”グッドイヤーウェルトがブランドとしての核であるということです。ブランド当初から変わっていません。どんなデザインの靴を発表したとしてもそこの部分だけは変わることはありません”
→GRENSON / Tim Little 1/3
――あなたが入ったことによる改革はデザイン面だけではなかったようですね。ブランドを成長させていく為にデザイン以外の面でもモダンなアプローチをしたのでしょうか?
その通りです。グレンソンは私が入った頃と比べて完全に違った会社になったといっても過言ではありません。
一番大きく変化したのは会社としての姿勢や考え方という部分です。古いシューメイカーの姿勢というものは、靴を作る、それを並べる、その並んだ靴をお客さんが自分で選んで買っていくというものでした。私たちは素晴らしい、美しい靴を作っているからそれだけで売れるはずだと信じてきたからです。彼らはマーケットを理解しようとせず、お客さんが何を欲しているのかも理解しようとしていませんでした。そういった古い姿勢や考え方を完全に変える必要がありました。お客さんを見て、お客さんと話をして彼らが私たちに何を求めているのか理解する必要がありました。私たちがお客さんに何を与えたいのかではなく。
細かいことで言えば靴を入れるボックスもメディアなのです。そういったことにも気づいていませんでした。私たちは150年以上経った今でもモダンな文脈を取り入れながらも伝統的なグッドイヤーウェルト製法の靴を提供し続けています。ですが私たちのアティチュードもモダンにならなければいけませんでした。
――歴史や伝統はあり、素晴らしい素材は持っていたので根底にある考え方を変えることが重要だったということですね。
どの部分がグッドでどの部分がバッドなのかを知る必要がありました。良い部分は歴史、クオリティ、靴に対する知識。悪い部分はオールドファッションな考え方、その姿勢さえ正せれば美しい私たちのシューズは再び受け入れられると考えました。世界は常に変わっているということを受け入れなければいけません。私たち自身の意識も変わらなければならなかったのです。
私たちの靴はここ数年発表したモダンなデザインのものも全て私たちのファクトリーで生産しています。150年間それは何も変わっていません。モダンに見える靴もソールをはがしてみればとても伝統的な作り方をしています。
モダンな姿勢、伝統的な価値、伝統的な構造、その3つがとても重要なのです。
伝統的な靴を作りながらもいまどきの若者に向けてデザインされた靴も作っています。そしてここ3年はビジネスも急成長しています。
――グッドイヤーウェルト製法に拘る理由はなんですか?
まずそれがブランドとしての核であるということです。ブランド当初から変わっていません。どんなデザインの靴を発表したとしてもそこの部分だけは変わることはありません。
それに私たちはグッドイヤーウェルトという製法がベストな製法だと思っています。
ソフトなイタリアンのシューズは見た目はモダンで素晴らしい。履き心地も良いと感じるかもしれません。しかし数年経つとそのシェイプが変わって来てしまいます。グッドイヤーウェルトの靴は最初に履いた時はかたいと感じることもあるかもしれません。しかし年月を重ねていけばいくほど足の形に馴染んでくるのです。履いていき、クリームを塗って手入れをすることによって味が出てくるのです。
――伝統的なイギリスの靴とイタリアの靴はどのように違うのでしょうか?
典型的なイングリッシュのラスト(木型)は短いものが多いです。ショートでラウンドしており厚ぼったいです。逆にイタリアの典型的なシェイプはスリムでロングで少し尖っています。
イギリスの靴はより実用性に基づきデザインされ、足にフィットします。イタリアはイメージを大事にしますのでフィット感はあまりないかもしれません。見た目がエレガントかどうかというのがより重要なのです。
――今季のコレクションではグッドイヤーウェルトの進化版とも言える、トリプルイヤーウェルト製法による新しいコレクションを発表しました。
新たに発表されたトリプルイヤーウェルト製法によるコレクションは私たちのファクトリーで考えられ、そして開発された製法です。ファクトリーの職人が考え出し、そのアイデアをもとに私が靴に落とし込みました。作るのにはとても時間がかかりますが美しい仕上がりになります。
――トリプルイヤーウェルト製法はグレンソンだけが出来る技術なのでしょうか?
今は私たちにしかできない技術であることは間違いありません。しかし早ければ来シーズンには他のブランドも同じようなものを発表してくるのではないでしょうか。
――そんなに短い期間で他のブランドが技術を取り入れることは可能なのでしょうかです?
可能だと思います。ノーザンプトンには靴を作ってきた歴史があり、働いている人たちには技術があります。私たちが発表した靴を分解すれば同じようなものを作ることは不可能ではありません。勿論それぞれの工場で持っている技術というものに違いはありますが、それほどノーザンプトンの靴の技術者というのは高いレベルにあるということでもあるのです。