Interview

森栄喜 intimacy 1/3


 
2013年12月、前作『tokyo boy alone』から約2年ぶりの写真集となる写真家森栄喜の写真『intimacy』が刊行された。
今回刊行された写真集『intimacy』(ナナロク社)では、自身の恋人や友人との1年間の記録として、時に、森氏自身も被写体として登場しながら、「親密な」関係性が描かれている。すべて35ミリのスナップショットを通して構成された本作では、日常の機微を、そして彼らと過ごす時間の親密性を丁寧に描きながらも、そこに発現する自身の感情をも焼き付けたいという森氏自身の欲望が、荒々しくも写真の中に現れている。

森栄喜氏は本作『intimacy』にて、すぐれた作品を発表した新人写真家を対象に贈られ、“写真界の芥川賞”とも呼ばれる第39回(2013年度)「木村伊兵衛写真賞」(主催・朝日新聞社、朝日新聞出版)にノミネート。2月5日に「木村伊兵衛写真賞」の受賞が決定した。
 
何気ない日常を切り取る、この絶対の孤独と、この狂気はなんだ……
山本耀司(ファッションデザイナー)帯文より
 
森栄喜の写真たちに潜在し変容する「退屈さ」の充実した時間を、これまで誰が、これほどの率直さと洗練において写真に撮りえただろうか。ここには、かけがえのないまばゆい生の一瞬が息づいている。
新城郁夫(琉球大学教授)巻末論考より
 
 
―まず今回の写真集について説明をお願いします。
 
写真集「intimacy」は2011年の夏から2012年の夏までの1年間の記録です。僕の恋人をメインに友人なども登場します。スナップショットのアプローチで撮影した日記的な記録です。決定的瞬間の種類の写真ではなく264ページ分の写真で一点の作品。たわいない日常の私小説みたいな部分もあると思います。
 
―今回の写真集を作るうえでどの位の枚数の写真を撮っているんですか?
 
計算していませんが、とにかくたくさんの枚数を撮りました。この写真を撮り始めたのが彼と出会ってからまだ日が浅い頃で、付き合う前でした。彼との関係性や距離感の変化の記録とも言えると思います。
 
―最初から写真集にすることは決まっていたんですか?
 
撮り始めて少し経ってから、出版社のナナロク社が声をかけてくださって決まりました。
 

 
―タイトルのintimacyとはどういう意味ですか?
 
親密性とか親近感という意味です。早い段階でタイトルを決めてそれをテーマに撮っていました。写真集にする作業は全て写真を撮り終えてから始めました。最後の写真は彼と僕の影が寄り添っていて二人で歩いていく。写真集は一年間だけの記録だけど、現実の僕たちの毎日のように、写真集の中の二人の毎日もずっと続いていくだろうと。
 
―写真と装丁などがすごく合っている気がします。デザインは誰がやっているんですか?
 
デザイナーの森大志郎さんにお願いしました。この本の表紙のシャープネス(薄さ)は、通常製本しづらいとても繊細なものになっています。見るたびに、だんだん手になじんでくるような紙質や大きさ、ちょっとアルバム的な要素も感じます。
 
―最初の写真をこの写真に決めた理由はなんですか?
 
一番最初の日に撮った彼の写真だったからです。それもその日撮り始めてすぐに撮った写真です。彼がその頃住んでいたマンションの屋上で撮りました。
 
―この写真集にはコンセプトや作り込みみたいなものは一切ないのでしょうか。
 
そういったものがないのがコンセプトかもしれません。通常、写真集って決定的な決め写真がたくさんあると思うのですが、ほとんどないですし。そうした写真ばかりで構成しているのはある意味挑戦かもしれません。二人の生活自体がテーマだからテーマもとても普遍的ですし、撮り方もストレートです。
それに内容は男と男だけど、従来のゲイ写真に多く見られる露出多めの写真や、裸などセックスと関連付けてという写真は凄く少ない。敢えてそういう写真を撮らなかったわけではありませんが、日常を丁寧に撮る中でそういう写真は自然と少なくなりました。
 

 
―確かにそれはあるかもしれません。森さんの写真は凄くナチュラルでいい意味でゲイっぽさをあまり感じない写真な気がします。従来のゲイの写真というのは生々しくてグロかったり、普通の人には受け入れづらいものも多かったです。
 
それもそれで視覚的にはインパクトもあるし、欲望や開放的なメッセージを伝えていていいと思う。僕は僕なりのアプローチで伝えられればと思っています。
 
―写真集は同性愛者のカップルですがこうやってみると男女のカップルと何も変わらないですよね。
 
そうですね、誰かを愛おしく思う気持ちって、全然変わらないと思います。
 
―栄喜さんは同性愛者ということを隠さず活動されています。仕事をする上でやりづらい点はないですか?
 
作家だからその部分は切っても切り離せないと思います。やりづらいと思う部分はありませんが、公言することにより狭めている部分はあるのかなとは思います。そういうのを駄目な人は駄目ですし。
でもこれまでのゲイのアーティストが発表している作品って、裸とかセックスをテーマにしたものが中心だったし、とても閉ざされてる感じがするんです。それを自分がもっとオープンな感じにバージョンアップさせていきたいんです。僕は普通に暮らして普通に楽しく生きている。近い未来にもしかしたら結婚もできるかもしれない。社会も変わってきている。
 

 
―でもやはり最初にカミングアウトするときは葛藤もあったりしなかったのですか?
 
もちろんありました。でもそれがあった上で自分は乗り越えている。だから自分がこうやってカミングアウトしたうえで頑張っていることで「誰でも乗り越えられるんだよ」というメッセージにもなると思うんです。自分より下の世代やこれから思春期の人にも届くかなって。
 
―海外だと同性愛も普通だったりするけど日本ではやはり少し異端児的な部分、カミングアウトしづらい部分はまだあるかもしれませんね。
 
そうですね。同性愛者のポジティブなイメージってまだあまり発信されていない。だからそういうことも、もっとやっていかないとなと思っています。
自分自身も打ち明けられなかったからこそ海外留学を選んだのかもしれません。僕の十代の頃は、地元でカメラ持ち歩いていただけで変わった子だねって言われたりしました。小さい街だとやっぱり目立つんですね。その頃はゲイということも親や友人に打ち明けられなかったですし孤独でしたね。
 
―やっぱりカミングアウトするには勇気がいるんですね。
 
そうですね。やっぱり打ち明けるのには勇気がいりました。5,6年前に話をした時父は泣いていました。孫も見られないし、僕は長男なので父親は家を継がせたいという思いもあったと思います。父が泣いてる姿を見るのは初めてでとても切なかったです。でも今では僕が撮っている写真も見てくれていますし、僕のインタビュー記事も読んでくれています。でもカミングアウトしたからといってすぐに全てが解決するわけではないんです。僕も父との新しい関係を模索しながらつくっている最中です。

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