GRENSONは創始者 William Greenによって1866年にイギリス ノーザンプトンで設立されたシューズブランド。
1874 年にグッドイヤー製法を世界で初めて使用した工場「 Grenson Yard 」ファクトリーを建て、英国で登録された最初のブランドのうちの一つとして1913 年「 Grenson 」はブランドとして登録された。
1901 年に William は他界したが、息子である Charles AK Green 、そのまた息子CW Sidney Green に引き継がれ、William のひ孫である JW Heyden Green が 1980年代に売却するまで、Greenファミリーが権利を持ち経営していた。その後、Purslow ファミリーが 30 年程ビジネスを行ってきたが、2010 年に Tim Little氏に売却をし、現在に至っている。
2005 年にはブランド活性化を担うクリエイティブディレクターとして加入したTim Littleは伝統的なイギリスの靴を、もっと気負わずモダンなこなしができるブランドとして新しい世代へ向けて打ち出し、2008 年 ロンドンのリバプールストリートに初の Grenson ショップをオープン、2010 年 Tim Little がブランドを買収し初のレディースコレクションを発表した。
GRENSONは今日、Mr. Porter, Selfridges, Liberty, Barneys NYC, Beams, Harvey Nicholsなどの世界を代表するリーディングストアにて展開され、Tim Little氏加入後はデザイナーズブランドとのコラボレーションも積極的に行われてきておりこれまでにLou Dalton, Edwin, Rag & Bone, Foot the coacher, Vivienne Westwood, Hardy Amies, Anderson Sheppard, Giles Deaconなどとのコラボレーションを行ってきた。
今回はGRENSONのクリエイティブディレクターであり、オーナーであるTim Little氏に様々な話を聞いた。
――1866年創業のグレンソンですがイギリスでも最も古いシューズブランドなのでしょうか?また当時と靴の製造方法はどのように変わったのでしょうか?
1866年に創業したグレンソンは日本でも有名なクロケット&ジョーンズやチャーチなどのブランドよりも古く、1829年創業のトリッカーズより少しだけ新しいのですが靴の街でもあるノーザンプトンでも最も古いシューブランドの一つと言えるでしょう。
私たちの靴作りの製法であるグッドイヤーウェルト製法はブランドがスタートした数年後に開発されました。そこからは全くといっていいほど工程は変わっていません。勿論機械が新しくなったりはしましたが手作業の工程などは何も変わっていません。
――靴作りにかかる時間も変わらないということですか?
変わっていません。手作りの靴というのは工程を変えることが出来ないのです。それはテクノロジーの発達によっても変わることはありません。
私たちが一つの靴を作るのには250もの異なる工程があります。その工程はひとつたりとも減らすことは出来ません。
それは私たちのブランドだけでなくグッドイヤーウェルト製法で生産している全てのノーザンプトンのブランドが同じような工程を踏んでいるのです。
――そもそもノーザンプトンという街が世界でも有数の靴の生産地となった理由はなんですか?
靴の材料である革をなめすには綺麗な水が必要でした。ノーザンプトンには美しい川が流れており(革をなめす)タンナーたちはその川の近くに住み始めました。タンナーたちがいるということは靴が作りやすい、したがってそこで靴を作る職人も増えていきました。結果そこに靴を作るブランドが増えていったということです
今は綺麗な水も手に入りますし、当時と違い川があるということはそれほど重要なことではありませんが、職人たちがノーザンプトンの街で育っていますし、工場もそこにありますので結果的にノーザンプトンという街が現代まで続く靴の有数な生産地となったのです。
――グレンソンというブランドが150年以上も生存し続けることが出来た理由とは何だと思いますか?
20世紀後半シューインダストリーは日に日に小さくなっていきました。より安い靴が中国やブラジル、ポルトガルなどで生産されるようになったからです。イギリスのシューメーカーの中には安価な靴を作り、それらの国のものと競争することに挑戦したブランドもありました。しかしそういったブランドはどんどんなくなっていきました。結果として値段にとらわれず歴史を重んじ、よりクオリティの高いものだけを作るブランドが残っていったのです。安い靴を求める人たちが増える一方でハイクオリティな靴を求める人も決していなくなることはなかったのです。結果、ノーザンプトンの多くのシューメイカーは今も残っているのです。
――グレンソンが持つブランドの強みとは何だと思いますか?
グレンソンが持つ強みとはバランスだと思います。伝統に基づいたクラフトマンシップとモダンなアティチュード、そのバランスが共存することはとても難しいものです。見た目だけを重視し、モダンさを追求すれば靴としての機能が疎かになり、人々は再び購入したいとは思いません。またトラディショナルすぎてもスタイリッシュさやアティチュードというものからは遠ざかってしまいます。今の若者たちはただ単にトラディショナルで古風な靴など欲しいとは思いません。伝統や文化といったものも重要ですが、よりモダンに解釈した靴を欲しがるのです。
――そのバランスをブランドとしての強みとして持っているのは伝統として受け継がれてきたのでしょうか?それともあなたがこの伝統あるブランドの一員として加入してからなのでしょうか?
私自身がこの会社に入ってからそのバランスはより意識するようになりました。私が入った頃、グレンソンはオールドファッションで若い方たちからはあまり見向きもされないようなブランドになっていました。
しかし過去のアーカイブを振り返るとグレンソンというブランドはとてもモダンなブランドだったのです。例えば1960年代から70年代、他の会社がまだカーフレザーだけを使用して靴を作っていた時期にこの会社はいち早くスネークやリザード等のエキゾチックな素材を他に先駆けて使用した靴を作っていました。何十年も前はグレンソンはとてもモダンな靴を提供するブランドだったのです。しかしいつの間にかそういった挑戦はなくなっていき、ただ単にトラディショナルな靴だけを作るブランドになってしまっていたのです。
私自身がこの会社に加入した2005年から改革に努めてきました。
――結果的にあなたはその後ブランドのオーナーにもなっています。
2005年に私が加わって少しずつ改革をしていくことにより、ビジネスは徐々にですが上向いてきました。売り上げにはまだ直接反映されていませんでしたがジャーナリストやエディター、影響力のある人たちも色んなメディアで取り上げてくれるようになってきていました。それにリバティーやバーニーズなどをはじめとした高感度のショップにも買い付けてもらえるようになっていたので、少しずつの成長ではありましたがこの先のさらなる成長を私自身確信していたのです。しかしその当時のグレンソンのオーナーは緩やかな成長には耐えられずブランドを売りたがっていました。僕はこの会社の可能性を信じ、この会社を引き継いでいこうと考えました。お互いのタイミングがあったのです。