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DAIJIRO MIZUNO

水野大二郎 / Daijiro Mizuno

1979年、東京生まれ。Royal College of Art 博士後期課程修了、芸術博士(ファッションデザイン)。

京都造形芸術大学 ファッションデザインコース非常勤講師/同大学ウルトラファクトリー・クリティカルデザインラボ ディレクター/
DESIGNEAST 実行委員/FabLab Japan メンバー/
ファッション批評誌 FASHIONISTA(仮)を蘆田裕史と共同責任編集の元、2012年2月に刊行予定。

Twitter アカウント:@daijirom / @mag_fashionista / @narumizu2011 / @designeast01
Webサイト:www.daijirom.com

FabLab、開かれたものづくりについて

こんにちは、水野です。

前回から時間が経ってしまいましたが、ひきつづきFabLab、から「開かれたものづくり」についてお話したいと思います。

さて、前回MAKEやCraftなどを紹介しながら、と書きました。MAKEやCraftとは、オライリーが出版している雑誌です。MAKEの方はよりエンジニアベースのノリのものづくり(男っぽい?)に対して、Craftの方はより工芸ベースのものづくり(女っぽい?)と簡単に位置づけることができるでしょうか。どちらも材料を削り出したり、基盤にはんだづけしたりと、いろいろなプロセスを経て誰でもつくることができる事実を共有しています。ある種のものづくりレシピ紹介雑誌とでも規定できるでしょうか。ただ、面白いのは既存のモノをハッキングすることも含めて、大量消費・大量生産のものづくりを批判的に捉えつつ、ウィットに富んだものづくりを紹介している点です。これらの雑誌が示唆しているのは、ものづくりの未来像でもあります。日本では「大人の科学」等がこれに共鳴した内容を展開しているといえるでしょうか。

MAKE Japanは、Make Tokyo Meetingと題してこれまで複数回にわたり、その賛同者が作品を発表する機会をつくっています。これがすごく楽しい空間で、コミケ的でもあるし、展覧会的でもあるし、学会のパネル発表的でもあります。インスタレーションやパフォーマンス、ワークショップやレクチャーも会期中にあります。
アーティスト、デザイナー、エンジニアなど、多彩な人たちがものづくり(Fabrication)の楽しさ(Fabulous)を共有すべく作られた実験場(Laboratory)なのでしょう。そういう意味で、MAKEとFabLabはとても近い距離にあるといえますし、実際僕がFabLabを知ることになったのはMTM05でした。その時見たのが、たしかCupcake CNCとRepRapといわれているガレージキットのような3Dプリンタで、それが何を意味しているのかがすぐに解り非常に興奮したのを覚えています。それが当時、SFC FabLab Betaや多摩美ハッカースペースで展開しているのを知ったわけです。現在では、FabLabは鎌倉、つくば、金沢とその活動を日本全国へと展開しつつ、東大や東京芸大、東工大の付属高校などでもデジタルファブリケーションの動きがでてきつつある状況です。それを関西でも考える場所がつくれたらと、Critical Design Labは考えています。

デジタルものづくりは今、ものづくり2.0といわれるステージへむけて進化しています。それは、3Dプリンタが3Dプリンタをつくる、という自己複製(ものづくりのための道具をつくる)などに現れています。RepRapなどの道具がそれにあたるわけですが、未来のものづくりはひとまず情報空間における情報共有をベースに展開していくことが誰の目にも明らかになっています。
その情報共有の在り方は、共同出資やマイクロパトロンの仕組み、例えばTee PartyやCamp Fireなどのウェブサイトで実践されています。

「たくさん売ってビッグになる」ことだけがデザイナーの目指すべき方向ではなくなりつつあります。それは、環境、倫理、経済などの点からも、かなり難しくなりつつあるからです。日本の内需拡大を目指すための仕組みは、かなり飽和しています。それではどのように海外に届けるか。ネットを利用して、情報空間を利用せざるを得なくなるとしたとき、情報空間特有の文化とどういう関わりしろをもつべきか。「必要分売ってミディアムになる」ことでやっていけるなら、それも目指す方向になるのではないか。

「必要分」を売るためのコンテンツやネットワーク、資金を調達するための仕組みを考えることは、既存の体系から離れることを意味するのかもしれません。
もちろん、既存の仕組みとしての商品展示会から離れてビジネスを展開するのは危険なことかもしれません。しかし、情報空間との連動において可能になった事はあまりに大きく、そのチャンスを十全に捉えきれていないところもあるかと思います。pixivとカオスラウンジの話が最近ネットでは出ていますが、現実空間と情報空間では文化的差異があることも事実です。

しかし、ファッション産業の形態はしなやかに進化しながら、21世紀型洋装店を展開していくこともできるのではないでしょうか。特にパーソナル・ファブリケーション(ひとりでものづくり)がデジタル・ファブリケーション(デジタルものづくり)によって支えられるとき、USBミシンやカッティングマシン、インクジェットプリンタがあることで「売る」コンテンツや仕組みは変容せざるを得ないのではないか。

開かれたものづくりの状況は、デザイナーにとってチャンスとなるのか危険な状況になるのか。それは、自身が「仕組み」としてのデザインを構築するかどうかにもかかってくるのではないかと思っています。極端にいえばコンテンツが面白ければ猫も杓子もデザイナーになれる状況がきているからこそ、デザイナーがやるべきことが明確になってきていると感じています。

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