Interview

Yu Fukumoto 2/5

アントワープの絵を見ると綺麗に顔も体も描いているんですよね。でもそういうのを逆にセントマに持って行くと「退屈だね」って

‐福本さんはアントワープとセントマ二つの学校で学びましたが各校で教え方は全然違ったんですか

最近それについて話したりもするんですけど違いはアントワープの方が教えるんですよね。セントマはどちらかといえば教えずに教える教育。だから先生から何 か特殊な事を教わったかというと意外と何も教わってないということが多くて。自由にやらせる感じですね。アントワープは「Walterがこう言ってた」と か意外と教わっています。あと違うのはスパンの違いですね。アントワープは長い期間で大きいものを作る。セントマーチンは一個のプロジェクトを2週間単位 で作るんですよね。服を作る段階に入っての時間のかけ方は全然違う気がします。アントワープはシャツ一枚にしても厳しい先生だと「直してこい」ってシャツ を何十枚も作らされたりとか、0からやり直しなんですよね。デザイン画を描いてトワルを組んでやるんですけど「デザイン画ではなんでフィットしているのに 実物ではフィットしてないんだ」って。本当に細かい直しをひたすらやらせたりするんです。セントマはやっぱりパタンナーがいるし山縣君みたいのが卒業出来 るけど、彼みたいなタイプがアントワープを卒業出来るかと言ったら難しいかもしれないですね。

‐アントワープに入った頃には洋服作りは出来るようになっていたんですか

出来なかったですね。絵は描けるようになっていたんですけど。セントマに入った最初の頃山縣君にいつも絵を馬鹿にされていたんです。「うんこしか描けな い」って。本当にうんこしか描いたことなかったんですけど。それにセントマに入る前に絵を描いていてwrittenの二人に絵を見てもらったら「女性がイ カみたいだよ」って言われたりとか。本当に絵がひどくてそこから凄い頑張って、描けるようになりましたね。

‐アントワープとセントマで絵の描き方も違うと聞いたのですが

坂部くんは凄くアントワープっぽい絵の描き方をしていて唯馬君は日本人ぽい絵の描き方をしていましたね。

‐具体的にどういうことなのですか

2人とも線が多いんですよね。例えばITSの絵とかを見ていてもアントワープの生徒の絵って歩いてるんですよ。坂部君の絵は歩いていないのもあるけどアン トワープっぽい絵の描き方というのはありますね。

‐セントマはどうですか

セントマは体をそんなに意識していないですよね。体を描かずにデザインを描く抽象的な絵の感じは凄くセントマ的描き方ですよね。アントワープの絵を見ると 綺麗に顔も体も描いているんですよね。でもそういうのを逆にセントマに持って行くと「退屈だね」って言われると思うんですよね。

‐日本のデザイナーはデザイン画を描かない人も多いですよね

多いですね。企業も描かない人が多いですし。自分はNYに行ってたけど結構描かないところが多かったですね。メンズ関係も描かないところが多いし。結局 スーツというものがあるとして「今シーズンはここを何ミリ変えよう」とそういう考え方だから、メンズに関してはピースピースでの考え方なので「面白いジャ ケットを作ろう」となっても全身描く必要無いんですよね。

‐セントマで絵を学んだわけですがアントワープに行ってそのスタイルを修正されたんですか

自分はどちらかというとアントワープに入ってもそれを捨てないようにしていましたね。アントワープに来た人でセントマから来た人もいたけどみんな辞め ちゃったから結局アントワープしか知らない人が多かったんですよね。そんな中自分はどっちの世界も知っていたからそういう面を持って作品を確立したいなと 思っていたので学校が求めている絵を描くのではなく、両方見た上で良い絵を描きたいなと思っていたから中間くらいかもしれないですね。

‐なぜセントマ、ロンドンで学んだ人はアントワープが合わない人が多いんですか

セントマのBAから来た人も何人もいたけどみんな辞めちゃいましたね。タフさが違うし、アントワープの方が全然忙しいんです。本当に自分を壊していかない といけないしもっともっと凄いプレッシャーを掛けてくるから。セントマはそういうのではなく伸び伸びともの作りをやる感じだからスパルタではないんですよ ね。日本は勤勉だしスパルタな部分ってありますよね。だからアントワープでも意外と日本人、ドイツ人って生き残るんですよね。北欧の人とかはまだ今まで一 人くらいしか卒業してないんですよね。教育が全然違うんで。

‐坂部さんが卒業した年が史上稀に見るレベルの高さだったそうですDemna Gvasalia(元Strereotypes)の作品とかも凄く良かったですよね

Walterとかが「あの年は一番レベルが高かった」と言ってますね。Demnaに関しても今はマルジェラでやっているけどスター性がありましたよね。

‐ここ何年かの作品を振り返っていたんですけど既に出ているデザイナーってあまりいないんですよね。やっぱりアントワープのやり方って既に時代に 合ってないのかなという感じもしましたが

確かにアントワープは古いと思います。だけど作品は強い。教育という面で考えればトップだと思う。1年生で立体を壊す作業をして2年生で歴史コスチューム やって3年生で民族衣装をやってって凄い世界的な、宇宙的な感覚で服というものを捉えようとしてやっているので。例えば日本の教育というのは日本の市場を ベースにしてどう考えるか、そういう教育になってくると他の国で通用しないんですよね。でも民族衣装をやろう、歴史衣装をやろうとなると歴史をさかのぼっ ていく作業だったり、世界をさかのぼっていく作業をしたりして宇宙的な感覚で「服とは何か」ということをベースにして作っていくからどこの国に行っても大 体通用するんですよね。ロンドンにいる時と日本にいる時で自分達の着る服って変わるじゃないですか。というのは地場が変わると自分達の考え方も変わるか ら。そういう考え方をベースにした上でものを作っていく必要はあると思うんです。

‐その上でアントワープの人達は不器用なのかなって感じもしますけどね

凄い不器用ですね。モードから無理してコマーシャルに行こうとして失敗する人も多いし。そこはうちらの強いところじゃないからあえてそっちに傾倒するので はなく、(モードを)つら抜いていくべきだと思うんですよね。そこが強いところなんだから。

‐結局リンダ(ロッパ元学長)時代の方が良いデザイナーが生まれている気がします

あの時はオールキャストだったから。リンダがいてWalterがいてパトリックという先生がいて。それにBruno Pietersもやっていたし。Brunoはすぐ近くで見てものを言うから凄く良い目をしているとみんな言ってました。ビジュアルのインパクトというより はディテールの美しさだったり。今はWalterが学長ですが形が出来てしまうと先生としては壊しにくい、Walterはミニマムは嫌いではないんですが 学校の方向性上思いっきりやってる生徒を応援せざるをえないんだと思います。「ちょっとこれやってみろよ」って、で「やってみようか」というくらいの生徒 が好きなんですよね。

‐だからこそああいう色になってしまうんですね

過剰装飾だったりとかにはなってしまいますね。

‐逆にセントマはどう思いますか

セントマはやっぱり凄いとは思いますよね。アントワープのマイナス部分でもあるんだけどアントワープと違う意味で凄いと思うことは絵を見た時に「この絵凄 いな、この絵どうやって服に表現するのかな」って思うんですよね。さー作ろうとなって絵より良いものが出来てもいいんですよね。もしくは絵が凄すぎて逆に 追いつけなくてもいいんですよね。そういう感覚ってアントワープの学校にはないから。アントワープは絵を綺麗に描いて本当にそこに近づける作業で。それっ て逆に可もなく不可もなくだったりすることも多いし驚きがなかったりだったり。というのは絵自体がある程度綺麗に決まっちゃっているんですよね。例えばセ ントマは抽象的なもので終わらせるからその抽象的なものを追いかけるからこそわけわからないものが出来ちゃったりするんですよね。そういう部分はアント ワープは消しちゃっているのかなと思いますね。

‐メゾンのデザイナーになる人はアントワープよりセントマの方が多いのかなと感じます。Mariosや(Christopher )Caneにしてもそうですけど

特に今本当に風潮や時代もあるけどうちらはかなりないがしろにされていると思う。それが何に取って代わられたと言ったらロンドン勢に変わっているんですよ ね。例えばOlivier Theyskensが切られてRCAかセントマの人に取られているしそういうのがそこら中で起こっているから時代がそうだと思うんです。だけどこれで(ア ントワープは)終わらないと思う。今がそういう時代であってこれが変わるとまたうちらの時代は絶対来ると思いますね。ここ数年はアントワープから出てきて いるデザイナーはほんとにいないしBernhardはコンスタントに良いものをやっているけど評価が凄く良いというわけではないじゃないですか。でも例え ば自分がフリマで疑問を抱いている。その疑問がもっと拡大していけば例えばそこで経済が変わればみんなそういう消費系のものに手を出さなくなるからそう なった時にどうなるかといったら絶対うちらみたいに変わったものを作っているところに目が行くはずだからそれがたまたま今がそういう時代だと思うんですよ ね。

‐僕もそれは感じています、今東京で頑張っているデザイナー達の声が今の若い子達に伝わればそこからまた新しい世代が育ってくると思うんですよね。

山縣君のショーを見て「あ、くそだ」って言ってる人はまだ疑問を抱いていないだけなんだけどそういう人ももうじき「あ、おかしいな」って思うようになれば そこは変わると思いますね。これが続くと思えない。今はみんなが同じようなものを買ってそんなに高いものを買うわけではなく経済もそんな感じだから。でも 絶対経済が変わればそういったのりも戻ってくるし、アーティスティックなのりも戻ってくるし。

‐彼らは凄く深いことを考えている。でも結局評価されているのは表面的な部分だけなんですよね。だから彼らの声がもっと伝わればいいと思うんですよ ね。デザインをするのは表面的なデザインだけじゃなくて内面的な、心の部分までデザインしているんですよね。それって伝えていかなければいけないから

やっぱりうちらがやろうとしていることというのは形が無いからこそ意味があると思っている部分もあるし。自分は今writtenafterwardsに参 加して作業しているけどやっぱり疑問があるからこそだと思うし。今のファッションにしても。駄目とは言わないけど。せっかく良い物作れるんだから売れるか ら良いというのではなくて。それは時代が来れば変わるけど別にうちらがそれを待っている必要はないし。今ファッションやっている人ってもういずれ消えてな くなるものですよね。いわゆる大御所と呼ばれている人は凄いけどもう見えているものは形あるものをただ抱えているだけだしそこに助力する必要はもうない。 うちらはうちらでその次、いずれ消えてなくなるものを追うのではなく次の世代だから。どういうものかわからないけど今の疑問に関してのリアクションが出来 ればと思います。

‐今はファッション本来の楽しさが伝わってないという感覚は凄くしますよね

消費メインでもの作りをしていると同じものを作っちゃうし、そうではなくてうちらから提案していかないといけないと感じています。

続く

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