こんにちは、水野です。
先週、シアタープロダクツとアンリアレイジのショーを見させていただきました。
そして、「ファッションは更新できるのか?会議」もスタートしました。
僕は司会として第0回に全体のまとめを、第1回にDIYからDIWOへ、そして
Do It For Othersという可能性について議論したりしていました。
そんな流れの中で、デジタル工作機械によって成立するファッションデザインの可能性を最近いろいろと考えています。
Neil GershenfeldのFABという本があったり、あるいは
Bas Van AbelのOPEN DESIGN NOWという本があったりする
デジタル工作機械を用いたものづくり=デジタルファブリケーション
ですが、どんな未来がまっているのでしょうか。
以前のブログのエントリーにもいろいろ書きましたが、
今回はデジタルファブリケーションを用いたデザインがシアタープロダクツと
アンリアレイジからも(他のデザイナーの方ももちろん取り組まれていますが)
でてきたのをふまえて、どんなことが考えられるのかをかいてみたいと思います。
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時間。
データがPC上でつくられてしまえば、すぐに出力可能です。
ラピッド・プロトタイピングと呼称されていますが、試作品づくりに小回りがきく
デジタルファブリケーションは、3Dプリンタのみならず、レーザーカッターや
デジタルプリンティング、デジタル刺繍、カッティングプロッターなど様々な
機械によって様々な素材でつくることが可能です。
オン・デマンド。
必要な時に、必要な量を、必要な分だけ作る事が可能です。
しかも、デザイン、製造、販売、流通と個人レベルでもできるようになりました。
マスカスタマイゼーション。
マスプロダクションとマスコンサンプション(大量生産と大量消費)だけでなく、
マスカスタマイゼーション(大量カスタマイズ)もデジタルデータならではの魅力です。あるいは、カスタマイズすることを前提にデータを公開することも不可能ではなくなりました。
古いデザインの回復。
壊れたものを完璧に修復するのみならず、古いデザインをウェブ上で探して出力することも不可能ではありません。版権切れしてコピーライトフリーになっていると、ますます古いデザインを完璧に復活させることも容易になります。
ニッチマーケットの開拓。
ロングテールと言われている販売機会の少ないモノも、ウェブでは欲しいひとによって見つけ出されることも容易です。少量、変量生産が可能なデジタルファブリケーションによって大量生産のためのマーケット開拓が離散的な状況になってきた今こそ、コア層にむけたものづくりが可能となっています。
複雑な形状の具現化。
これまで大量生産ベースでしか見合わなかった複雑なデザインを具現化するためのコストや労力が、デジタルファブリケーションによってかなり下がりました。これによって、複雑なデザインがこれまでよりも飛躍的に容易に製品化することが可能となりました。
コミュニティの生成。
デジタルデータを共有するコミュニティによって、デザインの価値が安定して流通、維持することが可能となります。オンラインと実空間両方で生み出されるコミュニティは文化的観点からは教えあい、高めあう「ソーシャルネットワーク」が、ビジネス的観点からは「マーケット」の創出が作り出されます。
玄人と素人の関係性。
デジタルデータが一度公開され、デジタルファブリケーションが汎用的になると、だれもがデザイナーになれます。これまで素人扱いされていた消費者がデザイナーになり、これまで玄人扱いされたデザイナーは「つくりかたのつくりかた」を考えたりするようになる意味でメタ・デザイナーとでも呼べるような存在へと進化していきます。そこでは「体験」などをお金にかえるような仕組みもデザインとよばれるようになります。
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と、いいことばかりあるように見えるデジタルファブリケーションですが、懸念されることもまだあります。
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コスト。
少量、変量生産はこれまでの産業の体系とフィットしません。材料費も高くつきます。
モチベーション。
素人扱いされていた消費者がデザイナーとなり、ものづくりの仕組みが再編されるようになるためには、これまで買う事ばかり考えていた人につくることを促すことが必要です。倫理的、環境的、文化的、歴史的理由からつくることを再考するのはいいのですが、実際につくるためのモチベーションをどうやって維持しうるのかを考える必要があります。
クラウド化。
古いデザインがデータベース化し、さらに新しいデザインのデータも有象無象のデザイナーによってウェブ上にアップされるとどれがどれだか、価値の見分けがつきづらくなります。情報の海をいかに泳ぐ事ができるのかが問われます。
倫理。
パクリ合いのみならず、差別的表現でも何でも、誰もがどのようにでもデザインしえる状況になります。
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シアタープロダクツは、クリエイティブコモンズライセンスを用いて新しいコミュニティを作り出すことや維持可能なものづくりや消費のあり方についてみんなで考え、楽しんでものをつくり、使っていこうという意識があった作品が発表されました。他方でアンリアレイジは、レーザーカッターなどを用いて極めて複雑な模様をカットしたりしつつ、意味論的祖型としてのふくのかたちを表現されていました。ヘリンボーンのカットのように繊細なものから、ベストの縫い代のような骨まで、レーザーカッターの可能性をファッションデザインで追求されていました。両者とも、決して技術的側面のみを強調するのではなく、作品を通してどのような価値をもたらしたいのか、それを具現化するための手段としてデジタルファブリケーションがあることに、共感しています。
デジタルデータによってうみだされる作品がもたらす未来のものづくりは、革新的なアイデアをかたちにするデザイナーたちと、そのコミュニティによってどんどん具現化していきます。しかも、それはものづくりから社会づくりへとシフトし、消費者とデザイナー、デザイナーと工場、工場と消費者の関係性を大きくかえていっています。
実験的な試みを続けるデザイナーのみんなを、ちょっとでも助けることができないかなあと日々思っています。
水野