“『汚れて綺麗な白い鞄』、そういう雰囲気にしたかっんです。壁とかもそうじゃないですか”
‐最初からああいった感じで作られていたのですか
パターン的には間違いなく変わっていないですね。布で作っていても。布というか不織布です。紙ですね。それを20,30枚重ねて手縫いで縫ってたんです よ。裂けたりはしないんですけど物凄く毛羽立ちます。今は手縫いをやめて全部ミシンで作っています。それで2005~2006の間に東京に出てきたんです よ。
‐東京出てきた当初はただやってたってだけなんですよね
そうですね。大阪で暇だったからバイトで食いつないでお店に委託で置いていたんですけど月1個動くかどうかだったんで。兄が東京に住んでいて引っ越しする から一人で住むよりかはルームシェアした方が安いじゃないですか。だから僕が近くのカフェでチョコ食べながら紅茶飲んでる時に電話かかってきて「一緒に住 めへん?」、「ええよ」って。特に考えもなく答えたんですよね。
‐東京に憧れはなかったんですか
あんまりなかったですね。東京に来たことは1度や2度あったけど美術館巡りだったから特にここで仕事することも考えてなかったし、でも大阪にいても変わら ないしって。その頃凄くやさぐれてて一日パイン飴しか食べてないとか不摂生な時期がざらにあって。
‐実家ですよね
自分の実家って荒くれ者の土地なんですよ。岸和田です。少年愚連隊って脚色もあるけど結構本当にあんな感じで。子供のころからずっと馴染めなかったんです よ。一年中ずっと祭り(だんじり)の話しかしないんですよ。だんじり祭り自体は僕凄く好きで彫り物も凄く好きだしみんなで頑張ってる姿とか見たら楽しい じゃないですか。やり回しとか言ってコーナーをそのままやったりしてそれで死人も出たりするんですけど凄く楽しいんですよ。でも青年団というのがあるんで すけどその青年団同士の仲間意識があって高校の時もなんか知らないけど机に紐付けてわっしょいわっしょいずっとやってるんですよ。休み時間になる度に。 で、感極まって泣いていたり。それで「気持ち悪い、この街嫌」と思って。かつあげどころか意味なく殴られたりしますし何人かに囲まれることも多いんです よ。上見てたら「何メンチ切ってんねん」って。大変でしたね。だから大阪でも一人暮らしでした。ずーっと周りに溶け込めなかったですね。
‐専門学校時代は大丈夫だったんですか
大丈夫じゃなかったけど大丈夫でしたね。暴力的なところも無かったし、専門学校って頭おかしい人多いじゃないですか。ナース服で学校来たりとか。でも可愛 い子じゃなくて不細工なんですよね。楽しかったんですけど。
‐影響を受けたアーティストはいますか
Matthew Barneyとかはやっぱり影響受けていますね。最近むかついたのがファッション関係の人達が口を揃えて言うのが「マルジェラに似てる」なんですよ。 「知ってるわ、影響受けてるわ」って。だからって「それで物の良し悪し測るのつまらなくない?」って思うんですよね。外国人の人は絶対言わないんですよ。 そういう人たちは純粋にデザインを評価してくれて「なんでこんなの作ったの?」とか聞いてくれるのに。
‐だからどうこうってわけじゃないですがマルタンマルジェラのことが好きなのかなとは感じました
でも実は僕、マルジェラの服自体はそんなに好きじゃないんですよ。マルジェラのショップ作りとか世界観の構築の仕方とかは凄いなって思うんですけど。
‐マルタンマルジェラってショーに行ってもパワーが違うんですよね。好き、好きじゃないの問題じゃなくてショーに対するパワーが違うんです。服が好 きじゃなくてもショーを見たらファンになるそれだけのパワーが彼のショーにはあるんですよね。空間まで含めてのショーって言う感じで。
そうなんですね。出来れば僕もそうありたいんですよ。展示の仕方とかそういうものを作るというので。当時僕が見ていたのってMatthew Barneyとか維新派ってその中身の問題じゃなくてなにかを見せるって言う感じじゃないですか。そういうのとビジネスを絡めるというのをやっていきたく て。で、ギャラリースペース持ったり、個展やったりしているんですけど。音を吸収する素材があってそれを使って無響室(完全に音を吸収する部屋)を作りた いと思ってて。それを個展とかで演出したいんですよね。
‐本当はもっとプロダクトだけじゃなくて空間も見せたいって感じなんですね
全体で見せたいですね。だから個展やったら僕正直売れないんですよ。個展ベースじゃなくて卸ベースでやっている方がお金になるのでやっているけど本当は無 響室作りたいんですよね。でもそれを作るとなると200,300万かかるんですよね。素材自体は凄く安いんですけど。
‐Kagariさんの作る物はプロダクト寄りの作品だと思いますか、それともファッション寄りの作品だと思いますか
多分見る人によって違うと思うんだけど僕はこうもりなんですよね。プロダクトだったらもっとちゃんと企画してもっと人が使うために作る形だし、ファッショ ンだったらファッションでもっと違う展開の仕方というか・・・でも一人でのほほんと作っているのであんまりわからないですね。
‐意識したことはないと
無いですね。
‐機能性は考えていますか
やっぱり自分で使うので使いながら考えていますね。持ちやすいようにとか。自転車に乗る用とか。
‐白と黒で使っている革は一緒なんですか
白い物は牛のクロームなめしにパテを使っていて黒い物が馬のタンニンなめしです。
‐なんでパテを使おうと思ったのですか
彫刻とかが好きで彫刻っぽい鞄を作りたいと思ったんですよ。で最初セメントを革の上に塗って失敗したんですけど。ミシン通らない、織り曲がらない、すぐ剥 離する。で、実際鞄の形なので当たり前なんですけど使えた方がいいじゃないですか。それで、彫刻感を出すためにペンキもやってみたんですけどフラットすぎ て彫刻じゃなかったんですよ。壁とか瓦礫とかのイメージを再現するには。そういうのをやってみてパテが一番そういうものの質感、凹凸感に近かったんですよ ね。折り曲げも出来るし、コストパフォーマンスも良い。
‐レザーを選んだのはなぜですか
使いこんでいくうちにどんどん味になってほしいなって。キャッチコピーに『汚れて綺麗な白い鞄』ってそういう雰囲気にしたかったので壁とかもそうじゃない ですか。施工仕立てのコンクリート打ちっぱなしの雰囲気も良いけどこの辺の街の(馬喰町)物凄く汚れた壁とか綺麗じゃないですか。そういうイメージにした かったので布だったら使っていくうちにちょっと違ったんですよ。馴染むというよりもそのまま汚れるとかへたれるという感じだったので革の方が持ちがよい。
‐革に辿りつくまでに布以外にも試したんですか
紙と布とパラシュート素材とアルミウェハース(アルミと布をウファースした素材)と革くらいですね。アルミウェファースが皺の感じを定着できるんですよ。 面白い素材ではあるんですけどイメージじゃないなって。これだったら壁の感じとかそういうのを連想できる物の方が良いんですよね。
‐壁が好きだったということですか
好きですね。彫刻も好きですし。
‐白が好きということですか
そこは難しいところで白に統一しているのってコストパフォーマンスの理由も大きいんですよね。パテの値段とか仕込みの問題とか。僕の鞄ってパテを塗ってか ら2週間くらい寝かせなきゃいけないんですよ。で寝かせてから鞄の形に縫い上げて、縫い目とかにまたパテ塗ってということなので個人でやっているから一つ の素材でやって色んな展開した方がお金的にも良いし、全体統一された物が好きなんですよ。だからあまり色んな色を展開したら自分で作れなくなるから。
‐特別白に拘っていたわけではないんですね
壁だから白が当たり前なんじゃないくらいですね。ギャラリーとかに行くのが好きだったのでギャラリーってホワイトキューブじゃないですか。あの雰囲気が好 きなので。それとか写真スタジオとか。
‐鞄を1個作るのに1カ月はかかるということですね
そうなりますね。革の仕込みさえしてたら一日3,4個は作れるんですけど0から作ろうと思ったら1ヶ月くらいはかかりますね。パテの面白い部分って凹凸の 部分にまで染み込ませることが出来るんですよ。まちの部分とか。
‐スキンシリーズの動物の皮膚ということを説明してください
動物の皮膚って本当は気持ち悪いじゃないですか。汚れてたり。でもなめされている革って凄く綺麗なんですよ。それが嫌で。もっとグロテスクな方が良いん じゃない?って。革って本当はもっと固いんですよ。固いところに揉んでオイルを染み込ませて柔らかくさせているので、水を染み込ませてアイロンのスチーム で熱を与えるとその油分が移動したり飛んだりするんですよ。だから固く戻るんですよね。そこまで戻ると使っていくうちに柔らかくなったりすることはあまり ないですね。
‐レザーをまた動物に戻しているということですか
皮膚だけですけど。形を動物にするとコンセプチュアルすぎるので。
‐スキンシリーズは黒だけですね
そうですね。本当はもっとあっても良いんでしょうけど。素材を厳選してそこから色を選ぶことが多いですね。でも完全にコストパフォーマンスと僕が仕事嫌い ということに繋がるんですよね。出来ることなら仕事したくないんですよ。ずっと寝てたい。そういうパフォーマンスをしようかなって。
‐四角い鞄はどのように作っているんですか
ミシンで縫って、そのミシン目を後からパテで隠しているんですよ。鞄のまちを中央に持ってくることでもっと立体的な違う形に出来るんじゃないかなって。 テーマが壁とか空間なので、空間を描く時ってフレームを描くじゃないですか。そのフレームを持ってくることによってそういう形になるんじゃないのかなっ て。
続く