Interview

RIVORA 2/2

「ファッションは、アートとは違って、洋服を作った時点ではなく、人が着たところで完結すると僕たちは捉えています。」

―これまでの展示会では、アーティストと組んでインスタレーションを行っていらっしゃいますが、RIVORAにとってアートとのつながりはどういう意味があるのでしょうか?

AT:日々アートには注目しています。2010-11 A/W collectionでインスタレーションを作ってくれた大和由佳さんとは、青山のニュートロンさんで初めて作品を見たことがきっかけでした。たまたま新宿眼科画廊のタナカさんから、メールで大和さんの個展の写真が送られてきたんですが、「おもしろいな」と思って、すぐに見に行きました。そうしたら、もう心を射抜かれてしまいましたね。モダンな白い建物を開けたら、天井からこれ(RIVORAのアトリエの天井からかかる大和由佳の作品)が床すれすれまで、部屋一杯に吊るされていて、中に入っていいのかなという状況でした。いいアーティストさんがいたら、とにかく追いかけます。伊香保の奥地までヒッチハイクまでしたこともありますが、そこで見た作品も、野外での巨大な作品でとても素晴らしかったです。
 2010 s/s collectionのインスタレーションの赤川智洋さんは、アトリエオモヤというグループにも所属していて、メディア・アートを得意としている方なのですが、このときは、色々と話し合っているうちに、RIVORAの余り布に興味を持ったようで、「とりあえず余り布を全部下さい」ということになったのです。結果としてできたのは、布と板でできたシンプルな架空都市でした。この作品はその年のデザインフェスタにもでることになったんですよ。
 ファッションとアートはまるで違うものですよね。前に、パリのオノデラユキさんとAki Lumiさんのアトリエにお邪魔したときに、「アートはそれ自体が目的」ということを仰ってくれました。今の方が意味がよくわかるような気がします。アートは、何か具体的な目的のために作られるものではないですよね。どんな形をしていて、何でできていて、もっといえば誰が作ったのかさえ、究極的にはどうでもいいとも言えます。でも、社会からアートが消えちゃったら、それは哲学が消えるのと同じくらいの喪失です。
 インスタレーションを彼らにお願いするのは好きだからです。だけどそれだけではありません。ファッションという仕事は常に何かメッセージを発信する役割があると思っています。多くの方にご紹介したいアーティストさんがいますから、ご一緒できればすごくうれしいんです。

SZ:ファッションはアートかと云われれば絶対違うと思いますね。例えばある職人さんの作った包丁の切れ味が良いときに、それを芸術的と呼ぶことがありますが、アートをそういう意味で用いるならファッションもアートになるかもしれませんね。
ただ、ファッションは、アートとは違って、洋服を作った時点ではなく、人が着たところで完結すると僕たちは捉えています。ファッションの場合は「着るひと」が常にあるべきです。


―アート作品であれば「作家」がいます。ファッションはアートではないという認識は名前を冠したブランド名でないことや鈴木さんがRIVORAのデザイナーではないということとも関わるのでしょうか。

SZ:なぜブランドのデザイナーの名前だけがでるのか、という疑問は昔から持っていました。独りで作っているわけではないだろう、と。チームで物作りをしている以上、責任者という存在は必要ですが、デザイナーがアーティストとして扱われるのは何か違う気がします。一般的にデザイナーと呼ばれる役割をRIVORAのなかでは私が果たしていますが、私だけで作っているわけではありません。担当はありますが、責任をだれが取るかということで分かれているだけで、3人が別々の仕事を独立して行っているわけではありません。RIVORAという名前の由来は「川」なんですが、これは僕たち3人がそれぞれ一滴の水で、インスタのアーティストさん一滴、工場さん一滴、お客さん一滴、という形で川をなしていけらたらという思いがあります。川のように周りを潤わせられる存在でありたいです。

―最近あるイヴェントで平川武治さんが「三方良し」ということをおっしゃっていました。自分が良くて、相手も良くて、周りの人も良い。もの作りに当てはめれば、作り手が満足できて、お客さんも満足、さらに、工場などそれに関わる人も満足するということになります。お話を伺っているとRIVORAの理念と重なるように思うのですが。

SZ:その通りです。いまはまだ、みなさんに助けて頂いていることが多いですが、将来的にはそうなるようにしたいです。工場さんなど僕らに関わっている人がやりやすくなるように、ということは考えています。

ST:来シーズン着られない服を作りたくないという思いはそういうところにもあるのですが、自分たちでデザインして、工場さんなどそれに携わってくれた人達が一生懸命に作ったものが、来年は着られないというのはすごく寂しいですよね。だったら、一日でも長く着てもらえる服を自分たちが納得したうえで作っていかないと。僕らがそういう現場で働いていたということもありますが、現場の人がいるからこそ服作りが成り立っているものだということを、デザイナーは理解しないといけないと思います。


―裏方というか、これが自分たちの表現だ、という形を打ち出していくという感じではないですね。存在を出来るだけ消しているというか…。

AT:消しているけど、濃いのかもしれません。無口だけど雄弁な服なのではないかと思っています。


―「無口だけど雄弁」とはどういうことですか?

AT:RIVORAの服は仰るとおりシンプルなのですが、着た方の個性を出してしまうというか、着た人が映りこんでしまうというか。
シンプルだからありきたりで個性がないのかといえば、実はすごく色々なことを伝えようとしている服なんです。

―私が着たものとお二人が着たものとでは違うわけですよね。

SZ:全然違いますね。私が着るのとSTICKが着るのとでも全く印象が違います。

AT:でも、RIVORAが消えるわけではありません。RIVORAの方向にその人らしさがひき出されるというか、そんな服だと思います。

―これまでの2シーズンはメンズのみでしたがレディースはやらないのですか?

SZ:考えています。展示会にいらっしゃった女性のお客様からもそうですが、RIVORAのようなレディースを欲しいという声をお聞きしたので、次のシーズンから始めるかもしれません。女性には華やかさや、自由を表現できるような服が良いと思っています。上質な素材を着たいという欲望は、性別を問いません。RIVORAがいま持っている、ミニマルで上質な雰囲気に、華やかな「美」を加えて、RIVORAの服がその女性をどこへでも連れていってあげられるような、そんな服を提案していきます。

―ユニセックスにするという考えはなかったのですか?パターンをどちらかに寄せながら作るということもありますよね。

SZ:僕の感覚だと、ユニセックスの服に対する疑問があります。ユニセックスを作っていらっしゃる方を否定する気は全くありませんが、男と女とでは、当然、身体がまるで違いますよね。

AT:もちろんメンズライクな仕立てのレディースもカッコいいですし、必要ならば作ることもあると思います。つまり、CHANELやYves Saint Laurentが女性服に与えた影響は、ファッションにとって本質的で革命的な出来事だったと思いますが、男女の差異をないものとして扱うという意図のユニセックスは、ファンタジーでしかないのではないでしょうか?

SZ:作り手の都合で勝手にユニセックスという言葉を使ったり、そういうものを作るのはよくないかなという気はします。

―今後の活動で決まっていることは何かありますか?

AT:実は、長期のプロジェクトを1つ進めています。ただ、これは発表できるまでもしかしたら何年もかかってしまうかもしれません。
すぐ先のことですと、展示会場で行ったインスタレーションごと、東京、恵比寿のお店で販売していただくことになっています。詳細は、これからwebで発表していきますので、そちらをチェックしていただけるとうれしいです。

SZ:いまの世の中、現実を見ることは、常に厳しいことばかりと感じている若い人も多いのかもしれないですが、現実世界での反応は、ファンタジーの中では感じられない醍醐味があると思います。日本のクリエイションは世界一です。世界で勝負したいときに、RIVORAの服が助けになれればと思います。これからも、楽しみにしていて下さい。

Interview & Text:Soen Shikimori

RIVORA:www.rivora.com
Yasuhiro SUZUKI 鈴木泰宏
Director
1980年生まれ。文化服装学院卒。卒業後、Istituto Marangoni Londonに学ぶ。帰国後、大手メーカーやドメスティック・ブランドにて経験を積み、独立。2009年、RIVORAを立ち上げる。

STICK
1980年生まれ。文化服装学院卒。卒業後、アパレル・メーカーにて企画・営業・生産管理を経て、現在に至る。

Yumi AOTA 粟生田弓
1980年生まれ。東京大学大学院学際情報学府修士課程卒。アート・ギャラリー勤務を経て、現在に至る。

Photography

RIVORA 2010 s/s collection EXHIBITION installation by Tomohiro Akagawa ©Tomohiro Akagawa, Photography ©Tomohiro Akagawa (1 to 4)

RIVORA 2010-11 a/w collection EXHIBITION installation by Yuka Yamato ©Yuka Yamato (05,06,07)
RIVORA 2010-11 a/w collection EXHIBITION installation by Yuka Yamato ©Tomohiro Akagawa(08,09,10)

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