Interview

uemulo munenoli ~シャツの概念を曖昧にし、シャツの概念を構築する~ 3/3

シャツだけでどこまで世界観を見せられるか。どこまで行けるか。どこまで独特性を追求していけるか。それを常に考えていますし、“世界観”を凄く意識しています

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―多くの欧州ブランドに携わってきた上で日本のファッションデザインはどう映りますか?

面白いと思います。ヨーロッパにはヨーロッパの良さがあるし、日本では日本の良さがある。それぞれの国に特性があると思います。

―具体的に日本の良さってどんな点ですか?

それを言葉にするのは難しいですね。伝統的な和の文化、着物の良さというのもありますし、例えば最近気になっていたブランド「runurunu」もまさに日本ブランドだと思います。興味があって(取り扱いのある)CANDYまで見に行きました。そういうモノにも興味があります。アングラ的な要素を含んだ日本独特のブランド。そういうブランドも日本のカルチャーだと思います。私自身はそういう今を感じる日本の若い世代のカルチャーにも興味がありますし、そういうものは向こうでは見ることが出来ないものだと思います。ただそういったものを以前の自分はなかなか受け入れることが出来なかった。それも日本でファッションを始めなかった理由の一つだと思います。

―通常のシャツには見られない独創的なパターンは、何からヒントを得ているのでしょうか?

格好良い言い方をすれば紙の上で描きます。何かを見ながらデザインを考えることもありますが、実際そういう見ているものが直接インスピレーションになっているとは限りません。だから本当に紙の上で引いている、そこから出てくるという言い方が一番近いと思います。

―デザイン画はシャツだけを描いているのですか、それとも人間も含めトータルで描いているのでしょうか?

90%はシャツのデザイン画を描いていますが、時々頭をリフレッシュさせる為にパンツやジャケット等のデザイン画を描いたりもします。そういったことをすることにより、頭が刺激され、また面白いシャツが描けたりするんです。

―絵にもテーマ性は含んでいるのでしょうか?

テーマはこれまではあまり直接的に言葉にしてこなかった。ですがこれからはそれを言葉にしていこうかなとは思っています。

―シャツにはそれぞれ名前がついていますが何か意味があるのでしょうか?

詩的なもの、綺麗なワンフレーズを付けたかったんです。プロトタイプのものはものの形を表現しています。tuboであればチューブ状のもの、bellであれば後ろがベルのような形をしていたり。

―シャツ自体はシーズンレスなモノですがコレクションはそのシーズンに限定して見せていくのでしょうか。それとも継続して前のシーズンも見せていくのでしょうか?

全てシーズンで考えていますので、あくまでそのシーズンにデザインしたものを見せていきます。ただ春夏や秋冬ということはそれ程意識していません。

―2011年は新人デザイナーファッション大賞のプロ部門で最終候補に残り、オープニングセレモニー賞を受賞しました。なぜコンテストに出そうと思ったのでしょうか?

普段はそういったものにあまり出さないのですが日本のことを知らないということもあったので人生で2度目のコンクールに出してみようと思いました。あれをきっかけに知ってくれた方も多いですし、色々声をかけてくれる方も増えましたし、知名度を上げるという意味では凄く効果があったと思います。
ブランドを始めてからファーストシーズンでそういったコンクールの最終候補に残ったことで色々なサポートを受けることも出来ましたし、色々な話が出来たのは本当に良かったと思っています。

―ショー形式での披露は考えていますか?

それは全く考えていません。自分には違うのかなと思っています。やるのであればプレゼンテーション的な方法で何かやるのが良いかと感じています。

―シャツだけのブランドに対しての周りの方の反応はどうですか?

様々ですね。驚く方もいられますし、どうしてと言う方もいますし、面白いと言ってくれる方もいます。十人十色です。

―女性像ってありますか。またそれはどんなイメージなのでしょうか?

言葉にするのは難しいですがあります。シャープで、高身長でマニッシュな女性。男っぽい女性がイメージです。

―シャツ同様、女性像に関してもやはりジェンダーレスな雰囲気を漂わせる女性を意識しているんですね。

そうかもしれません。

―自分自身が着飾ることは意識しているのでしょうか?

作るのは凄く好きですけど今でも着飾るということに関して言えばそれ程興味がありません。着飾るのは照れ臭いですね。

―今の職業をしている上で何が一番大切だと思いますか?

クリエイションの面でいかに頭をフリーに出来るか、いかに繊細に物事を考えることが出来るかだと思います。その部分は良く考えます。それに現実を考えて経営的なこともやっていかないといけません。

―素材選びで気を付けている部分はありますか?

使用しているのはほとんどがコットンですがその中でも凄く気を使っています。パリッとしている部分であったり、コットンの中に感じる緊張感が好きなんです。
基本的にはギャザリングやドレーピングもそれほど興味がありませんし、直線的なもの、“びしっ”としたものが好きです。

―ドレスシャツということですか?

“ドレスシャツ”その領域は好きですね。“カジュアルシャツ”ではなく“ドレスシャツ”の領域に挑戦したいし、そう言ってもらえる、思ってもらえることは凄く喜ばしいことです。
自分の中ではテーラー感というところがドレスに繋がる気がします。私が言う“テーラード”とは縫製の部分ですがそこは最優先ですし、仕上がりは一番意識しています。絵だけですが仕様書も描きますし、ミシン目のピッチも指定しますし、工場の人とも直接話はしてこれはuemulomunenoli仕様という線は作っています。

―uemulomunenoliのコンセプトには「ホワイトシャツという静寂の中のジオメトリック。音楽、カルチャーを含んだその時その時代を組み込んだ新しい造形シャツのカテゴリーを超えたコンセプチュアルなコレクション」と書かれています。その時、その時代を組み込んだ造形性ということは「今」という時代性を大事にされているということなのでしょうか?

時代感は常に意識していますし、それを何かの形で落とし込んでいきたいと思っています。新しいモノも好きですし。

―ということはuemulomunenoliのシャツは普遍的なものではないのですか?

クラシックシャツの概念とは違うモノだと考えています。あくまでモードを意識したものですし、それは時代によって常に変わるモノです。例え同じものを作ったとしても時代により少しずつ変化していきたいと思っています。
シャツだけでどこまで世界観を見せられるか。どこまで行けるか。どこまで独特性を追求していけるか。それを常に考えていますし、“世界観”を凄く意識しています。

―トータルコーディネートにも負けないほどの世界観をシャツだけでクリエイトすることは可能だと思いますか?

実際シャツだけを着ている人はいませんのでそれだけで世界観を全部出すことは難しいです。ですがそのシャツを着ているだけで「あ、この人」っていう世界観は作れると思います。
自分の中ではこのシャツだったらuemulo munenoliっていうイコールが芽生えるのが一番の理想です。直線的なカッティングのシャツならuemuloみたいなキーワード的な感じになれたら良いと思っています。

―uemulo munenoliの服っていわゆる東京的な、ストリート的要素をあまり感じませんよね。それよりはヨーロッパのエレガンスを感じるというか。それはミラノで初めてファッションに触れたからなのでしょうか?

それはあるかもしれません。
ただ自分の中ではフィッティングの時等に着物の要素を感じることもあります。形の中でですけど、落ち方だったり、シルエット的なところであったり、自分の中で和服と共通する部分もあるんじゃないかと一瞬考えるところがある。そんな時に日本人だなって思います。

―福島出身ということもあり震災の被害もあったと思いますがクリエイションに何か変化はありましたか?

服は全てメイド・イン・フクシマですが直接的にはないと思います。
私はずっと海外にいて帰って来て直ぐに震災を経験しました。向こうの友人達にはタイミング的に最悪とも言われますが自分の中では逆に絶好の機会に帰ってきたなって思います。日本にいたことで震災があったときに親に連絡が取れたのも幸運ですし、今は転換期だと思うんです。そんな時に日本人である私が日本の国民と共にそういった危機に立ち向かうことが出来る。それって逆に良かったんじゃないかって。
長くヨーロッパで生活していたのですが今までは日本のことや文化をあまり意識したことがありませんでした。それが今回のことをきっかけにそういうものを意識するようになりました。

―今後一番やりたいことはなんですか?

今やっていることを継続していくということが大事だと考えています。その上で色んな人に自分の創ったモノを見せたいです。まずはシャツを広めていくということが目標。それにもっと面白いシャツを作りたい。「もっと何か出来るのではないか」ということは常に考えていますので。
自分の味が出るような発展の仕方はしたい。でもあくまで中心はシャツ、それが持つストーリーは大切にしたいと思っています。

Interview & Text:Masaki Takida

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上榁 むねのり / Uemuro Munenori
福島県出身
1993年 専修大学 商学部 卒業
同年 内装業営業職に就く
1996年 イタリアに渡る
2002年 ミラノ IED “Istituto Europeo di Design” ファッションコースを
主席で卒業
     : イタリア ファッション誌 “Gramour” コンクール入選 奨学金を受賞入学
2002年 “CoSTUME NATIONAL” にてレディースコレクション アシスタント
      2003S/S. 2003A/W.
2004年 “10 CORSO COMO” ショップアシスタント
2004年 “DiaTricot” コンサルティングデザイン ニットブランド “RenD” 製作
2006年 フランスに渡り “0044 Paris” にて2007A/Wメンズコレクションアシスタント
2007A/Wレディースコレクションデザイン
2007年 ミラノに戻り “JIL SANDER” にてRAF SIMONSのもと レディース
      コレクションをデザイン
2008A/W. 2009S/S. 2009A/W. 2010S/S. 2010A/W. 2011S/S.
2011年 日本に帰国後 シャツブランド “uemulo munenoli” を立ち上げる
URL:http://uemulomunenoli.com/

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