Interview

森栄喜 intimacy 3/3


       
写真を撮り終わった後もリアルな僕たちの生活は続いている。同時に、僕たちの実際の日常とは別に、この写真集の中の二人の日々も続いていく
 
→森栄喜 intimacy 1/3
→森栄喜 intimacy 2/3

  
―技術的に前の作品と比べて変わっている部分はありますか?
  
カメラってやっぱり凄く異質なものです。写真を撮ることは異質な出来事です。だからカメラ目線じゃない写真って意外に撮るのが難しかったです。カメラを構えると撮られる人も意識してしまう。だからさりげない透明人間的な技術、なるべくそれを心掛けて撮りました。前作の「tokyo boy alone」はまさに「これから撮ります」という感じで撮っています。だから日常よりは撮影だった。「intimacy」とは正反対ですね。  

―今回の写真集の写真はどんなカメラを使って撮っているんですか?

  
普通の35mmのフィルムカメラです。
  
―なぜデジタルではなくフィルムで写真を撮っているんですか?
  
フィルムで撮るのはいろいろと手間がかかるんです。すぐには確認できなかったり、現像してもネガからまたプリントしなきゃいけなかったり。ラボやプリンターさんとのやりとりとか。でも全ての行程に情みたいなものが生まれて、すごく人間的な感じがして好きなんです。
  
―作家的な写真家の人は意外と良いカメラを使ってない人が多い印象ですが機材に対するこだわりはないのでしょうか?
  
カメラに対するこだわりはあまり強くないんだと思います。カメラそのものが好きなわけではないですし。自分が使っているカメラも普通に安く中古で買ったものです。今回の写真集に関して言えばスナップ風にしたかったのもあって。でもフィルムは発色や耐久性の問題もあるのでこだわっています。
  

  
―自分で出来上がった写真集を見てどう感じましたか?
 
僕にとっては少し前の二人の記録です。写真を撮り終わった後もリアルな僕たちの生活は続いている。同時に、僕たちの実際の日常とは別に、この写真集の中の二人の日々も続いていくみたいな感じがします。読者の方にも写真集の中の二人の続きを想像して欲しいです。
  
―表紙の写真には2人の写真を選んでいます。
  
初めて彼の家に行って、初めて長時間一緒に過ごした。彼の足の上に僕の足がのっているんですけど、それだけでお互いに緊張するみたいな時期でした。
  
―凄くピュアな想いだったんですね
  
そうですね。
  
―今までにゲイ同士のカップルの記録を収めた写真集ってあるんでしょうか?
  
一冊丸ごとゲイ同士のカップルの記録という写真集は、あまりないと思います。
 
―栄喜さんは写真家なのに普段あまり写真を撮っているイメージがありません。
 
そうですね。普段はカメラ自体持ち歩いていません。常に撮った方がいいとは思うんですけど自分の中で撮るという行為を特別にしたいという思いがあって。慣れたくないというか。写真を撮るということは僕にとっては特別な人との共同作業だから、誰とでもどこででもできるというものではないんです。
  
―元々はどんな写真家を目指していたんですか?
 
元々ファッション写真を撮りたくてアメリカに留学したんです。高校生の頃はRichard AvedonとかDavid LaChapelleの写真が好きでした。それを見て写真学科に行こうと思ったんです。
  
―凄く意外です。2人とも栄喜さんのスタイルとはかけ離れているというか。特にLaChapelleの作品はファンタジー要素も強いし、栄喜さんのスタイルとは結びつかないですね。  
  
そうですね。でも10代の頃は大好きでしたね。だからパーソンズ美術大学を選んだというのもあります。
  
―今でもファッション写真を撮りたいと思いますか?
  
「作家に撮らせるファッション写真」のようなアプローチであれば撮りたいと思います。コマーシャル的に撮るとなったら技術的に優れている人は僕よりもたくさんいますし、それであるなら自分でなくてもいいと思います。
  

  
―OSSUというZINEを不定期で発行されていますが何のためにやっているんですか?
 
オランダで発行されたゲイ雑誌BUTTみたいなものを、日本でも作りたいねって言うことで、アーティストのミヤギフトシ君や写真家の川島小鳥君たちと始めたんです。始めは軽めのポルノZINEみたいなものを思い描いてたんですが、やっていくうちに裸も少なくなってテキストも入ってきて。でもそれもすごく日本っぽくていいなと。海外のブックフェアでもとても反響が大きいです。
  
―自分自身昔の写真集は見ますか?
  
実はあまり見ないですね。昔の作品から極力脱皮したい。見てるとその焼き直しをしてしまうかもしれないっていう怖さもあるし。一周すると新しい発見があるのかもしれないけどまだほんの少し前のことなので。もちろん自分の作品は好きだし愛おしいですが、今は敢えてあまり見ないようにしています。自分の写真集を見る時間があるなら尊敬している人の写真集や他の人の作品を見るようにしています。
 
―他の人の写真は見るんですか?
  
Hervé Guibert、Walter Pfeiffer、Duane Michalsが特に好きです。「intimacy」の発行日の日付はギベールの誕生日になってるんですよ。
 
―読者に伝えたいことはありますか?
  
『ファッションは魔法』(著:山縣良和、坂部三樹郎)を先日読んだんですが、写真も魔法だなって思います!
  
―自分が一番好きな写真はどれですか
  
やっぱり表紙の写真ですね。写真集のいろんな要素がたくさんつまってると思います。
  
―この写真集をどんな人に見てもらいたいですか?
  
小学生!世の中には男女のカップルだけじゃないんだよって、写真集を観て自然に知ってほしいから。だからたくさんの図書室や図書館に置かれたらいいなと思っています。
  

Interview & Text:Masaki Takida

 
 
書籍情報
書名:intimacy
著者:森栄喜
デザイン:森大志郎
発行:ナナロク社
発売日:12月14日
仕様:A4変型(188×195mm)
上製、264ページ
定価:3,800円+税
http://www.nanarokusha.com
 

 
  

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