Interview

Akira Naka 3/4

“装飾過多なものより純粋なものに惹かれます。デザインはコミュニケーションだと思っているので何かクリアーなものが一番強い”

‐AKIRA NAKAの女性像について教えてください

これという固まったものはありませんが、可愛いさとかそういう方向性ではないと思います。女性は加齢と共に美しくなるものだと思うのですが、それは若い人が求めるただの肌の艶とかそういうものではなく、どれだけ成熟しているかもそうですし女性としてのプライドもその一つだと思います。そういう自分のジェンダーにプライドをもっている女性。生まれ持って私はクリスチャンなので小さい頃から聖書の中の白と黒を強く見聞きして来ました。でも人は完全な白や黒では表現できない。皆が一応にグレーだと思います。完全に真っ白な人も真っ黒な人も存在し得ないからです。ですからそのグレーな部分に昔から強く惹かれるところがありました。ハリウッドのプールサイドで幸せを表現している女性ではなくて東欧やロシアで逆境の中で何かを見つけていく姿勢というかそういう幸せの方が美しく映ります。

‐表面的な部分よりは内面的な部分ということですか

ストレートすぎるものではなく、根の部分で感じる美しさのようなもの。ですから私としては加齢していくことというのは凄く美しいことだと思うのです、加齢を恐れる女性は多いですが…。加齢をすることもありのままに受け入れて楽しめるような内面的な強さを持った方に美しさを感じます。

‐イメージしている女性像というのは日本人より海外の女性なのですか

日本にもたくさんおられます。ただ私が日本をベースに表現するとクリアな表現が難しくなる。私が表現すると易しい環境になってしまうというか、易しく見える環境に強い人がいてもそれはあまり強く見えない(決して日本が易しい環境という意味ではなく)。もっと逆境を見せたいのです。アントワープも民族間の様々な問題がありますし、ハリウッドのように資本で成り立った美しさもない。逆にそういうところで強く生きている女性の方が一見綺麗に整っていなくても本当に純粋な美しさがある。そういうものには表層的な美しさを削り取ったようなむきだしの女性感が出ると思うのです。そこがとても格好良いなと思っています。

‐洋服も日本人ブランドというよりは海外ブランドっぽいなって感じます

それは私が意識しているわけではなく、アントワープでデザインを学んだという背景だと思います。向こうで強さや美しい物を見る目を養ったという部分がどうしても出てしまうのですが、それはそのまま受け入れていこうと考えています。これからはその感覚をどのように日本やアメリカ、アジア諸国の女性に対して表現するかというところに働きかけていきたいです。

‐活動のベースを日本に移してからデザインの面など少しずつ日本の影響を感じることはありますか

受けてないというのは嘘になると思います。日本に住んでいますし、日本の女性が今の環境に多いですから。ただ日本に向けてとか海外にとか、そういうベクトルで製作しているわけではありません。毎シーズン自分が思う女性感がある、それに共感や興味を感じてくださる方がそういう女性像を自分のライフスタイルに引き込み取り入れて頂ければと思っております。

‐東京から離れた場所でクリエイションをしていますが不便さは感じませんか

難しさはないですね。ですので都内に移動する予定もありません。目から入る全ての情報、耳から入る全ての情報はやはり自分の中に刻まれていくと思います。その中である程度今の情勢から距離を置く、今のトレンドから距離を置いてクリエイションに携われるという点は自分のクリエィションの過程でポジティブに働いていると思います。そういう点ではアントワープも凄く恵まれた環境でした。

‐ノ‐カラーのジャケットが多いですがそれはなぜですか

意識してはいないのですがミニマルなものは好きです。あまり装飾過多なものより純粋なものに惹かれます。デザインはコミュニケーションだと思っているので何かクリアーなものが一番強い、その中で勿論ラペルがあるものも作っていますし、必要ないと思えば外します。でもそこまで意識はしていません。

‐ゴールド使いが印象的ですがそれは意識されていますか

いいえ。それぞれのシーズンに使っているジップの意味も違いますし。ただジップというものを私は単なる付属と捉えていません。よりアクセサリーに近い感覚があります。心を覆い隠していくという部分で『Break Water –防波堤-』というテーマで製作した09秋冬は守っていくものとして、自分を体(身頃)を閉じていく儀式ではないですけどそういう感覚でジップを多用しました。今回は純粋にメンズのエレメントを被せながらも消えない女性像を作るために使用しました。

‐グラデーションニットとゴールドジップはAKIRA NAKAという印象が僕の中では強いのですが

グラデーションニットは自分が作り出したものでもありますし今後も働きかけて行きたいと思っています。しかしジップというのはそれほど意識はしていません。今回のコレクションでは自分が一つの固まったイメージに留まるのではなく、今まで働きかけてこなかった柄であったり、デニム、化繊を多用しました。ナチュラルな素材を中心に展開していたので、化繊で表現するシックや強さという部分は自分にとってとても新鮮でした。

‐いつもは様々なニットが登場しますが今回10S/Sはニットが少なかったです

チェーンをヘムに編みこむニットなどを少し作りました。

‐ピッグスキンをプリーツ加工にして出来たショーツは新鮮でした

昔からある技術ですがアパレルの企業はあまり使いません。マスを顧客とするからこそできる大手の商品がありますが、インディペンデントのデザイナーだからこそ使える素材もある。このような素材や技術はこれから使用して行きたいと思っています。
そして私たちのようなスタンスを持つデザイナーがこういった素材や技術を使い続ける事が技術の向上や維持にも繋がると思っています。



‐メンズのテーラリングなどをベースにしているものであるからかもしれないのですが男性が欲しいという声も多かったですね

それは嬉しい事です。やはり同じジェンダーとしてデザインが分かり易いのかもしれません。今までの私のジャケットは覆っていくようなサイズ感だったのですが、今回は体に沿うようなシルエットを作りました。自分の中では新しい試みでした。ジャケットはいつも自分の中で実験している部分があり、今回はデニムジャケットにも使用しました。Gジャンというよりは「デニム地で同じジャケットを作ったらどうなるだろうか」という思いからスタートしました。ボディのラインを出すために身頃からではなく、袖からのラグラン線を利用してみました。不思議なラインでパターン構成されているのですが、全体的に新鮮な構成美が生まれて自分では気にいっています。
レーベルに関係して下さる全ての方に経緯を示していますが、彼(パタンナー)との出会いは特別でした。本当に深い経験を持っている方なので。何シーズンも一緒に製作をしてきて今私の求めているものを忠実に引き出して下さいます。2人のキャッチボールで作品をデザインよりも更に高めて行く相乗効果を生み出せるシステムが出来つつあると感じています。

‐動きやすさを考えられたパターンだなと感じました

パターンのクオリティにはそこも含まれていると思います。本当に美しい物は体との関係性を考慮されたものだと思いますので自ずと動きやすくなると思います。パターンは機能でもありますから今までに動きにくいものは改善してきました。ですが今ではそこまで意識しなくても自然とクリアーしている部分なのかなと思います。

‐着心地の良さを指摘されてる方も多かったです

着心地というのは私自身が着ないのでわからないのですが買って下さった方からよく言われています。普通のラグランワンピースなのに他と比べて軽いとか。そこにもパターンの力が大きく表れていると思います。あと素材とシルエットの相性など。

‐今回は前シーズンと比べ値段の部分でも手の届きやすい価格帯になっていた気がします、それはたくさんの人に着てもらいたいという意識があったんですか

自分のセールスカテゴリー以外の人にもアプローチしてみようという気持ちはありました。デビューしてからまだ僅か3シーズンですし今固まる必要はない、ただ勿論AKIRA NAKAらしさというのは残しているつもりです。

‐VKhUTESというメンズラインはAKIRA NAKAの女性像のメンズ版なのですか

VKhUTESは私がディレクションとデザインをしているブランドで正確には企画チームの一員として動いています。ですのでAKIRA NAKAとは区別しています(Mensですし)。
これは依頼を受けて仕事としてやっていますので会社の意向もありますし、AKIRA NAKA
として打ち出す男性像とはまた違ったものです。

続く

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