Interview

村田 明子 / MA déshabillé 5/7

ファッションは他者と「気分」を通じ合わせる為の道具。矛盾だらけのただの『気分』だと思います。MAは、『気分』よりは、『こころ』を通じ合わせる為の道具であって欲しいし、お守りみたいな、『祈り」が結晶化されたようなものでありたいです

―MA déshabilléの服は生地はどこの産地のものを使用しているのですか

好みでいえば、東南アジアとか、地中海あたりのとか、暖かい気候の産地のものが好きです。作り込みに感動するのは、イタリアの生地です。MAのシルクタグはディオールなどの、ハイブランドのタグをやっているイタリアの工場で作って頂いていますが、タグ一つにしても風合いが断然にいいのです。今シーズンから、生地の大半を手紡ぎ、手染め、手織りで制作している、とてもストイックに”オーガニック思考”をかかげている、Planeta organicaというチェンマイのブランドさんとの生地の共同制作が始まりまして、その生地つくりの現場のコピー&ペーストのない世界にはとても感動しました。自然の恵みの享受の方法が全く別の時間軸の上になりたっているのです。
今,私達のいる環境は”自然”までもが省略されすぎて、”不自然”な物事に慣れ過ぎてしまって、不純物で毛穴がつまって、、(笑)
通気がよくないから性格まで曲がってくるのだなーって。(笑)
実際に、現場に足を運んでその土地の太陽を浴びて育っている植物や、人の暮らしを観て、よく理解出来ました。
タイシルク王のジム・トンプソンみたいになれたらいいですね。硬いし、粗いし、タイシルクはそれまで馬鹿にされてきた。その意識をジム・トンプソンが「王様と私」で変えた。世の中的には駄目だと思われているものの価値観を変える事を一生のうちに何かで出来たら嬉しいですね。彼の影響でタイシルクそのもののクオリティーも上がりましたし。

―ダメージがあって売り物にならないエルメスやシャネルのニット、サンローランのシルクブラウスなどを部屋着として着ていた。そういうものの感覚がMAに繋がっているそうですが

そういうものをもらったりしたんです。フランシスがどっさりくれた。そういったブランド物であってもダメージがあったり、小さい穴があいたり、ボタンがかけてたりしたら売れないのです。でも素材も作りも素晴らしいです。B品だし、もらいものだから、ある意味で雑に着てもいい。もったいぶってシャネルを着なくて済んだというか。。私は本当にラッキーだったと思います。

―MA deshabilleとBouque(ブーケ)と2つのラインがありますが違いはなんですか

ブーケはクチュールラインです。ルキノヴィスコンティの映画の登場人物のような、上流階級が部屋着として着用していたものを、逆に、アウターとして使えるよう、厳選したヴィンテージファブリックやレース、ボタンなどを使ってリデザインさせています。
今シーズンはクチュールラインは出していません。
日本のヲタク気質ってすごいと思ってみていて、そういう何処までも掘り下げて細かい仕事のできる人たちを集めて、プロデュースしていけたらいいですね。
「MAクラフト」みたいなLABでもつくって。
これから社会の中でどんどんクラフト的なものはなくなってしまうと思います。例えば「食」とかも薬みたくなり、盛りつけを楽しむとか、香りを楽しむとか、そういったリチュアルな時間がどんどんなくなっていくのではないでしょうか。ファッションもそうならないように無駄なことをしたい。お花は食べれないけれど、もらって嬉しいですよね。
みんな美味しいもの食べて、良い服着て、もっと楽に呼吸をしていいのだと思います。震災があって勿論そこで意識とかは変わったけどもっと大変なことも実際これから起きると思うのです。みんな真剣に生きようと感じるようになった、その部分は良いことかもしれない。でも私は自分が関わっている人が被災地にいなかったから現実的な関わり方がわからないですし、マゾヒシズムって、限界があるようでないですから、そっちにみんなが埋没して行く事が怖いです。

―震災を受けてクリエイション面で何か変わったことはありますか

ありません。でもやりやすくはなったと思います。
例えば、今,ウチのプレスをやってくれている子もそれまでは仲良くはなかったのですが彼女は丁度、震災の時に飛行機にいたのです。震災を味わずに日本にランディングしたら自粛ムードが漂っていた。Twitterもそういうのばかりになっていた。その時私はどうでもよいYoutubeの動画とかばかりあげていたみたいで、その能天気さに好意をもってくれたみたいです。(笑)
震災後なぜか人に凄く好かれるようになった気がします。勿論、揺れた時は凄く怖かったですけど、、不自然な自粛ムードには感染したくないと思っていました。
震災後に、また、愛や恋や家族って人の絆、、みたいなものを仰々しく祭り上げられているのにもすごく違和感があります。愛とか恋とか家族とかは、ベーシックな事。下着取りかえるとか、夏だから薄着するとかそういうものだから、なんか、震災以前は、そんなにベーシックな基盤がゆがんでいたのかーって。。

―MA déshabilléはファッションブランドですか

ファッションではないかもしれません。ファッションの定義によるかもしれませんが。

―ではファッションって何でしょう

パッション。(爆笑)ってのは、おいておいて、、ファッションは他者と「気分」を通じ合わせる為の道具。
だから、無論、お金では買えないし、つかみ所もないし、道徳もない、矛盾だらけのただの『気分』だと思います。
美人が勝手放題に言っているワガママみたいなもの。(笑)だから楽しい!
MAは、『気分』よりは、『こころ』を通じ合わせる為の道具であって欲しいし、道具、、というよりかは、お守りみたいな、『祈り」が結晶化されたようなものでありたいです。
だから、理想をいえば、売るのではなく、服を空からバラまきたいです。

―あくまで外着ではなくルームウェアなんですか

例えばエルメスやシャネルのブラウスを家で着る、寝る。その上からアウターを着て、アクセサリーしたら外出出来る。楽ですよね。そういう服です。
後、敢えて付け加えれば、、
昔の江戸っ子とかって、結城を寝間着に着て、おろす前に馴染ませたりしていたそうですが、そういうふうに私のつくったものがお客様の生活や身体に馴染んでくれれば光栄です。

―コンセプト的には72時間同じものを身につけていられるような、シンプルさや素材の良さということですが

72時間ということは3日です。単に3という数字が好きだから、3単位で区切っておけばいっかな!?って思っただけです。

―素材選びは吸水性とかも加味しているんですか

素材を選ぶのは、手で触るんじゃなくて頬で触って、ざらっとしたらやだな、やめておこうってなるんですよね。例えば男性に抱きしめられてざらっとしたら嫌ですよね。(笑)

―MAはデザイン画を描いて形にするのですか

アカデミーの4年生になってから一度も描いていません。

―デザインを描かないのであればイメージで作るのですか。それともあるパターンに当てはめるのですか

自分の持っている洋服の「この襟をこうして」とかスタイリング感覚で作っているものが多いです。女性ものは自分でわかるし、大体の基準のものがあるので「ここの袖口をこう」とか。取り敢えず、自力ではなく、他力に頼って、直感的にピンと来るまで、ただ待っているだけです。

―MAには「世界の美を日本に届けたいという」想いも込められているそうですね

世界の美、、というか、生活スタイルね。
最近はましになって来たけど、例えばフランスパンを一つとっても、不味いもの売っているところが大半だし、アメリカナイズされて、とんでもない不良品が日本中に出回っていると思います。
だから、それぞれ好みはあると思いますが、一応、これがアンサー、、みたいな物ってもうちょっと追求して味わうようにしないと、人間が存在する事自体が無意味になってしまう気がします。

―日本に拘る理由はなんですか

拘っていませんが、、ブランドを廻していく便宜上、お行儀が良い国だという利点は理由の一つだと思います。
アントワープに行く前に柳田国男とか折口信夫とか、、日本舞踊もかじっていましたし、日本の文化が好きでした。
光らないで、光ってくるもの、いわゆる”底光”みたいなものを追っていると、欧米では”社会の負け犬”、、というか、キチガイだと思われる。日本にある、日本人にしかわからない、”陰”の良さみたいものを改めてお勉強したい気分にはなっています。

―でも日本には村田さんが言う“部屋着”の文化ってないと思うのですが

というか、生活にスタイルがないのですね。
アパートもドアを開けたらすぐにトイレがある。凄く美しくない。
そういう価値観も少しずつ変えていくことが出来たら楽しいと思います。
その第一歩としてまずは服から、MAから始めようみたいな感じで、着用し始めて頂ければ幸いです。

―日本では生産しやすいかもしれませんが売るには文化の成熟しているヨーロッパの方が向いている気がします

わかります。ヨーロッパの方が風景ともマッチしますし。日本では、カテゴライズ出来ない服というか。そもそもが、向こうでの自分の友達は8、90%がゲイなので、例えばメンズでいえば、彼らに向けたもの作りになっているのかもしれない。
日本でも、嬉しい事に、色々なおしゃれを通って来ている、いわゆる御洒落上級者の方からの受けは良いです。自分の物差しで好きか嫌いか物を判断出来る人、自分の人生を自分の手で作っている人、そういう人が、即断で購入を決めて下さる。服っていうのは”生き物”だから、波動のベクトルが合わないと着ていて違和感を感じる物なのだと思います。

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