2011年8月24日、新たな映像表現の場としてネット上に映画館「THEATRE TOKYO」がオープンした。
記念すべきオープニング上映に決定したのは日本の次世代を担う映画監督として、今最も注目される柿本ケンサク氏の最新作「UGLY」。また空気の冷たい3月、霞がかったパリの街で映像を通して日常に溶け込む人間の姿を刻々と映し出していく。
「THEATRE TOKYO」を手掛けた監督、柿本ケンサク氏とプロデューサー、湯川篤毅氏にweb 上の映画館という新たなステージについて、映画「UGLY」について話を伺った。
―THEATRE TOKYOをやることに至った経緯について教えてください
湯川氏(以下:Y):以前僕も映画を作ったことがあるのですが、どこで流せるとか流せないとか配給の面で難しい問題があった。お金を儲けることが出来る作品なら流せる、そういうことで自分の作品が変えられていくのを経験した。そういうのって面白くないなと思っていたんです。その時に映画はもういいやと思ったんですけど、今回柿本君と縁があって「UGLY」を一緒にやることになったのだけど、どうせやるならば話題にしたいし、流す場所も普通に単館の劇場で流しても面白くない。それに今のままの状況だと日本の映像文化にとっても良くないなと思っていたのでちゃんと文化として残せる場所を作りたい。「じゃー作ろうぜ」って。だからそこの場所はあくまで商業目的ではなくて、ちゃんと映画の文化として残せるような中身でなければいけないしそこをモットーとしています。
―THEATRE TOKYOで上映する作品を前提としてこの「UGLY」という作品は作られたということですか
柿本氏(以下:K):両方とも同時にスタートしています。
Y:UGLYという作品を作る時に柿本君が言っていたのは「今回の映画はお金儲けのことに支配されず、ちゃんと良い映画を作りたい」ということ。だから大前提としてはそこです。
―震災の時期にパリで撮られていたそうですが何か気持ちの面で変わったことはありますか
K:この作品を撮るために凄く気合いを入れてパリに行ったんです。それで2日目に震災があって心が折れそうになった。「こんなことをやっていて良いのかな」って考えた。凄く大変だった。でも、今まで長い歴史見てもたまたま今回日本で震災があったけど、これまでも全然気にしないところでたくさんのひとが死んだり、見て見ぬふりをしたり、他人事できていた、それが今回たまたま近かっただけだからパリに来ているならパリにいるでそういう運命。「僕らはやることをやらなければいけない」、そう考えた。湯川さんも震災をうけ遅れてパリ入りしたんですけど、「今まで僕らは、同じように大変な出来事があって目をそむけてきた。でもちゃんと最後までやりきれ」ということを言ってくれて、それが言葉として支えになったんです。
とりあえず朝起きて色んなニュース見て、みんな泣いてから現場に来て、そういうかなりギリギリな気持ちでやっていた。
―特に内容を変えたりはしなかったんですか
K:それはないですね。逆にいうと内容自体があってないようなものなんです。スケールの大きいものではないんですけど元々僕は大自然みたいな映画が作りたくて台風来るのに理由ないでしょみたいな。人が人を好きになるのも理由なんてないし、刺したり殺したりするのも理由なんてないかもしれないし、そっちの方が自然っていうか、そういう概念のものをつくろうとしていた。だから別に大災害があったからどうだというようなコンセプトやテーマではないというか、寄り添ってはいるんですけどそれも含めて人生みたいなそういう映画を作りたいんです。
だから価値観として「震災を受けて変わったか?」と聞かれたら勿論色んな部分は変わっている。気持ちの面では凄く落ち込んだけどけ、多分根本的に元々持っているものはずれてはいないと思います。
―「UGLY」という作品をどのような人に見てもらいたいですか
K:中学生とか、R15指定で見れない人が包囲網をかいくぐって見て欲しい。僕が若い頃に見たジャームッシュの映画のように。勿論そういう人の為だけのものではないですけど一部にはそういう人がいてくれる方が文化としてはバランスが良いなって思うんです。
―THEATRE TOKYOの今後の展開を教えてください
Y:「UGLY」は12月に渋谷シネクイントでも上映します。THEATRE TOKYOは今は一館しかないけど他にも映画館、舞台などの劇場だったり、アーティストのライブ配信のミュージアムだったり、を増設していく予定です。今はああいった形をしているけど建て増しがされていってガウディのように形が変わっていく。それで人気が無くなればその建物はまたなくなっていくんです。
K:(THEATRE TOKYOは)ある意味ちゃんとキュレーションが入った場、それに”Made in Japan”。そこに限らないかもしれないけど、過去名作をいくつも上映した恵比寿ガーデンシネマもなくなり、シネマライズも劇場の数が減ってしまったけどここは世界に向けた短館映画館として発信していきたい。商業としての映画館に対してのアンチとは言わないけど、そういう場がないのであれは自分達で作っていけばいい。
Y: 若い映像作家の人達にとってもたくさんの人に見てもらえるチャンスがあるというのは大切だと思っています。作品を持ちこんでもらっても全然良いし、そういう場を作って若い人達の発掘もしていきたい。映画監督だけでなくカメラマンだったり、クリエイティブ ティレクターだったり色んな立場の人をキュレーターに迎えて、キュレーションをしっかりして質のよい作品を流していこうと思っています。
Interview & Text:Tomoka Shimogata
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柿本ケンサク
www.kensakukakimoto.com
学生時代より、映画・ミュージックビデオ等で助監督を経験しながら、作品の制作を始める。
中野裕之監督の下、助監督やピースな制作ユニット『ピースブラザース』の末っ子として活動。
中野監督と共に『Spoken Word』や『Opinions』を制作。数多くの短編映画を自主制作し、それをまとめた『Straw Very Short Films』を制作を発表。2005年、22歳にして長編映画『COLORS』を制作。
映画『スリーピングフラワー』で劇場デビューを果たす。以後、映画を中心にMVやCMなどを多くの作品を演出。
D.O.P ,フォトグラファー、アートディレクターとしても活動の場を広める。映画、PVやCM等、多岐にわたり、ピースな作品を展開中。
THEATRE TOKYO:http://www.theatre-tokyo.com/