Interview

映画「少女椿」 監督TORICO

世界的に知られる丸尾末広のカルト漫画「少女椿」を、短編映画『ミガカガミ』でモントリオール他、国内外の映画祭で数々の賞を受賞した監督TORICOによって完全実写映画化される。
1984年に原作が発刊されて以来、アニメ化や舞台化はされたが、実写映画化は30年もの間、何度も試みがあったもののその世界観を描くむずかしさゆえに企画が立ち消えになっていた。しかし今回、主演に本作が映画デビューで初主演となる中村里砂、演技派として高い評価を受ける風間俊介、アーティストの武瑠(SuG)、注目の若手俳優の深水元基、作家としても活躍する中谷彰宏といった個性あふれる面々の共演により、ついに映画として実現、5月21日より公開される。
映画化にあたり自身がデザイナーを努めるMEEWEE DINKEEをはじめ数々の東京ブランドや国内外で活躍するクリエイターたちの参加も話題を呼んでいる「少女椿」について監督のTORICOに話を聞いた。

―TORICOさんが丸尾末広さんの「少女椿」という作品で映画を撮りたいと思った理由はなんですか?

私自身が漫画少女椿のファンだったというのが一番の理由で、読んだ瞬間に「これは自分で映画を撮らなければ!」って思ったんです。私はそれまで自主映画しか撮ったことがなくスポンサーがいたわけでもなかったのですが、映画化の為に出版社を調べ、原作権を取りに青林堂に企画を持っていき「私に少女椿を映画化させてください」と言ったのが7年前です。

―そこから公開までに7年もの歳月がかかったのはなぜだったのでしょうか?

映画化の企画書を作り、映画会社を周ったのですがどこに持ちこんでも映画化はできないと言われました。内容が今の時代には難しいというか。こういったアート作品に近いものでは日本では出資したいという人が少ないのが現状です。数百万円だったら集められるけどその予算で撮ってもこの作品は良いものにすることが出来ないと映画会社のプロデューサーの方に言われたんです。作品を撮る為にお金が集まるまで様々なところを周っていたというのが現実です。

―作品を撮り始めるまでの段階でかなり時間がかかったのですね。

最初はプロデューサーもおり2人で製作会社に持ち込んだりスポンサー探しもやっていたのですが途中からは1人になってしまい、それでも映画化を諦めきれず知り合いの映画会社を転々と回っていました。1年間でどれだけ予算が集まるかを見て、集まらなかったら次の会社を回る、その繰り返しでした。

―脚本はいつから書き始めていたのですか?

映画を撮りたいと決めてからすぐ書き始めて、トータルで20回以上は改訂していると思います。最初は脚本も誰か他の人に書いてもらうという案もありましたが少女椿の面白さはファンでないと理解できない部分があります。誰かに任せても私自身がファンであるのでここは変えたくないという部分があり、そういうところでもめてしまう。結局私自身が書くのが一番良いのではないかと思ったんです。

―漫画作品を実写化するということにあたり意識した部分はありますか?

2次元から3次元にそのまま映像化するとうまくいく場合もあるのですが失敗してしまうことも多いのでそこの見極めは特に慎重にしました。この部分は原作の構図のまま残した方がいいというものはそのまま残し、そうじゃないところは大胆に変えてしまうという。

―原作はかなり過激で映像化するにあたりタブー描写も多かったと思います。そういった点でも苦労されたのではないかと思います。

最初に青林堂さんに原作権を取りにいった際に「この言葉は使わないでくれ」「この表現はNGだから」というのは脚本を書く前の段階でリストアップしていただいたのでそれは全部省きました。少女椿がアニメ化されたときに当時アニメで仕事が出来なくなるくらいの抗議があったそうです。青林堂さんからは原作を実写化したいという話自体出来れば辞めて欲しい、もしどうしても映画化をしたいのであればこれだけは守ってくださいということは言われました。そういったことを踏まえ、映画の舞台は現代の日本ではありませんよということを外枠にすることで表現しやすくしています。現在、もしくは過去の日本としてしまうと様々な語幣が生まれてしまいますので。

―原作者の丸尾さんからはこうして欲しいやこうはして欲しくない等とのお願いはあったのですか?

丸尾さんはビジュアルイメージを凄く大切にされている方です。例えば昭和初期は極彩色だったので極彩色を使ったセットだったり、衣装を使用したいとか、そういう部分を私と丸尾さんとで共通認識で持っていたのでそのまま自分の思ったまま映像化することができました。

―今回の実写化についてはSNS上でもかなり話題となっていますね。期待の声もそうですが不安の声もかなり多いようです。

原作を実写化するということはそういうことだろうなというのは理解していました。自分自身が原作のファンですのでもし自分自身以外の人が映画化したら同じような事を思うだろうし感じたりする。それは賛否両論受け止めています。海外でもファンが凄く多い作品ですので、今回の映画も台湾で映画化のニュースが話題になってるようです。私はメジャーな作品というよりはアンダーグラウンドの作品と認識していたのですが今回のバズりかたをインターネットで見ているとアンダーグラウンドではありますがとてもメジャーな作品だったんだなって思いました。

―映画初主演となる中村里砂さんにSuGの武瑠さんなど、キャスティングがとても個性的でした。エキストラにもデザイナーさんやファッション関係者の人も多数出演されていました。

今を感じさせる、現在のインフルエンサ―の人たちを集めたくてキャスティングをしました。中村さんは原作のみどりちゃんの顔に似ている、イメージにぴったりでした。武瑠さんはマインドが女性的な感じがしてカナブンにぴったりだなって。ビジュアルも似ていますし。

―風間俊介さんが演じている役も今までの風間さんにはないイメージの役で凄く印象的でした。

本を読んで出演を決断してくださったのですが風間さんがいることによって映画に面白い効果を生み出したと思います。風間さんは「たまに役者生命をかけるような役が来るんだよね」って言ってくださって。色んな意味でこの映画を引っ張ってくれた人だなって思います。本当にご出演下さってありがたいなって。

―今回の映画は衣装やセットデザインなどビジュアルに凄くこだわった映画だなと感じました。最初のお披露目がファッション関係者試写会というのも話題となりました。

ファッションを凄く大切にした映画でしたので私からファッション関係者向けの試写会をやりたいと提案しました。作品自体面白いというより胸糞悪いという映画ですのでエログロで気分が悪くなったという方もいましたが、たくさんの方から好意的な意見をいただけました。
今回の映画では私物も相当使っていますし、私が住んでいた家も映画に出てきます。私自身の全てを投げうってこの映画を作ったという感じです。映画と自分の区別が出来ないくらい以前住んでいた家は少女椿を撮る為に自分で壁を塗ったりして空間を作っていました。なかなか映画が取れないので7年間程そのままずっと住み続けていました。部屋もこのシーンで使う用とか決めて作っていました。自主映画上がりなので自主映画は予算がない中で作るのでくせになっていて、この衣装は映画映えすると思うと自分では着ないものでも買ってしまうんです。クローゼットの中にはものすごい量の服があり、自分では着ない服のほうが多いですし、靴も自分で履いたことのない靴の方が多いんです。スタイリストの小松夕香さんと衣装に関して話し合った時も小松さんに家に来てもらい衣装を選んでもらいました。ハイブランドのものも自前のものをたくさん使っています。

―協力、協賛にもたくさんの東京ブランドが並んでいました。

MIKIOSAKABEさんには特にたくさん協力してもらいました。MIKIOさんの洋服だけで部屋が一個埋まるくらいの服を貸してくださって。ANREALAGEや縷縷夢兎、HIGH-ME TOKYOさん等本当にたくさんのブランドさんに協力していただきました。映画の中で都会に行くというシーンがあるのですがエキストラ含めて100人以上いて、その人達全員が衣装を着ているんです。映画の場合通常エキストラは自前が多いのですが、この映画は100人全員にコレクションピースををコーディネートしています。エキストラなのでほとんど映らないのですがそういう部分までスタイリストさんと衣装さんと一緒にこだわって作りました。

―この映画はファッションをそこまでこだわる必要があった作品だったのでしょうか?

世界観を作るにはファッションと美術が本当に必要な作品だと感じていました。日本の映画の中にはファッションも美術もないがしろにされているものが多いと感じています。「そこだけ時代古くない?」とか、「その服今着てないよね?」って言うことが多いのですが、この映画は今の人たちが見ても時代の少し先をいってるようなブランドさんの服を着せることで見た人が「今」を感じてもらえるように努力をしました。
様々なアーティストさんに協力をいただいているのですが7年前に企画を考え始めた当時からの友人だったり、飲み仲間だったりする人、それから7年の間に仲良くなった人に声をかけていきました。その7年の間に急激に有名になってしまった人、特殊メイクのJIROさんやVFXのオダイッセイさんとかも売れてからもずっと一緒にやりたいと言ってくださって本当にたくさんの人に協力していただけました。普通の映画として撮っていたらバジェットがかかりすぎてこのメンバーが集まることは難しい、そういう人たちが友人として協力してくれました。

―完成した映画を見てTORICOさん自身納得のいく作品が出来上がったと思いますか?

これ以上のことは自分にはもう出来ないというくらいやったので、誰に何を言われようが、罵られようがこれ以上のものはできないのでそれだけです。500%くらいの力を出した、出せるものは出したし、使えるものは全部使いました。自分の中のものを全て出し切っちゃったので思い残すことは何もありません。

―完成した映画を丸尾さんには見ていただけたのですか?どのような反応をしていたのでしょうか?

丸尾さんは普段あまり話をされる方ではないので、試写会が終わった後に感想等はなかったのですが喜びながら手を握っていただいて三回くらいジャンプして去っていきました。相談もたくさんさせていただいていたので凄く感慨深かったです。

―最後にこの作品をどういう人に見てもらいたいですか?

老若男女あらゆる層の人に見てもらいたいです。ファッションが好きな方にもファッションが好きじゃない方にも、色んな人に好きになってもらえるように考えて作った作品なので全体として楽しんでいただけたら嬉しいです。今までこういった世界観に触れてこなかった人達がこういう世界観に触れることで面白いなって思っていただけたらというのが私の願うことです。勿論こういう世界観が好きな方にも楽しんでいただけたらそれも嬉しいです。


©2016『少女椿』フィルム・パートナーズ

『少女椿』
5月21日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー

監督・キャスト
監督・脚本:TORICO 原作:丸尾末広「少女椿」(青林工藝舎)

出演:中村里砂、風間俊介、森野美咲、武瑠(SuG)、佐伯大地、深水元基、中谷彰宏

ストーリー
ある時代の東京、みどり(中村里砂)は病気の母親を置いて家を出て行った父親の代わりに家計を助けるため、花売りをしていた。ある日、家に帰ると母親は病死していた。一人ぼっちになったみどりは、赤猫サーカス団の団長である嵐鯉治郎に拾われる。
地方巡業に回るサーカス団には、怪力自慢の赤座、美少年のカナブン、蛇使いの紅悦、足芸の鞭棄、異人の海鼠、蟻男といった個性的で怪しげな連中が顔を揃えていた。その中で下働きするみどりは、苛めにあいながらも健気に毎日を送り、走る列車を見ながら東京の我が家のことを思うのだった。
そんなある日、サーカス団にワンダー正光という超能力を持った男が加入する。苛めにあうみどりを見たワンダー正光は、彼女のことを気にかけて、彼自身が持つ超能力で不思議な光景を見せる。彼の優しさにみどりは次第に心を寄せていく。
ワンダー正光の評判は瞬く間に広まり、サーカス団は連日大入りとなった。だが、団員たちは彼の人気に嫉妬し、みどりを苛める。それを見たワンダー正光は怒り、超能力で団員たちを従わせる。彼はみどりのことを愛していたのだった。それに嫉妬した鞭棄もみどりを力づくで振り向かせようとするが、それを見たワンダー正光は激怒し、超能力で鞭棄を殺害する。その光景を見たみどりはワンダー正光に恐怖を覚え、避けようとするが…。

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