Interview

Tina Kalivas

Alexander McQueenのオートクチュールコレクションパタンナーのキャリアを経て、2005年に自身のレーベルを立ち上げ日本を集め世界中のセレクトショップから熱い支持を集めるTina Kalivasのコレクション。日本映画GOEMONの衣装なども手掛け自身のブランドだけに捉われず幅広い活動をしているオーストラリア人デザイナーTina Kalivasにインタビューをした。

―ファッションという道を選んだ経緯はなんですか

正確にはファッションを選んだのではなく、ファッションが私を選んだのです。幼少の頃に遡るんですが、母は私が6歳位の頃から私をファッションデザイナーにしたいと考えてました。私は当時人形やクマのぬいぐるみ等の服を作ってました。母は私と姉/妹の服を全て作ってましたから、そうやって小さい頃から自然と身についていったんです。私の祖母はいつも熱心にクローシェ編みなどを作っていて、よく私に故郷ギリシャの村のことを話してくれました。そんな私の生まれ育った環境が私をモノづくりへの世界に引き寄せたのはごくごく自然の流れでした。

―ファッションとグラフィックデザインにおけるインスピレーションはなんですか

私は文化の多様性に非常に魅力を感じます。現地の人もルーツはその土地の人とは限りません。新しい文化を受け入れるのと同時に伝統的なものも持っているでしょう。あと自然が好きです。自然はエンジニアや建築家といった全ての「デザイナー」と言われる人々を形成する上で一役買っていると思います。また洋服にSF的な要素を加えるようなテクノロジーにもとても興味があります。私はモノを子供のように色で区分けされた映像として見る傾向があるので、グラフィックデザインが好きなんです。

―映画『ゴエモン』の衣装を手掛けたことに関してお聞きします。デザインする前に日本の伝統的な衣装などを調査しましたか

何を隠そう、私は今回日本の衣装を担当するまで日本に一度も行ったことがありませんでした。私だけ日本語が話せないという環境で働くことはまさに無謀ともいえる状況でした。たくさんの美術の人と働いたり、全く新しい服作りの発想ともいえる日本の衣装作りを間近で見ることで、多くのことを学びました。何より楽しかったです。クレイジーで巨大な古代の日本やSF、ファンタジーなどの衣装もいくつか作り、我ながらなかなかの出来です。今では日本にたくさん友達も出来たし、いくつかすばらしいショップに卸していることもあり、しょっちゅう日本に来てます。

―オーストラリア人であることのルーツは感じますか

実は以前からイギリス人デザイナーに強い思い入れがあったんです。ヴィヴィアンも好きだったし、19歳でファッションカレッジを卒業した後ロンドンに移り住みました。コスチュームを数年やったあとアレキサンダーマックイーン氏のもとで働きました。彼はイギリス人デザイナーのもとで働くという私の一切の期待をいい意味で裏切ってくれました。そこでの経験は何をとっても貴重なものばかりです。

―オーストラリアなどのファッションシーンはどう思われますか、また好きなデザイナーはいますか

オーストラリアのファッションはとてもリラックスしていて夏のアウトドアスタイルで溢れています。なので皆あまり着飾ったりしません。だからよりロンドンや東京寄りな方にデザインがいきますね。

―ブランドを立ち上げるに至った経緯は、なぜロンドンでなくオーストラリアでやろうと思ったんですか

心機一転したかったんです。私は家族にずっと会っていなくて、オーストラリアからブランドを始めるのもいいんじゃないかな、と。

―アレキサンダーマックイーン氏のもとで働いていて得たことはなんですか


途方も無いことを限られた時間でいかに成し遂げるかを学びました。私の仕事は主にファッションウィーク中のショーピースでした。集中的にパターンメイキングなど彼のアイデアに息を吹き込む作業もしました。ガラスから皮、羽毛から金属までありとあらゆる素材を使って作品を作る工程で、スタンドやドレーピングに関しても多くを学びました。
アレキサンダーは不可能に近いこと私たちに課しましたが、私は彼の桁外れでエキセントリックな想像力への挑戦をいつも楽しんでいました。彼は面白い人物で、ファッションのみならず、非凡な世界観を持っていました。

―映画の衣装作りと自身のコレクションでの作品作りにおける違いはありますか

全然違います。コスチュームデザインにおいては指示に従わなくてはいけません。なのでガイドラインなるものが存在し、キャラクターをいかに際立たせるかということに集中します。さらに美術監督や監督のビジョンとも折り合っていかなければいけません。自分のコレクション作りでの裁量は無限で、逆に意思決定は全て自分で決めなければいけません。でも私は両者共好きです。制限がある中でのデザインという危険性も、ともすれば行き過ぎの自由という危険性も。

―作品作りにおいて最も重要なことはなんですか

焦点をぶらさず、インスピレーションを深く突き詰めることです。世界で起こっている事象にあまりのめり込み過ぎず、しかし意識すること。ファッションとはとてもデリケートです。

―他とは違うあなたのスタイルの特徴はなんですか

難しい質問ですね。他人と比較しないことです。

―これまでのキャリアで一番のターニングポイントといえるものはなんですか


たくさんあります。キャリア上で恵まれたチャンスについてあげればきりがないですが、やはり私にとっての一番のターニングポイントは、私の家族と私自身の近しい人の死でしょう。人生には遅かれ早かれ終わりがあり、自分が信じるものに縋らざるを得ないのだということを、本当の意味で初めて理解しました。この気づきは何らかの形で私の作品作りに影響したと思います。

―あなたの作品に強い影響を与えるデザイナーや人物はいますか

限られたリソースや簡素な生活からすばらしいものを生み出す、遠く離れた土地からの土着民族や人々が主なインスピレーションとなっています。その時その時聞く音楽ともしばしば混ざっていますが。私は音楽が好きで、全てのコレクションにサウンドトラックなるものがあるくらいです。

―顧客について教えてください。あなたの洋服のファンが求めるものとはなんですか

彼らはコレクションの中でも特にユニークなものが好きだと思います。つま先から頭まで揃えて身を固めるとは思いません。他にもたくさんあるでしょうし・・でもずっと大切にしてもらえるような作品を創っていきたいですね。

―今後1-2年におけるブランドの展望を教えてください

近々ブランドの拡大を視野に、ロンドンに拠点を移そうと考えています。また東京も大好きなので、そちらの市場でも何か取っ掛かりがあればと思います。

Interview & Text:Masaki Takida Translation:Natsuka Ueno

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