この詩はヴェルレーヌ自身がこの当時の婚約者であるマチルド・ド・モーテを想って詠んだ詩集「やさしい歌」のひとつです。
私がこの詩からイメージした情景は、寂しい駅舎の中、孤独な旅人が汽車にのるという旅立ちのシーンから、汽車の窓から流れ去る灰色の景色を眺めながら不安と郷愁等に苛まれるシーン。
やがて、その不安をぬぐい去るように心に想う人の声が聞こえ、その窓から見える灰色の景色さえも美しい黄金色の夕焼けに染めていくという、幻想的でありながら比較的わかりやすい内容構成でした。
コレクションを始める最初に、この詩のイメージをどのように人に伝えるべきかという事を検討しました。このコレクションは私が感銘を受けた詩とメロディが大変重要な役割を果たすので、それはどうしても欠かせませんでした。
また頭に思い浮かぶ映画のような情景を具現化できるかどうかがキーで、これが出来なかったらこのコレクションは成立しないと思っていました。
なので、最初にソマデザインの映像監督であるハナくんに「汽車をつくり走らせることは出来る?」とランチしてる時になにげなく聞いてみると「大変だけど、不可能じゃない」という返事でした。
また、この詩を詠むのを私がとても好きな、透明感あるヴォーカリスト坂本美雨さんにお願い出来ないかと思い、知人の森山開次さんに紹介して頂き、この時初対面でありながらオファーさせて頂きました。
美雨さんは快く引き受けて下さいました。
幸運な事にこの重要な2点が成立したので、この段階からコレクション用に10年前の「汽車の窓から」からブラッシュアップした楽曲を製作する事に決めました。
プロジェクトのスタートです。
森がつくっていた元は4分弱のピアノの楽曲でしたのでどのようにして約15分のコレクションにあわせていくかという検討をしました。
元の原詩はフランス語でそれが英語、日本語等に翻訳されていましたので
最初は英語だけで構成しようという案もでたのですが、私は堀口大学訳のこの詩に感銘を受けたので
日本語パートをどうしても入れたいとリクエストしました。
日本語を詠むと、日本語はそのまま頭に入ってきてしまうので観客がショーに集中出来なくなってしまうのではないかという懸念があり再び検討しましたが、美雨さんの声ならば問題ないだろうという判断でこちらも予定通り進行しました。
坂本美雨さんは、声でありながらも楽器のような、超音波のように空高く身体に響く声音で、即興で次々に音をつくりだすのです。リハーサルは数回でしたが、実際のコレクション本番時はアレンジと即興で尺をライブであわせてしまうという素晴らしい感覚のかたでした。
前半はクラシカルなピアノメイン、途中で汽車が出発するシーンでは実際の汽車の発車音等もサンプリングし、日本語に切り替わる部分から汽車が動き出すようなイメージ構成にしています。
楽器や尺を替えバージョンを何度もつくり直し、美雨さんの声と映像、勿論服にもあうように構成を検討して全体の世界観に落とし込んでいます。