‐今までで一番思い出に残っているショーはなんですか

自分が今までやってるのは全部同じくらい思い出にはありますね。ただ(自分が初めて手がけた)Factotumの大崎でのショーは凄く印象に残っています。

‐‐‐どういう人が演出家に向いていると思いますか

(自分が演出家に)向いてるのかといのは自分でもわからないのですが自分は良いボスに巡り合えたというのがきっかけですね。やりたいんだったらやればいいと思うしなりたいんだったら頑張ればいいと思うし、チャンスはたくさんあるしやっぱり信念、想いがあるというのが一番だと思います。最終的に向いてる向いてないというのは人が判断するものであると思うので。本気でやってれば人は見てくれているし救ってくれるし本気でやれば響くと思うし。

‐‐では最後にこの仕事をしていて一番の喜びというか満足感を得られる時というのはどういった時でしょうか

やっぱりショーが終わってデザイナーと(お疲れ様の)握手するときが一番嬉しいですね。デザイナーがやりきったかやりきってないかというのはそこに表れる思うので。そこで笑顔で握手するときは本当に嬉しいですね。

写真:Theatre Products09A/W Collectionより

(Interview, Text/Masaki Takida)

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