Interview

西山高士×山縣良和×坂部三樹郎 1/6

先頃行われた世界最大級のコンペティション”ITS#9″でここのがっこうアドバンスドコース第一期生として作品を出品した西山高士は日本の学校から初めてのノミネートだけでなく恩師であるここのがっこうの講師山縣(writtenafterwards / ここのがっこう / ITS#3審査員特別賞、INGEO賞、最優秀ポートフォリオ賞)、坂部(MIKIO SAKABE / ITS#5審査員特別賞)両氏が届かなかった最高賞であるCollection of the Yearを日本人として初めて受賞した。

なぜ彼はCollection of the Yearを受賞することが出来たのか。彼が世界に出て感じたこととは。インタビューには「新しい世代のデザイナー」西山氏とともに彼を良く知る山縣、坂部両氏に参加してもらい彼のクリエイションの原点や今後についてなど様々な議論を交わした。

―今回の作品のコンセプトを教えてください

西山:小さい頃からゴジラなどのSF映画を見ていてモンスターが凄く好きでした。フィギュアなどを集めていたのですがそれでモンスター系をやりたいなと思いました。そこから今の日本的なものを連想したら「モンスターハンター」がオタク文化から出てきたんです。それに「サラリーマン」を合わせています。

―今回のイメージはDazed UKをはじめとし世界で活躍しているDaniel Sannwaldによるものですが彼のイメージには納得していなかった部分もあったようですね

西山:そうですね。炎とかで服のディテールが隠されてしまったのが残念でした。勿論気に入ったものもありますが。

坂部:ダニエルはフォトグラファー目線だから写真で空気感を出すタイプだと思います。だから服が見えてなくても空気感を出したいって思ったんだと思います。服自体は他の写真でも撮れるからああなったのかなって。そこにずれが生じたのかもしれません。それでも「凄く良い」って声も多かったからヴァリエーションとしては良かったと思います。

―ITSのカタログの写真が西山君本人になっていますがこれは本人の画像を載せるものなのですか

西山:間違えましたね。それだけが心残りです。一応自分の服は着ているんですけど・・・・。他のみんなは自分の作品を載せています。

―今回ノミネートの際に一通り全部ファイナリストは調べたのですがRCAの人達は勿論のことSideralが凄く気になっていました。正直彼らが何も賞を取らないのは驚きでした。

山縣:彼らは凄くクオリティが高かった。だから彼らがどう評価されるのか、それとも可能性として他のデザイナーに賞がいくのかというのは注目でした。

坂部:どれくらいレベルが高いんですか。

山縣:普通にショーデビューしててもおかしくないくらいのレベルですね。ショーを見てても見せ方がうまいし。

―言ってしまえば反則なくらいですよね。プロ集団の集まりというか

山縣:彼らがもし今回受賞していればITSはプロとしての実力が評価されるんだってことになったと思います。でもそれがそうではなかった。

―現地に行って、見て、山縣さんが出られたITS#3とは審査方法、審査基準は変わりなかったと思いますか

山縣:審査員はまず凄く増えていました。僕らの時は10人くらいしかいなかったのが今は20人弱くらいたのでそれにまずびっくりしました。審査の方法は変わってないと思います。ただ審査基準は唯馬君がITS#7とITS#8に出ているのですがそれと比べても「今年は全く違った」と言ってたくらいなので審査の基準は大分変っていたと思います。

―ファイナリストに選ばれる学校の変遷みたいなものは変わりましたか

山縣:やはり僕の知っている限り国際コンクールではずっと実験精神のあるアントワープは平均的に強く、毎年学生を送り込んでいる。アントワープがあり、勿論セントマがあり、僕らの時はア―ネム(オランダ)とラカンブル(ベルギー・ブリュッセル)があった。その二つが無くなってLCF(ロンドン)がアクセサリーで力を付けた。それがなぜかというとコードワイナーズと合併したから。あとはRCAが着実に力を着けていった。僕らの時はそんなにRCAは聞かなかった。RCAは特にメンズ。あとリンダロッパがアントワープから移ったプリモーダ。

坂部:確かにRCAはあまり聞かなかった。彼が言うようにラカンブルは凄く強かった。ITS#1, #2ともにCollection of the Yearを取ったのはラカンブルの生徒だったし。

―RCAが強くなったのには理由があると思いますか

山縣:ウェンディ・ダグワーシー(CSMのBAの主任教授だった)という(フセイン)チャラヤンとかセントマーチンが凄い時代を育てたカリスマの先生がヘッドハンティングされてRCAに行ってそこから急激にRCAが出てきて今のRCAがあると思います。特にメンズは世界唯一のMAなのでレベルが高い。逆になぜかわからないけどセントマのMA勢はコンペに弱い気がします。

坂部:セントマのMA勢は全てセットアップされているからコンペにわざわざ出る必要が無いのかなと思います。雑誌にも載る機会が多いし、London Fashion Weekにも公式スケジュールで出る事が出来る。

―今まで日本の学校からファイナリストにすら選ばれなかったのは日本のレベルが低かったからだと思いますか。それとも日本の学校のITSというコンペに対しての知名度が無かったからなのでしょうか

山縣:レベルというよりもポートフォリオ作りなど抑えるべきところのノウハウがない。表現力も足りない。デザイン教育が育ってないんです。今回西山が勝ったというのは色んなことを証明したと思うんです。彼は文化服装学院に3年間行きテクニックをみっちり学んだ。文化にいた時は表現力の授業も無かったしそういう部分が苦手だった。

西山:苦手でした。今でもそうですが・・・

山縣:だけどここのがっこうで学ぶことで表現することの後押しをして表現能力があがったんです。文化のテクニックというのは間違いなく世界最高峰で、それに表現力というのを今回ここのがっこうで集中的にやったのでテクニックに表現力が加わりそれがイタリアに行った。やっぱりアントワープとか他のところでは表現力とテクニックが合体しているところはない。彼のようにパワーを爆発させた作品がヨーロッパからしたら「何だこれは」って。テクニックに表現力を+させたら世界で評価されたから日本人がどうやって世界に通用するかっていうのがわかった気がします。

坂部:ただ技術ある人は世界にも沢山いると思います。アントワープで評価されていた人達は自分達の代でも既に縫えていた。それが5,6年前です。クリエイションは当然ある。
西山君の場合はクリエイションが今まで生まれなかったのが何かの融合で爆発したんだと思います。初めてのことだったので。海外は逆に既に出来上がっている。縫製も出来るしクリエイションも出来る、成熟している人はたくさんいる。だけどまだ手探りでクリエイションがやっとここのがっこうで出来るようになった彼は自分のクリエイションを爆発させた。その作品が向こうで衝撃を与えたんじゃないかと思います。

山縣:審査員の人達が今までみたことのないようなもので一種の“衝撃”のようなものがあったんじゃないかって思います。審査員の方は「年々ポートフォリオが面白くなくなっている」ということを言っていた。テクニカルトレーニングやページ等も企業寄りになって来ていてそれが世界のここ数年の流れになっている。そういう中でここのがっこうがやったことって流れと反していた。ここのがっこうのみんなで送ったポートフォロオボックスが凄く目立ったそうなんです。MAレベルの人達っていうのはある程度計算が出来るからポートフォリオの計算も出来るしプロになる為の準備が出来ている。そういう部分をデザインに落とし込んできているから逆に審査員からすると読めちゃって面白くない。枠にはまっているというか。
ヨーロッパのコレクションがここ最近の傾向でどんどんコンサバになっていっている中で西山は全くそのゲームに参加していない、向かっている方向とあまりにも違った。だからこそ逆に西山の作品を見て「素晴らしい」と。一番言われていたのが「彼が一番やりたいことを本当にやっている、だから見ていて心地がいい」ということ。そういうことに対して心が動いて今回みんなが彼に評価をしたんじゃないかと思います。

坂部:流れ的には言ったようにで、高いテクニックにここのがっこうでのクリエイションが加わることによってやっと世界の舞台に立てただけなんだと思います。今まではそこに立つことも出来なかった。同じ舞台に立った時にどう見られたかっていうところでそこから彼がやったような爆発力が受けたんだと思います。

山縣:そしてあまりにもファッションゲームにのっていなかったというのが大きなポイントだった。

坂部:ここのがっこう自体完全に流れに乗っていないグループだった。その中でも更に乗ってないのが彼だった。それが世界で評価された。だけど次はより難しくなる。

山縣:今回バーバラ(ITS発起人)が凄く嬉しいと言ってたのはITSで賞を受けた僕らが再び先生として生徒をITSに送り届けたことなんです。

―今までのITSの受賞者でそのような人はいなかったのでしょうか

山縣:いないですね。まだ始まってから9回目ですからね。

―ITSでの審査の方法を教えてもらえますか

山縣:最初にみんなの前でプレゼンをしてその後にショーをするのですがショーは審査の対象にはなりません。ショーの演出、音楽、モデルも自分達で決める事は出来ません。

坂部:バックステージにいてはいけないんです。だから自分で自分のショーを見るんです。

続く

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