Interview

鈴木道子 Nocturne #22, #23 ~古典の現代における再解釈~ 3/3

自分の中で良い服って身長問わず年齢問わず誰にでも似合うと思っているんです。エージレスで着られるものはあると思いますし、そういう服を作りたいと考えています

→鈴木道子 Nocturne #22, #23 ~古典の現代における再解釈~ 1/3

→鈴木道子 Nocturne #22, #23 ~古典の現代における再解釈~ 2/3

―2012 S/S collection の”detachable femininity(=取り外し可能の女らしさ)”というテーマはどういった経緯で決まったのですか?

普段はテーマはあまり決めないんです。私たちは言葉に出来ないことを形にすることが仕事だと思っているので、言葉に置き換えることは難しい。でもやはり言葉を使ってテーマを決めることは、何かを伝えるためには大事だと思っていますので、それでショー会場にも置いていたのですがキリスト教から引用したステンドグラスの意味について書かれた文章を偶然見つけてそれを採用することにしました。
「だから、言っておく。自分の命のことで何を食べようか何を飲もうかと、また自分の体のことで何を着ようかと思い悩むな。」という一節が特に伝えたかったことを言い表していたんです。
テーマの取り外し可能の女らしさというのは言ってしまえば虚像のようなもので、「所詮ファッションなんてその程度のものじゃん」という思いからきたものです。でもその思いだけではないから作り続けているのだと思うんですけど。皮肉を込めたメッセージですね。

―11月にシンガポールPARCO “NEXT NEXT PHENOMENA 2011”にて、初めて海外でショーを行われましたが。

PARCOにお店があり、その経緯で決まったプロジェクトです。“NEXT NEXT PHENOMENA 2011”というのは若いデザイナーを集めたプロジェクトで、他のブランドと一緒に合同でショーをしました。

―シンガポールでは日本と同じものを見せたのですか?

日本で見せたものから少し減らして持って行きました。シンガポールのPARCOの中でショーをやり、期間限定ショップをPARCOの中で開き、そこでプレオーダーをしていただき、凄く反響がありました。

―モデルも現地の方だったんですか?

シンガポールを拠点にしているプロのモデルが着てくれたのですが色々な人種が混ざっていて独特の雰囲気がありました。

―東京でのショーには一般人のモデルを起用しました。ショー後には「あえてモデルを使わなかった」とおっしゃっていましたが、実際はプロのモデルさんを使いたかったのでしょうか?

人にスポットを当てたいというものがありましたのでそれはありません。
自分の中で良い服って身長問わず年齢問わず誰にでも似合うと思っているんです。誰でもと言うと語弊がありますけど、エージレスで着られるものはあると思いますし、そういう服を作りたいと考えています。そういう服を作りたいと思っているからこそプロのモデルにお願いしなかったんです。
ただシンガポールでモデルに着せてみせたらやっぱり良いと思いましたけど(笑)。美しい人が着れば美しいに決まっていますよ。

―現在のファッション業界の問題点を1つ挙げるとすればなんでしょうか?

外注や分業になっていることだと思います。

―その問題点にNocturneはどう立ち向かっているのでしょうか?

私たちのブランドは下請けに出さず、全て東京のアトリエで生産しています。それは新しい試みだと思っています。自分のところで全て生産しているデザイナーズブランドは他にないのではないかと思います。
元々は工場にお願いしようと思っていたこともありました。ですが川上から川下まで自分のところでやることが今のシステムに対抗する方法としてあるんじゃないかなって思うんです。理想はアトリエと路面店が一緒になることが一番だと思っています。

―工場に頼まないことで生産数は限られてくると思いますが。

生産効率を向上させることが今一番の課題です。今は月に100着くらい生産出来るのですが、月に200着生産出来るようになればうまくまわせていけるだろうと思っています。

―今の数で何店舗くらい対応できているのですか?

今は直営店が3店舗で、それに卸もあります。直営店は渋谷パルコと大阪のなんばパークスと福岡三越の3店舗。なかなか生産が追いついていないというのが現状なのですが、今後は生産効率を向上してもう少しアイテム数を増やしていければと思っています。

―卸先を増やすことも考えていますか?

卸が増えることによって知らない方に知っていただく機会を持つことは大事だと思いますが、卸だとショップからの要望も出てきてしまいます。そこに合わせるようになると結局マーケットに合わせることになり、迷いが出てきてしまい自分達のクリエイションができなくなってしまいます。やはりバランスを取ることが必要だと思っています。直営の方が大変ではありますが、独自性も出せますし、お客さんとも長い期間付き合っていける関係性が築けると思います。
今思うとこうした考え方はYohji Yamamotoで学んだことだと思います。何十年もやっていて、それでも来てくださる方というのは信頼関係があって始めて成立する関係性だと思いますし。そういう信頼関係を築き上げるためには直営のほうが適していると思います。

―#23で使う古着は愛着のあるものを選んで使用しているのですか?

倉庫などで買い付けてそれを使っていますので特別なものではありません。
私自身古着好きで古着と自分の服を混ぜて着ています。

―ファストファッションが台頭してきて服のサイクルも早くなってきていると思いますがそういうことに対してどう感じているのでしょうか?

私もそういったものを買うことはあります。でも穴が開いたりすれば簡単に捨ててしまいます。古着は安く買いますけど捨てれないんです。それはなぜかと考えるとやはり付加価値の差だと思います。ファストファッションは穴が開くと機能としての付加価値が無くなりいらなくなってしまいます。古着は時間の経過という付加価値があるので価値を見出せる。それがブランドならデザインだと思います。

―鈴木さんがクリエイションで追求したいことっていうのはやはり新しいことなのでしょうか?

以前荒木経惟さんにカタログの撮影をしていただいたことがあったのですが、そのときに話した内容に「アバンギャルドって古典にあるよ」という言葉がすごく印象に残っているんです。その通りだなって本当に思うんですよね。古着が好きなこともそうですし、私自身は新しいものを作ろうとは思っていないんです。
ミリタリーとか軍服が好きですし、民族服も凄く好き。古典的なものを今の解釈で作りたいという思いが一番にあります。制服のように毎日着るものって、ある意味究極だと思います。

―でもそれってファッションなのでしょうか?

ファッションが“流行”という意味なのであれば私がデザインしているものもファッションじゃないのかもしれません。私自身は普遍的なものを作りたい、どの時代でも良いと思えるものを目指しています。

―今何か興味あることありますか?

少し前までは競馬が好きでした。運試しみたいなことが好きなんだと思います。ブランドも運試しですし、ショーもそうだと思います。

―次回もショーはやるのですか?

多分やると思います。

―他に試してみたいことや、やってみたいことなどはありますか?

小料理屋とかやりたいなと思ってはいますけど(笑)。
仕事関係ではファッション誌やフリーペーパーとか作ってみたいと思います。

Interview & Text:Fumiya Yoshinouchi, Masaki Takida

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Nocturne #22 In C Sharp Minor, Op. Posth. 2012 S/S Collection

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