Interview

RIVORA 1/2

“understatement”をコンセプトとするRIVORAは、2010年春夏シーズンからメンズ・コレクションを発表している。
 彼らの服には装飾がない。ストライプ地を使用したシンプルなセットアップ。光沢のあるラミー100%のカーディガン。シルクコットンのスタンダード・シャツ。これらは仕事の際に着ることを想定した、日常服である。
 日常には恐れや焦り、怒りや憤りに満ちているが、私たちは平静を装うことで対処する。非日常への転移を拒み執拗に日常に定位しようとする彼らの冷徹さは、私たちの日常を的確に捉え、装飾とは偽りである、と無言で強く主張する。装飾を削ぎ、目に見える特徴をあえて消すことで逆説的に<日常=偽装>を浮かび上がらせる。装飾が日常的であることを考えれば、RIVORAの服には、“understatement”に込められているような動じない在り様ではなく、現実への徹底的な皮肉が込められているように感じられる。体裁を繕うことへの軽蔑さえ垣間見える。
 ブランドの世界観がテーマや物語によって作られることが多いなかで、現実の日常を志向するRIVORAの服作りへの姿勢は、東京を発表の場とする他のブランドと比べるとかなり異質に映る。というのも、いまの東京では、コンセプチュアルなデザインとコマーシャルなデザインへの過度な区分が設けられ、どちらかの選択や両者の融合が試みられているように見えるからだ。そんな中、コンセプチュアルなデザインを選択せず、また売れ線を狙ったリアルクローズなどという安易な着やすさの追求も拒否して、日常的な現実に定位したデザインを行うRIVORAは、東京のブランドの新たな可能性を提示しているように感じられる。それにしても、彼らはなぜ、いま、東京でこのような姿勢のデザインを行うのか。メンバーに話を聞いた。

「東京の場合の「カッコいい大人」というのがなかなかイメージつかないじゃないですか。」

―「understatement」というブランドコンセプトについてお聞かせ下さい。

鈴木(SZ):ちょうど、立ち上げた時がリーマンショック直後の混乱した状況でした。そんな中、いま、そしてこれからどういう生き方をすればいいのか。考えたら「大人」という答えが出ました。では大人とは誰のことなのか? すぐに答えは見つかりませんでした。それで、歴史上の人物や、周りの人たちについて考えたり、映画や、紳士についての本を読みあさったりしました。

粟生田(以下AT):understatementは、イギリス紳士のあり方を表現する言葉です。「控えめな言い方」という日本語訳もありますが、どんな事態が起きても動揺を見せない姿をさします。私たちは「いかなる状況にあっても、動じないやり方で」という表現に置き換え、スタイルとして解釈しました。
 ただ、この言葉はもっと深い意味があって、その動じなさがかえってユーモアを生み出すところまで広がります。例えば『ルパン三世』の五右衛門のような感じでしょうか?五右衛門は美女に迫られても、あくまでもクールに振る舞い続けますよね。そういう二面性を持つ男性をイメージしています。
 understatementについては、中野香織さんの『ダンディズムの系譜』という本がとても面白かったです。私たちの仕事にとって、ジェンダーについて考えることは欠かせませんが、ちょうど草食系男子という言葉が横行している時に、この本が出るって、面白いと思いませんか? 
 中野さんがこの本の中でunderstatementの起源について書かれていて、それがイタリアの16世紀の『宮廷人』が描き出す世界にあるとご指摘されていました。それで急遽、この本を図書館から取り寄せて読んでみたら、今の時代とリンクすることがたくさんありました。当時の宮廷人というのは、中野さんによれば「野心ある紳士」のことだそうです。例えば、彼らは、悪い上司を持ったときにはどうしたら良いか、政治的危機に陥ったときに必要なこととは何か、といった問題を考えたりしています。
 最初のRIVORAのBOOKは、『宮廷人』からの引用を元に作ることにしました。

―「understatement」という大きなブランドのコンセプト以外、シーズン毎にテーマを設けないのはなぜですか。

SZ:スタイルを見てほしいと思っています。スタイルは生き方の現れだから、テーマに左右されるものではありません。テーマは気分に近いものなので、自分たちのスタイルが一人歩きするくらい自立しはじめたら、気分転換もたまには必要かもしれませんね。いずれにしてもテーマをころころ変えて、それに合わせて服も変えるということはしたくありません。

AT:テーマを設けることは本当にお客様のためなのかという疑問もあります。作り手側からすると、テーマがあった方が、みんなで意見を出し合いやすいですし、楽だと思います。でも、毎回テーマを変えてしまうと、お客様のワードローブがぐちゃぐちゃになってしまいますし、せっかく買って頂いたお客様に、去年のRIVORAは着られないな、と次の年に思わせてしまうのを避けたいという意識はあります。

―understatementを具体的な服に落とし込む際に、素材の選び方やパターンなどで行った工夫を教えていただけますか。

SZ:パターンでは、緻密に設計するという意識はありました。ジャケットのパターン数は50を軽く越えていますが、工藤さんの仰るようにRIVORAの外見は至ってシンプルです。シンプルというのは、完璧な形が求められていると思っています。どこか一点でも何かおかしなことがあると、途端にバランスが崩れてしまいます。
 素材選びでは、意外性を持たせたいと思っています。2010-11 autumn / winter collectionに限ったことではないのですが、このときは、物作りをする上での僕自身のテーマでもある「光と影」ということを意識しました。カシミア混ウールのような柔らかくて軽い素材に、光沢感のある牛革を肩にはめたり、カット・ジャケットでは、インナーを総モダールで実装しました。基本的に、ミニマムな表現には昔から惹かれるものがあり、ただ、ミニマムというのは、美しいのだけれど窮屈で心地よさがどこか排除される傾向もある。だから、素材を選ぶときに一番よく口にする言葉は、実は「心地よい」なんです。これ、心地良いよね、と話し合いながら、しかし、ただの優しいだけの服、シンプルなだけの服とは違う方向に向かっていきますね。
 understatementというのは具体的な形というよりは人物像なので、その人物が何を着ていても、基本的にはかまわないと思います。控えめなくせに、ずば抜けてカッコいい。それがRIVORAのunderstatementです。例えば、ジェームズ・ボンドにしてもヒッチコック映画の人物にしても、彼らのスタイルはキープされていると思うのです。いまのところ、まだ彼らのカッコいい部分を作っているところで、これからもっとRIVORAという人物像が熟してくると、内面に潜む社会風刺的なアイロニーの部分が表れてくるかもしれません。それで着心地が悪くなったら困りますが。

AT:understatementには、状況に対するミスマッチなさりげなさがユーモアを生み出すという意味まで広がると先ほどお話しましたが、しかし、そのユーモアさえ、笑っている方が笑われているのではないか、というぐらいアイロニックな行為のように感じています。ある意味、人がテーマなので、日々、彼の新しい一面に出会っているという感じですね。

―2シーズンとも、装飾性を徹底的に排したデザインという印象を持ちました。

STICK(以下ST):装飾性を排しているということがデザインの一部になっているのは確かにその通りです。他のコレクションブランドが、この暗い世の中に対抗するために装飾性や色を採り入れるという事はあると思いますが、対抗の仕方はそれだけではないですよね。
 一見、かっちりして見えたり、オシャレをしているという雰囲気ですが、着心地は極めて楽なのが特徴です。足し算だったら簡単かもしれませんが、引き算は簡単なことではありません。RIVORAのデザインは、小さな数の足し算で生まれているわけではなく、複雑な巨木から一体の彫塑を作るような感覚に近いかもしれません。

―ということは、素材やカッティングなどを活かしながらベーシックな服を作っていこうとしている、ということでしょうか。

AT:ベーシックあるいはイデア(原型)というのは実は、変わっていくじゃないですか。ついこの前までの常識は、明日、非常識になるかもしれない。視点が変われば見え方が変わるように、基準なんてものはないのかもしれませんよね。ベーシックが日々変化し続ける中で、時代の空気を感じながら、大人のための服を提案したいという思いはあります。


―変化するベーシックを常に探究するということですか?

AT:常にというより、誰のために、というのが自分たちの根本にあります。


―RIVORAを着る方が変わったら、それに合わせてRIVORAも変わっていくということですか

SZ:世の中にも合わせてですね。先ほどのデザインにおいて何を活かすかという質問ですが、生地を活かす、色を活かすというよりは、ちょっと抽象的ですが、ひとを活かすということを考えます。特定のだれかというわけではありませんが、ひとです。

―「大人」へ向けたということですが、着られる方の年齢に目安はあるのですか?

AT:そうですね。特に何歳でなければということは当然ありません。共感して下さる方が着て下さったらすごくうれしいです。ただ、自分たちもそうですが、社会に出てしばらく経ち、これからどうするかを考えるターニングポイントというのは誰にでもあると思います。人によってはこどもが出来たりして、いつまでも子供のままではダメだと思う時期であるとか、人生の大きな変化と決断の経験を経た人をイメージしています。でも、日本は、渋谷にしても池袋にしても、街が子供のために解放されているじゃないですか。だからそこにいれば、いつまでも自分が好きな格好のままでいることも可能かもしれません。でも、世界的に見れば違いますよね。

―子供というのは、日本や東京が幼いということですか?

SZ:幼いというのではないのですが…。東京の場合の「カッコいい大人」というのがなかなかイメージつかないじゃないですか。作り手も着ている方も想像できないような気がします。社会的な要因もあるとは思います。スーツは欧米だとエリート層が着るものなので必然的に良いものが必要ですし、どんなスーツを着ているかで仕事の方向性が変わることさえありますが、日本ではほとんどの男性が着ますし、スーツ専門の量販店がたくさんあります。スーツの位置づけも違いますよね。
 大人になって何を着たらよいのか、自分の着るべき服に出会えていない人が多いのではないでしょうか。RIVORAは30〜40代の会社勤めをされていらっしゃるお客様からも「かっこいい」と言って頂いていて、すごくうれしく思っています。みなさん、かっこいいものが着たいし、オシャレを楽しみたいんですよ。

続く

Photography ©Naoki Honjo(1 to 5), ©Kazuki Watanave(6 to 10)

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