置換される主旋律。
新たなる方向へと向かい、誰も見たことの無い物を具現化する行為。それは再構築や単純なカバーの手法では無く、宮下にとっては根底にある物を現在の自分に引き寄せる行為となる。
無意識下に於いて手繰り寄せ、繰り返されるその行為こそが、歴史的、政治的背景を踏まえながら進化してきた様式を、国境を超えた全く新しい「もう一つの存在」へと進化させる。
ライニングを表に着用する視点から生まれるジャケットは、羽織る為だけの必要最小限な装飾に留める。
通常に仕立てられた洋服の袖の長さやレングス、また、襟を裁ちアジャストさせる事は、自身に引き寄せる為の行為となる。アウター、そしてトップス、オーバーサイズまでもがスーパーショートレングスに仕立てられ、新たなるスタイルの可能性を提示する。宮下自身があまりバッグを持たないという視点から生まれるバッグスのシリーズは、ベローズポケットが配され、日々の生活スタイルをも色鮮やかに変化させて行く。その新しい始まりを引き寄せる触手は、着用する全ての者の感触や感覚を新基軸へと向かわせ、自身に必要不可欠なもう一つの存在として置き換わる。宮下は自身の根底にあるミリタリーやウエスタンの要素を基軸に、単なるミニマルなリプロダクトとは全く異なる、純粋でソリッドな世界観を無意識に紡ぎ出した。
既製の方法論を常に別の視点から捉える進歩的な理念に基づく宮下の服作りは、変革を伴い、抵抗と未来への基軸を主張する。別人格である覆面を脱ぎ、新たにシンプルなスリーピースバンドを組んだかの様に音を鳴らし始める。宮下が紡ぐ曲はこれまでも退屈なフレーズなど一小節も存在しない。しかし誰もが口ずさめる集大成のアルバムを作るのではなく、誰も聴いたことのない最高のシングルを作りたいという初期衝動のみがそこには存在する。そこには全く新しく、かけがえのないもう一つの情景が描かれる。