Interview

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ヨーロッパにおいて靴の大量生産が行われる前の当時では当たり前としてあった技術を用いた靴作り。道具として生活に根ざしたモノとしての靴作りを行うブランドformeデザイナー小島明洋氏に話を聞いた

‐靴の学校で学んだのはいつですか

大学を卒業してから専門学校に行きました。

‐なぜ大学を卒業して靴を学ぼうと思ったのですか

大学は法学部だったんですけど学校にあまり行かないでバイク屋でバイトばかりしていたんです。フレーム作ったり、タンク作ったりというカスタムのお店で。 店長はエンジンもいじれるんですけどフレームから作れたり結構なんでも出来るところでアルバイトさせてもらっていて凄く面白かったんです。その時に初めて物をつくることをしたんです。世代的にも物を作れる世代じゃないですし。ねじ穴とかでも自分でカスタムする時って自分でパーツ買ってきてねじ穴を合わせて留めるとなると自分で作るには結構制約が出てくる。でもそこではねじ穴から作れたりフレームから作れたりしてその時は「バイク屋になりたい」と思っていて色々(バイク)ショーに出店するやつも作っていたんです。

「なんで靴なんですか」って良く聞かれるんですけどそんなに別に凄い昔から靴が好きだったというわけでもないし、靴でなかったらファッションという仕事に携わる仕事をやっていなかったと思うし、そんなにファッションに興味があったかというとそうでもない。それよりバイクの方が好きでしたね。靴って少し特殊だと思うんですよ。アイテムとしても位置付けとしても、生産の仕方とか見た目も重要ですけど作りが重要ですよね。デザインするにあたって構造を知らないとデザインすることは出来ないし。勿論それを知らないでデザインしている方もいっぱいいますけど。多分絵だけ描いてデザインというなら僕は出来ていなかったと思う。トレンドにしてもそうですけど。多分靴ってちょっとバイクと似ている部分があると思うんですよ。

‐それはカスタムするという部分ですか

そうですね。フレームから考えて強度計算してみたいな。

‐大学卒業後すぐに専門学校に入られたんですか

そうですね。本当は大学2年の頃に靴の学校に入りたいと思っていたんですけどとりあえず卒業しました。今は自分でデザインして卸という形でやっているんですけどそれもずっとそうやろうと思っていて始めたというわけでなく、「靴をやりたいな」って思った時はオーダーのドレスシューズ『John Lobb』みたいなのをやりたいなと思っていて靴の学校に入ったんです。でもヨーロッパではそういうお店が街に1件あれば食べていけるような文化があるんですけど日本だとそういうのを買う人って極端にお金持ちとか、靴のマニア、ステータス的に物を買う人達だけだと思うんですよね。

一度イギリスの靴の有名な街ノーサンプトンに行った時にTrickersとJohn Lobbの工場をを見学させてもらって英語を喋れる友人に一緒に行ってもらって色々話も聞かせてもらったんですけど全然日本と違っていたんです。オー ダーの靴をやるのであれば向こうでずっとやる方が幸せだと思ったんですけど日本でそれをやるにはちょっと無理だと思ったんです。さっきも言った通り靴がほとんど金持ちの人とかステイタス的な意味でしか作れないから何かあまりにも違うんですよね。

‐違ったというのは具体的にどのように違ったのでしょうか

文化とか物を作るメーカーの姿勢も全然違いますね。日本の靴メーカーは今どんどん安い賃金で働くしかなくなっている。靴学校はたくさんあるんですけど結局ほとんどの人が辞めるんですよ。せっかく専門的技術を学んでも実際受け入れ先がいいものを作る場所ではなく安くて流れるものだけだとやっぱりモチベーションが下がる じゃないですか。そういうところばかりではないですけど業界的にも不景気だから結局入っても1年、2年で辞めることになったり。正直自分もそういう状況で靴を続けていけるか不安だったんです。

‐海外は靴に携わる人達への待遇が良いんですか

タンナーさんて生の皮をなめす人でも全然違うんですよね。バカンスもあってお金も良くて技術者とデザイナーとの隔たりがあまりないというか。服に関してはあまりよくわからないんですけどアメリカでのバイクもそうだったんですね。日本はそこの部分に凄い差があって仕事出す方、出される方で全然環境も違いますし。

‐技術者に対しての待遇が良くないということですか

デザイナーと技術者が対等に意見を言い合う事によって良い物や新しい物が生まれるはずなのに、一方的になげっぱなしで作らされたりだとか、あたり前のように賃金を下げられていくしかないという状況は技術者にとっても出来上がる物にとっても良いとは思えません。
僕も職人さんにお願いできる工程はお願いしているのですが、自分一人でやったら出来ないスピードと仕上がり、工賃でやってくれます。凄く細かい部分でも ここをああしろこうしろとは言われますが、実際そうする事でクオリティが上がっているんです。
一回日本の靴が値段を抑えるために中国生産をするという話になったときに市場の価格がデフレみたいにどんどん下がったみたいなんですけど、その結果日本のメーカーがどんどんつぶれて中国に仕事を取られてしまって。それによって日本の職人の人たちが安い値段でやらざるをえなくなるというのはとてももったいないというか。

‐待遇の面では差があるとのことですが技術力の面では海外と日本では差はありますか

ないですね。正直日本の方がレベルは高いと思います。

‐では日本でもドレスシューズ(オーダーシューズ)を作れるだけの技術はあるんでしょうか

全然ありますね。イギリスとか海外から日本にも見に来るくらいですから。それでも消費者にとってはやっぱりインポートの靴の方が良くて10万円以上しても買うじゃないですか。勿論(日本の靴が)デザイン的に良くないという部分が一番大きいとは思うんですけど。自分が靴にかかわっていると「なんでこの10何万の靴が売れて、日本のこの5,6万の靴が売れないのか」って凄く悔しいんですよね。

‐縫製の質は高いとのことだったのですが革の質という面で日本のレベルはどう思いますか

相対的に見て使いたいと思える革は少ないです。日本の革作りって大量生産が始まってから作るようになっているので全部を均一に作るのが目的にあるので例えばGuidiのような革は日本では目的としてあり得ないんですよね。向こうは目的として革本来の質感を作るみたいな文化があるのでああいう革を作れると思うんです。でも日本はそれをただ流行りとしてしか捉えられず本質的にそういう革がいいとは捉えられないので全部綺麗に顔料、染料にしろ同じ色合いで傷が無くてというのが良い革とされてきてて。それは日本の消費者の天然皮革に対する理解の低さも強く影響していると思うのですが、それに合わせるだけじゃ魅力 的な革は出来ないんじゃないかなと思います。そうじゃなくて、ファクトリーブランドを立ち上げて作り手から強く発信しているところもあります。

‐やっぱりイタリアの革の方が優れているのでしょうか

技術的に劣るとかでは決してないと思うのですが、うちのような靴を作る場合だとイタリアなどの方が使いたいと思える革は多いです。耐久性とか風合いとか革そのものの魅力とか。

‐専門学校での2年間だけで靴の工程を全部出来るようになったんですか

そうですね。

‐それは誰もがそうなんでしょうか

エスペランサのカリキュラム的には誰でも作れるようになるとは思います。カリキュラムって広く浅くっていうのがあるので在学中に全然何もやらない子とかはやっぱり全部というのは無理なんですけど。僕は在学中に木型(ラスト)を作るところで働かせてもらっていたんですけど多分そういう専門的に何か勉強していた人はそれぞれ色々できると思います。自分でブランドやる場合、自分で木型が出来ることと履き心地をわかってないといけないと思うんです。足って全部立体に出来ているじゃないですか。足の裏、底ってほとんどの靴がまっ平らですよね。元々ヨーロッパで靴を作る時って底面も立体に作られていたんですけど工場で靴を作るという大量生産の時代に入ってからはなんでもそうだと思うんですけど立体の部分があると効率が悪くなるということで全部まっ平らにして作りやすさや効率が優先されたんです。自分の靴は立体に作っているんですけどこれがまっ平か、立体かというのだけでも凄い生産性に違いが出てきて今はあまりメー カーが丸みを帯びた靴をやらないんですよね。多分古着屋の靴で昔のフローシャイムとかの踵の部分を見るとわかるんですけど昔のは底が凄く丸いんですよ。それは長く履いていると段々沈んできて足に沿うようになっているんですよ。

‐今も立体で作っているブランドはあるんですか

Aldenは今でも立体で作っていますね。雑誌とかで「どこのブランドの木型は良い」って言われるじゃないですか。あれは日本の記者が言っているだけで実際ラストを2mm単位で削って239が242に変わったりしてもそれが合うか合わないかって人によって足の形が全然違うんですよね。規制靴の時点で木型の作りが良いとか、木型の数値が良いというのは錯覚なんです。(その人の足の形に)合わせているわけではないので。良いと言われているブランドの靴 が(足に)合うのであればそれはたまたまなんですよね。

‐ではいってしまえば凄い安い靴でも足に合えばそれは良い靴となるわけですね

そうですね。ほんと5000円とかでもたまたま足に木型が合っていれば凄くフィットしますし。それ以外の部分で木型で履き心地が良いとか、履いていて馴染 んでくるので長く履きたくなるという部分で底面を立体にしています。

‐立体になると履いた感じは全然変わってくるんですか

結構違いますね。平らだとずっと歩いていると踵の部分が痛くなってくるんですよね。木型の部分は拘ったところで数値を合わせるには運もあるんですよね。

‐何を標準として木型を作ったんですか

自分の足です。

‐自分にとっては完璧な木型ということですか

全部自分で履いてから決めていますね。サンプルは同じような形でいっぱいあるんですけど皺の入り方とか決めているし自分は足が凄く薄いので足している。だから 完璧に自分に合っているわけではないんですけど。最近の若い人って足が薄くて女の人も幅が狭い人がいるので薄い方がフィットしてると勘違いしやすいんです。 よく「日本人の足形に合わせて」ってあるじゃないですか。あれって平均値を出してそれ通りに数値を出しているだけなんですね。木型メーカーで働いていた時 もそういう数値は全部あったんですけど。

‐年齢によっても足形は全然違いますよね

そうですね。人によっても全然違うし、歳を重ねている人でも薄い人もいますし。

続く

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