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HIROSHI ASHIDA

蘆田 裕史 / Hiroshi Ashida

1978年、京都生まれ。 京都大学大学院博士課程研究指導認定退学。
日本学術振興会特別研究員PD、京都服飾文化研究財団アソシエイト・キュレーターを経て、京都精華大学ファッションコース専任講師。
ファッションの批評誌『vanitas』編集委員、ファッションのギャラリー「gallery 110」運営メンバー、服と本の店「コトバトフク」運営メンバー。

e-mail: ashidahiroshi ★ gmail.com(★を@に)
twitter: @ihsorihadihsa

『vanitas』の情報は↓
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書評:朝倉三枝『ソニア・ドローネー──服飾芸術の誕生』

ここのところ、服飾史やファッション論の本があまり出ていなかったように思われるのですが、久しぶりに良い本が出ました。

朝倉三枝さんの『ソニア・ドローネー──服飾芸術の誕生』という本です。

20世紀前半は芸術とファッションとの関係が深まった時代だと言えますが、その渦中にいたひとり、ソニア・ドローネー(1885〜1979)がどのように服飾に携わったのかを通時的にたどる研究です。

本書では、ポスト印象派の画家たちに影響を与えた化学者ミシェル=ウジェーヌ・シュヴルールの色彩理論に端を発する「シミュルタネ(同時的)」という概念を展開させながら、また、夫のロベールとの共同作業を重ねながら、ファッションの分野で様々な新しい試みを行ったソニアの活動を知ることができます。

たとえば、今でこそ当たり前になった、文字がプリントされた衣服の先駆けとも言えるローブ・ポエム(詩が書かれたドレス)や、1924年のサロン・ドートンヌ(美術展)において「動き」を取り入れた展示を行っていたこと、あるいはティッシュ・パトロンと呼ばれる「衣服の裁断線と模様がプリントされた布地」の考案(著者はこれとA-POCとに共通点なども指摘しています)など、これまでほとんど知られることのなかったソニアの「服飾芸術」(ソニア自身のことばです)を理解することのできる良書です。

また、1925年のいわゆるアール・デコ展の服飾部門の様子も論じられていますので、この博覧会に関心がある人にもおすすめです(アール・デコ展は名前こそ有名であるものの、その内容はあまり知られていないように思われますので)。博士論文がもとになった研究書とはいえ、文章も明快で読みやすく、この時代の予備知識なしでも読むことができると思います。

不満な点を挙げるとすれば、ソニアが「パリのモード界で活躍をした」と述べられているものの、ソニアの作品(衣服)の受容に関する記述があまりないため、どこまでモード界への影響があったか、疑問が残ることでしょうか。もちろん、ソニア自身の活動を調査するだけでも大変なので、これはないものねだりになってしまうのでしょうが・・・

あとは、同時代の服飾史的背景に関する説明が簡略化されすぎているために、読者に誤解を与える可能性がやや懸念されます。たとえば、議論の筋(ポワレとソニアの対立)をはっきりさせるためだとは思いますが、20世紀初頭の流行の変化の要因をポワレひとりに帰している(ように読めてしまう)ことや、ソニアの先見性を評価するあまり20年代を「大量生産される既製服の時代へと向かい始めていた」と語ってしまうことなど、疑問が残る点もあります。

とはいえ、これだけ丹念に調査された研究の結果を一冊の本で(しかも日本語で)読めるなんて、お得感にあふれた本であることは間違いありません。

6 Responses to “書評:朝倉三枝『ソニア・ドローネー──服飾芸術の誕生』”

  1. あきこ より:

    あっしだせんせい、
    奇遇ながら、私もソニアドローネの本を図書館でたまたま
    みつけて、読み途中です。
    ”SONIA DELAUNAY パリデザイン界をリードした画家”
    和光大学の竹原あき子先生の著書です。
    アシダサンの不満な点を解消してくれるものかと思います。
    こちらに服の写真が何点か載っているのでツイートしますねん♡
    ちなみに、ドローネとポワレのコラボ服はドルオーの服飾部門至上
    最高値を記録しており、ポワレの奥さんの私物だったものでした。

  2. 蘆田 裕史 / Hiroshi Ashida より:

    ほんと奇遇ですね!

    竹原あき子さんのはタイトルだけ知っていたのですが、勝手に服の話があんまり出てこない気がしていて読んでなかったですw
    そっちも見てみます。
    情報ありがとうございます!

  3. AKIKO MURATA / 村田 明子 より:

    前述、ポワレとのコラボはドローネではなくDufyでしたん。
    頓珍漢情報スミマセン!
    竹原先生の見解と云うよりは、伝記のような感じです。

    ”アナタのデザインした服の生地に型紙をつけて販売しなさい。
     それぞれが自分の体に合わせてカットし、家庭で縫えばいい。
     もはや特別な人間の為のオートクチュールは終わりを告げるのだから”と、1927年にロベールの助言どおりに講演を結んだ。
    ってとこが私にはビビッときました。

  4. 蘆田 裕史 / Hiroshi Ashida より:

    あ、やっぱりそうですよね。
    ポワレとドローネーのコラボなんてあったんだ!とちょっとびっくりしてましたw

    この時代の美術家さんたちは色々考えてましたよね。

  5. あきこ より:

    陳情法( 笑 頓珍漢情報)でスミマセンです。
    コレを機にDufyとドローネを比べてみましたが、ポワレはやっぱり、
    前衛というよりは、オリエンタリズムとかポエジーの方が
    強いし、自発的なフェミニズムではなかったことが浮き彫りになりますね。そして目次の方もありがとうございます♡毎回お勉強になります,
    今度は隅田川で講義を 笑

  6. 蘆田 裕史 / Hiroshi Ashida より:

    ポワレに前衛性はあんまり感じられないですよね。
    モードのスルタンと呼ばれるだけあって、大御所感が漂っていますしw

    ポワレは自伝で「胸は解放したけど今度は脚を拘束したから別に身体とか解放してねーし」みたいなことを言ってるんですよね。
    ですので、仰る通りフェミニズムとかそういうのではなかったと思います。