Interview

保科路夫 前篇


東京コレクションを代表するブランドであり、カリスマ的人気を誇るブランドTheatre Products, Factotum。この両ブランドの演出を手がけるファッションディレクター保科路夫氏に演出に関する様々な話をうかがった。

—文化服装学院(スタイリスト科→ファッションディレクター専攻)を卒業されている保科氏ですが在学中から演出の仕事に携わりたいと思ったのですか。それとも何かがきっかけで目指したのですか

1年次にスタイリストのアシスタントをやっていて、でも「自分には向いてないな」って思ったんですよね。それは凄く単純な理由なんだけど自分の描いていたスタイリスト像って凄く華やかで給料も良くて・・・という。でも実際にアシスタントをしてみたらその自分の思い描いていた像とは全然違って・・・。スタ イリストって全部が見えないって思ったんですよね。勿論人物像とかは見えるんだけど世界観に対してあまり口が出せないというか。自分は全体的なイメージを把握したかったんです。
今の自分の立場(演出家)であれば(Factotumスタイリストの中兼)英郎さんからも「これどう思う?」とか言われるし, 「今回はこういう構成なのでこういうほうがいいかもしれないですね」とか自分も衣装の構成とかに意見を言うことも出来る、あくまで自分の目線でだけど(意見を)言える立場であるし全体的なイメージを把握することが出来るんです。

—今の事務所に入りたいと思ったのはどういうことがきっかけだったのですか

(Parisでの)Junya Manのデビューショー(ビデオ)を見たんです。無音だったんだけどカメラマンの音だったり、声だったり、笑い声だったりそういうのが聞こえるもので、無音も音楽なんだということに気づかされて、この人の演出面白いなって思ったのがきっかけです。

—「演出家」、「ファッションディレクター」という仕事について詳しく教えてください

ブランドによってなのですが基本的には全部、勿論音楽も判断するし、照明も自分でイメージしてオーダーします。

—音楽というのは音楽担当がいますよね

そうですね。ただ、その中でデザイナーがピックアップする言葉とかを自分からも伝えるし、「ここはこうあって欲しい」とか「もう1フレーズ欲しい」とか全部自分目線ではあるけど「こういう空気感で、こういうラップで、この衣装が来るからこういう感じにして」と伝えたり。例えば今回(factotumデザイナーの)有働さんがBeatlesを使いたいといったんだけど自分が「それは違うイメージになるのでやめましょう」といったのですが、そういう客観的な立場で全体像を見るのが他の人から見ると演出家の仕事なんだろうなって思います。自分はやっぱり空気感を作りたいので。

—演出家のチームとしての役割分担というのはどうなっているのでしょうか

演出は本番のときは表で(モデルの)キューを出しているんだけど、「じゃーはじめます、音どうぞ」といって音が鳴り始め明かりを消して、進行の人が裏でモデルに対して(1人目、2人目という)キューを出してという感じですね。

—ファッションショー以外の仕事というのにはどういった仕事があるのでしょう

展示会だったり、パーティだったり、新製品の発表会であったり、ヘアーショーもやるし、百貨店のフロアイベントもやります。

—イメージ作りの仕事ということですか

イメージに特化するというのはやっぱりコレクション(ファッションショー)ですね。数字を見なければいけない仕事もあるし、演出というとイメージを作ってるだけって思われがちですが製作があっての演出なので。

—今回演出家として2つのブランド(Theatre Products, Factotum)を手がけたわけですがそれぞれのコンセプトを教えてください

Theatre Productsはいつもコンセプトを教えてくれないんですね。教えてくれないというか「今回は部屋の中です」とかそういうことしか伝えられないんです。 で(今回は)DM(インビテーション)が届いて(テーマである)Joyってそこに書いてあって「あ、Joyだったんだー」みたいな。

—コンセプトとかは何も伝えられなくてどうやってイメージするのですか

じゃー部屋の中でも「蛍光灯の灯りですか」とか部屋の中でも「ベッドルームなんですか」、「リビングルームなんですか」とか聞くと、はじめ部屋の中しか出て来ないものが「オレンジっぽい灯りで、暖炉があるイメージで」って。で家族団欒というイメージが出て。だから何もイメージが出てこない、伝えてくれない というわけではないんですが。

—(デザイナー側が)逆に演出するにあたってどういった情報を欲しいのだろうというのを探っているというのもあるかもしれないですね

そうかもしれません。

—演出は洋服を見てイメージするわけですよね

Theatre Productsに関して言えば洋服が直前まで上がってこないので洋服は見えないのでイメージでという感じですね。

—こういう服なんですというのはないのですか

それはありますがドレスは無いだとか軽い服だとかそういったことですね。

—詳しい洋服は見ずに演出を決めるということですか

そうですね、(Theatre Productsに関して言えば)イメージ重視で演出をしていかざるを得ないという感じですね。
Theatre Productsは自分達のやりたいことが凄く強いブランドなので、それに対して家族団欒というテーマが来てダイニングというのが来て、そのあとに今回 (ステージを)テーブルクロスを引いてテーブルぽく見せたいと言われたのでなるほどなーと。自分は写真に収めたときにどういった絵になるかというのも気になるので、下だけ(ステージだけ)だと伝わりにくかったりするので例えば「シャンデリアなどでイメージをつけてみてはどうですか」っていったら「シェード は(デザイナーの)竹内がたくさん持ってます」ってなって「じゃーそれ使いましょう」と。あれはデザイナーが好きなものを持ってきたので必然的にイメージに合ったんだと思います。

—ではもう一つのブランドFactotumについて教えてください

Factotumに関しては(毎回)最初にコンセプトを伝えられるんですね。今回に関して言えばスチュアートサトクリフ(Stuart Fergusson Victor Sutcliffe)ですと。で、5人目のBeatlesって言われてそこから会場とか探し出すという感じですね。

—Factotumの演出のイメージについてお聞かせください

あの場所(新木場倉庫)を選んだのは単純に都内中心地にイメージする場所がなくて必然的にああいう場所になってしまったんですね。倉庫というのはリバプー ルの海の港街というところのイメージに近いものを感じて落とし所としてありかなと。たまたまだったんですがあの場所って倉庫が3つあるんですね。初めは1 個の倉庫の中だけで完結するように演出を考えていたんです。けど、それがどうしてもうまくいかなくて、何か違うなーと。隣の倉庫の蛇腹を発見してそれが開くって知ったときに「あ、これだ」って。外を通ってお客さんのいる場所に入ってくるという空間の取り方が凄くあそこにはまった。ショーに間というか 余白を作りたかったんですね。

—ランウェイの先に見える木というのはどういったイメージだったのでしょう。ほとんど見えないし、客席から見て気づかない人もいるくらいの薄さだったわけですが

あれは見えなくてもいいくらいのそういう配置にしたんですね。(サトクリフの)彼女の写真家であるアストリッド(「ウィズ・ザ・ビートルズ」で使用された 「ハーフ・シャドウ」の手法を編み出したといわれている)の写真集にハンブルクの時代のスチュ(スチュアートサトクリフ)の写真があってリーゼントで Wayfarerかけてジャケットでデニム履いてみたいな。ロッカースタイルなのに森を背景に取った写真があって、それはたまたま森が近くにあったのか公園が近くにあって撮ったのかもしれないけど、ロッカーを森の中で撮るというのは既存のイメージから反していて。自分の中にはそういうアイデア(ロッカーと森)はなかったので。それはカメラマンが彼の恋人だから撮れたんじゃないかって。だから凄くニュートラルな感じがして。多分彼女にしか見えないスチュっていうのがあってそれがたまたま木がバックで凄く彼の本質の人間性、彼は画家でもありロッカーでもあった訳なんですがそういう本質を見出したんじゃないかってその写真をみて思って「僕は木がいいです」ってプレゼンしたんですね。木は全部黒く塗ってたんですけど、スモークに関して言えば光の筋を出したかったという感じですね。木はもう見えるか見えないか位の感じで。

‐‐‐客席の位置によっては見えてないですよね

見えてないです。モデルの出てくる位置にも微かに木を生やしていたんですがそれはお客さんの位置からは見えてないと思います。ただそれは自分のなかでは見える見えないというのはどちらでも良いというか・・・

‐‐‐では木の意味するところはなんだったのでしょうか

木の意味するところはたまたま写真を撮ってた背景がハンブルグの森だったから、ただそれを生木にすると(イメージとして)強すぎるし、もっと彼が画家であったというイメージも見せたかったし、自分の中では彼が既に生存していないというのも強かったので。幽霊が出てくるということではないけど、自分が今回大事にした(ショーや空間に対しての)余白の部分を大事にしたかったというのが大きかったですね。今回自分は木の部分を余白と考えてかすれた中から来る彼が光の筋の中を通って一瞬ブラックに落ちてまた光の中に来るという、見難いといえば見難いかもしれないし、意味ないって感じたらそれまでなんだけど自分の中ではそういうストーリーがあったんですね。

‐‐‐描いたものは出来ましたか

描いたものに近いものは出来たと思います。

‐‐‐あの時間(7時半)というのには理由はあったのですか

勿論ブランドの意向というのがあるんですが、今回イメージとして昼間にやるというものではなかったので必然的に夕方から夜にかけてということでしたね。

続く

写真はFactotum 09 A/W Collectionより

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