Interview

AGURI SAGIMORI 4/4

“凄く大変なことがいっぱいあって、折れそうになる時もありますけどそれに対してやめなかったからここにいるだけなんです”

―ショーの世界観作りは洋服が出来てからですか

そうですね。洋服が出来るまで結局わからなかったり自分でも見えなかったりするので目で見えるようになってから最終の詰めと言う感じじゃないですかね。自分にあるものをより濃いものにしてくれるチームがありますのでそこは委ねています。デザインの時からイメージは伝え続けていて「こう変わりました」とか「こういうのも入れて行きたい」というのも伝えて。服が上がってきたら「もうちょっとこっちじゃない」というのも見えてくるのでずっと話し合って決まる感じですね。前日まで決まらないこともありますね。

―黒のイメージが強いのですが明るい服を提案したりとかもあるんですか

色味として明るくなることはあるかもしれないですけどイメージとして明るくなることは無いと思います。暗い意識はあまりないんですけどみんなが暗いとか怖いとかいいますね。

―自分自身が暗いからというのはないんですか

多分それは無いと思うんですけど・・・。意外と社交的だと思いますし。でもしっくりくると言うか一番落ち着きやすいトーンで色味でという感じですかね。

―2シーズン見てAGURI SAGIMORIはテーラリングと黒というのが凄く強く感じられたんですがそこは意識されているんですか

そうですね。テーラードはやってもやってもやりきれないくらいの課題があるので毎回トライしていますし黒と言うのはパターンメーキングを自分達でやっているのでまずパターンを見て欲しいんですよね。そういう意味でそんなに装飾はまだ必要じゃないかなと思っている要素でかつ自分が好きな色というのもあると思います。

―ポエティックな印象も受けました

やっぱりものを作っていく以上はこなしたり、生産的になると言うよりはちょっと感傷的な部分を作れたらいいのかなと思いますね。

―HPに日本独自の繊細な美意識と内に秘めた真の強さを表現すると書かれていたのですが日本独自の繊細な美意識とはなんですか

日本人の美意識と言うのは作る上でもそうですけど女性自身が凄く繊細ですし、心配りとか男性もそうかもしれないですね。そういう意味での繊細さなんですけどダイレクトにとかわかりやすくとかそういうことじゃなくてテーラードにも直結しますけど見える部分だけのデザインじゃなく見えない部分にもしっかり手を加えてという意味で誠意を込めると言う意味での美意識ですかね。雑な仕事はしたくないと思っていますので。

―テーラードが中心になっていることもそうなんですけどわりとメンズでも着れそうなデザインが多い気がするんですけどメンズウェアーをやろうとは思わないのですか

ショーに来てくれる方は男性のお客さんも多くて展示会にも直接買いに来てくださる方が多いんですけどその中の3,4割が男性なんですね。メンズをやろうかなとも考えましたけど私がメンズをやるというよりもレディースのニュアンスが出ているメンズっぽい服をみんなが着たいからそれに対してアイテムを増やしたりとかは考えていますけど多分ばっちりメンズと言うのは私がやってもちょっと響かないところにいる人達なんですよね。

―素材使いはどちらかといえばレースや柔らかな素材など女性っぽい素材使いの気がしますがAGURI SAGIMORIを着こなす男性とはどういう人達なんですか

レースが欲しい人達というか・・・仕立ては左前で全て男性仕立てなんですよね。メンズしか使えない素材も使っていたりするんですけど。装飾男子と言われている人達というわけではないんですけど。サイズが合っていなくても細身で着たいし自分を美しく見せたいと言う人達ですね。ゴシックの美しさってあるじゃないですか。そういうものを美意識として持っている男性。ヒール履きたいとか、きらきらしたいとかレースも着たいということも含めてのお客さんが多いですね。「自分を綺麗に見せたい」と仰っている男性が多いですね。でもゲイではないので新しい世代ですよね。

―2010S/Sの展示会ではキャンドルアーティストとのコラボレーションでゴシックぽくなっていました。あれはなぜですか

キャンドルを作りたかったというのがあるんです。欲しいと言ってくれる方がたくさんいたので(コラボレーションした)LUZさんの方からお譲りもしているんだと思いますけど今回の展示会に合わせてイメージを強く見せる為に作ってもらいました。ショーだとコアな部分を強く強く見せるんですけど展示会では自分もなるべく立ってAGURI SAGIMORIのディテールを全部伝えたいと思っているのでそういうツールがあればいいかなと。

―毎シーズンのテーマはどのように決めていってるんですか

テーマの言葉自体はぎりぎりまで決めずに一番最後に決める感じですね。候補は何個かあって仮テーマと言うことでみんなで共有はしますけど本当に服が出来あがって人が着ているのを見てから決めるようにはしていますね。なぜかと言われたらわからないんですけどショーが終わった時には次のイメージがあるんですよね。インスピレーションは止めることが出来ないのでそれまでいっぱいあって自分の中に溜まっているんですけどそれは次においておこうと抑止していて、でもショーが終わった時には一区切りつくのでその次のイメージを考えていたりしますね。

―具体的なインスピレーション源としてはどこからが多いのですか

なるべく日常から取り入れようとしていますね。ちょっと読んだ本に良い素材があってもそれをそのまま使うのには私には噛み砕く時間が長い時間必要なのでなるべく半年は出さずにおいておくことが多いです。でもなるべく日常、デザイナーではない時間の時に見つけた物で感動したものをストックしておいてと言う感じですね。

―以前江戸川乱歩の本を題材にしたコレクションもありましたが本というのも重要なインスピレーション源なのでしょうか

そうですね。言い方があまりよくないんですけど本は本当は出したくなかったんです。私の本当のプライベートな部分だったので。だけどみんなが見たいのはそこというか自分の本当に好きなものをそのまま伝えるのをみなさんが求めているんじゃないかなと思ってなるべく素直にやろうと思い本をテーマにやったんです。言葉とかもそうなんですけど本は本当に自分の一部であるので。自分が美しいと思う言葉とかもあるけどそれを大事に取っておきたいと思っていたんですよね。でもそれをやることで共感してもらえる人がいるならいいのかなと思ってやりました。

―本だけでなく言葉からくるデザインというのもあるということですか

それはないですね。ロジックな人間ではないので。基本的にこういう言葉が素敵だなと言うのはストックで持っていますけど言いきらないようにしています。だから言いきるのは本当にショーの前日です。

―今後どのようなブランドに成長させていきたいですか

まだまだ武器が足りない、ブランドとしてもっともっと足りない部分はあると思うんですよね。やっぱりイメージを強く出す分そこに集中しているというのもありますし。例えばこのシーンではAGURI SAGIMORIを着ているけど他のシーンでは違う洋服を着ている人が多い。でも「このシーンでも着れるAGURI SAGIMORIがあればいいのにな」と自分の中で思うのでそういう意味でももう少しみんなの生活シーンというのを見てそういう構成が出来るブランドであり、かつちゃんと強いイメージを毎シーズン出せるもの。野望的なものが無くていつも困るんですけどそれが凄く大事なのかなと思いますね。

―09A/Wから少しready to wearよりのデザインというか街でも着れる要素が強くなった気がしますがそれは意識していたんですか

実はその前のシーズンからもあったんですけどショーには出していなかったんですよね。ショーにはイメージを伝えればいいから「そういうのを出すのはどうなの?」って言う意識があったんです。でもそれは着やすいものに対して落とし込みが出来ていなかっただけであってその考え方は違うなと思ったんです。着やすいものにもちゃんとイメージが落とせてこそちゃんとデザインなんだろうなと思ってそれにトライしました。それでショーに出しても大丈夫だろうというリアルクローズなモードが出来たのでしっかり見せようと思ってショーに出したのが09 A/Wのコレクションです。

―最後にデザイナーを目指している若い方にメッセージをお願いします

あまり年齢が変わらないので偉そうに言えることはないのですが私が出来ていたことってやめなかったことだと思うんです。みんなそうだと思うんですけど凄く大変なことがいっぱいあって、折れそうになる時もありますけどそれに対してやめなかったからここにいるだけなんです。やめようと思ったら誰でもすぐにやめれる。でもやめなかったら叶うんじゃないかなと思うので頑張りましょう。
HP:http://www.agurisagimori.com/

Photo:Takahito Sasaki, Interview & Text:Masaki Takida

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