Interview

Hiroyuki Watanabe 渡部紘之 ~シンガポールと日本のファッション~

Hiroyuki Watanabeは2011年にデビューしたブランド。スウェット素材を中心にルーズなシルエットを特徴としたユニセックスのアイテムを提案している。近年ではアジア・ファッション・エクスチェンジ(AFX)の一環であるSTAR CREATIONに日本人デザイナーとして入賞を果たし、注目を集める。今回は日本ではあまり馴染みのないアジア・ファッション・エクスチェンジ(AFX)の一環であるSTAR CREATIONのこと、また彼自身のクリエイションについてを様々な話を聞いた。

―アジア・ファッション・エクスチェンジ(AFX)のカテゴリーの1つ「STAR CREATION」にはどういった経緯で応募されたのですか?

シンガポールファッションウィークのことは知っていましたけど「STAR CREATION」についてはあまりよく知りませんでした。シンガポールファッションが盛り上がっているということは色々聞いていましたから、何かコネクトできるものはないかなと探して、見つけたものが「STAR CREATION」です。

―そのコンテスト「STAR CREATION」では何点の作品を披露したのですか?

向こうに持っていったものが6点で、ランウェイを歩いたものは3点です。日本人の参加者は1人だけで12組がランウェイに参加しました。

―入賞が元々3名のところが4人になったというのはどういうことなのですか?

元々入賞人数は3名で、その3名には賞金とファッション・ブランド「FJ Benjamin」での 1 年間の研修を受ける権利が与えられます。
その3名の中から、1名に対して特別賞である「Audi Young Designer Award」を与えるといった規定でした。
それで入賞者発表で他の候補者が先に3人選ばれて。残念だなと思っていたら「Audi Young Designer Award」に選ばれたのは受賞の権利の無い僕でした」。選考の内容もその時はよく分からなかったのですが、特例というような形式で入賞ということになり、賞金を頂く事が出来ました。

―作品の審査はどのようなものだったのですか?

(通訳付きの)プレゼンテーションとランウェイによる審査です。
日本は審査員にデザイナーが多いと思うのですが、シンガポールではデザイナーではなくアパレルメーカーの人が中心に審査をしていました。質問内容などは大きな違いはそこまでありませんでしたが、受け取られ方は違いましたね。

―質問の内容はどういったものだったのですか?

デザインについてはあまり聞かれずファッションを始めた理由など根本的なことを聞かれました。審査基準にも商業的価値という言葉が入っていますから当然そうなるんだと思います。

―作品は「STAR CREATION」のために新たに作ったものだったのですか?

そうですね。テーマが“Internationally Asian”だったのですが、以前作ったものをそれにすり合わせていくという形で作っていきました。”アジア以外から見たアジア“ということをテーマとして言いたいことなんだろうなと、僕なりに解釈して、そこで民族衣装をまず考えました。その民族衣装的なものと自分のスタイルを重ねていったという感じです。

―“Modern Folk Costume”というテーマで制作されたようですが。

民族衣装をそのままみせるということは嫌だったので、民族衣装を現代的なシルエットに置き換え、そこにジャパンカルチャーのエッセンスを加えていきました。

―普段からジャパンカルチャーはインスピレーション源になっているのですか?

私の作品はアニメの色が強いと思います。色味や切り替え線はアニメからのインスピレーションが大きいと思います。
ジブリ映画に出てくる人物をデザインソースにコレクションを作った事もあります。

―Hiroyuki Watanabeというブランドで作る服と「STAR CREATION」で披露した服はかなりテイストも違いますよね。それでも作る過程や手法で、共通の部分というものもあるのですか?

共通点は正直ないと思います。「STAR CREATION」の作品はアート作品として制作したところがあるので。ブランドのアイテムはやはり商業のことも考えますから。

―入賞者にはカプセルコレクションを発表出来る権利が与えられるとありますが。

この権利に私は該当しません。この一年間研修を受けてきた、他の三名の受賞者が対象だと思います。

―シンガポールと今後も関わっていく予定はありますか?

これとは別に昨年末にシンガポールパルコにて約一カ月半、期間限定販売をさせて頂く機会がありました。
その他は今後関わる予定は特にありません。

―賞をとった他の3人の作品はどうだったのですか?

マレーシアとシンガポールの方でしたけど、日本人にはない、ユニークな感性をもっているという印象を受けました。ただ、どうやら素材の調達が日本と比べ難しいらしく、テキスタイルの質はあまりよくなかったな、という印象を持ちました。

―渡部さんは新人デザイナーファッション大賞などでも入賞していますよね。そうしたコンペと比べ、「STAR CREATION」のレベルはどう感じましたか?

規模で言えばシンガポールのほうがすごいと思います。応募人数とかではなく、ショーにかけられた資金とかそういうことです。

―具体的に、日本のファッションとの違いは感じましたか?

アジア全体に言えることかどうか分かりませんが、少し前の日本を見ているようでした。例えばジャケットのシルエットの形とか。正直、今はまだ、日本のファッションの方が先行しているとは思います。年間平均気温30度という問題とどう付き合っていくかによってシンガポールファッションの大きな発展はあると思います。

―作品ではなくプレゼンテーション能力に関して感じたことはありますか?

プレゼンは向こうの人たちのほうが上手ですね。単純にプレゼンとショーの重要度が違うのかなという印象を持ちました。
向こうの人たちってプレゼンありきという感じで。恐らく訓練もされているんだと思います。

―「STAR CREATION」で一番大変だったことは何ですか?

海外コンペに出ることが初めてだったということがあるのかも知れませんが、向こうって日本と違い提出物多いんです。例えばショップマップというような日本のコンペでは無かったものがあったりしたので、それには戸惑いました。

―アジア・ファッション・エクスチェンジ(AFX)も見て回ったのですか?どういった印象を受けましたか?

はい。シンガポールの若手の方のショーを見ることが出来ました。
まだ、日本の方が先行しているイメージですが。しかし、日本が先行しているのはクリエーションのレベルだけで、その期間のイベント自体の盛り上がりは日本のジャパンファッションウィークの時期よりはあると思います。

―シンガポールでは日本のファッションを羨望しているということを耳にしたことがあるのですが。

シンガポールは今日本のもので溢れていますからね。化粧品のポスターも日本人が多く起用されていて。ファッションでも同じことが言えると思います。

―「STAR CREATION」に出ることでのメリットってありましたか?

名前を売るということには役立つと思います。これのおかげで人脈も広がりました。

―ブランド自体のスタートは2011年ですよね。

ブランドのアイテムはユニセックスなんですが、ショーでもモデルは女性ですけど服自体はユニセックスです。

―シンガポールと日本のそれぞれのパルコで取り扱っていますが、売れるものに違いはありますか?

ありました。向こうは暑いのでどうしても、カットソー地のものや小物などが中心で。スウェット地も持っていきましたが難しかったですね。向こうでやるのであればやはり気候を考えて展開しないといけないと思います。

―日本のブランドは向こうで受け入れられているように感じましたか?

いい服というよりはブランドのネームバリューがあるところがやはり人気です。(コムデギャルソン、イッセイミヤケ、ヨージヤマモト)御三家がやはり人気だと思います。今の東京コレクションに出ているようなブランドはまだまだ浸透していないと思います。

―渡部さん自身ISSEY MIYAKE、Comme des Garçonsには影響を受けたとありましたが。

デザイン面でというのはあまりないですが、ファッションを勉強する上で影響を受けました。ISSEY MIYAKEはファッションの世界に入る前から知っていましたから、この世界の入り口としても影響を受けたブランドです。Comme des Garçonsは今でも好きなブランドですね。

―自分のブランドの服は着たいものを作っているのですか?

着たいというか着たくないものは作らないというイメージです。
元々ルーズなシルエットのほうが好きなのでボディーラインを意識しない服になっています。

―アート作品とブランドの服とどちらが作っていて楽しいですか?

どちらが楽しいとか、好きとかは無いです。
アートは見るのは好きですが、作るのは苦手です。ブランドの方は、その服自体にはそれほど感情みたいな事を感じてないかもしれません。むしろその先にある僕のブランドの服を手に取った消費者の方がどう感じて、その方の生活とどんな風に関わっていくか、そういった事に喜びを感じます。

―ブランドはどういったところからインスピレーションを受けて制作されるのですか?

特定の人物にスポットを当てる場合と、自分で空想して作った人物像に当てはめて作るという場合と2パターンあります。ざっくりとした人物像を描いて、そこからイメージを作っていくという感じです。

―ブランドのアイテムは変形パターンのものが多いですよね。

立体で作っていて、感覚的にやってる部分が多いからだと思います。要するに感覚人間です。

―モノを作る上で大切にされていることはありますか?

今のブランドで言えば着心地や素材感であったりと、着る人がどう感じるかに重点を置いてると思います。
今回の「STAR CREATION」の様な場では、テーマからぶれないという事を大事にしています。

―ブランドの展望について教えてください。

消費者との距離がなるべく近い状態で居たいと思っています。
その上でブランドの輪を広げていきたいです。

【プロフィール】
渡部紘之(わたなべ・ひろゆき)
1987年生まれ、島根県雲南市出身。2010年、広島ファッション専門学校卒業。学生時代は、新人デザイナーファッション大賞秀作賞・装苑賞入賞など数多くのコンペに入賞。2011年1月ブランド「Hiroyuki Watanabe」をスタート。5月にシンガポールファッションウィークにて開催された「STAR CREATION 2011」にてアウディ・ヤング・デザイナー賞を獲得。
2012-13A/WではTOKYOにて初ランウェイを披露した。

Facebook:http://www.facebook.com/HIROYUKI.WA.TA.N.BE
Twitter:http://twitter.com/#!/hiroyuki56

アジア・ファッション・エクスチェンジ(AFX)
シンガポール国際企業庁、SPRINGシンガポール、シンガポール政府観光局の支援のもと、シンガポール・ファッション協会などの業界の鍵を握る団体と主催者であるマーキュリー・マーケティング&コミュニケーションによって行われている。イベント全体は、国際的なブランドのコレクション発表や新人デザイナーの発掘「STAR CREATION」など4つのカテゴリーで構成され、シンガポールをアジアのファッションの中心地とするのが狙い。

STAR CREATION
「スター・クリエーション」は、シンガポール、ASEAN 各国の他、中国、日本などアジア各国から若手デザイナーが出品するコンクールで、本年度で3回目を迎える。
「スター・クリエーション」にエントリーするには、オリジナル作品6点の提出が求められており、クリエイティビティ、オリジナリティ、商業的価値、またその年のテーマへのアプローチの仕方が審査対象となる。審査によって12人のファイナリストが選出され、5 月に開催される最終審査会にて 3 人の優勝者が選ばれる。審査委員には、アパレル販売大手「F.J.ベンジャミン」代表ダグラス・ベンジャミン氏、シンガポール・ファッション協会 委員長デイビッド・ウォング氏、アウディ・ファッション・フェスティバルのクリエイティブディレクターであるコリン・マクダウェル氏など業界の著名人が名を連ねる
※1月31日をもって、「STAR CREATION 2012」のエントリーは終了
「STAR CREATION 2012」公式ホームページ(英語):http://www.starcreation.sg/

Interview & Text:Fumiya Yoshinouchi

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