fur fur

前田エマが詩を読み上げる。ぷつん、ぷつんと寝言のような断片的な言葉が暗闇に飲み込まれていく。ピアニスト、寒川晶子の「ド」の音だけがそっと群れから抜け出すように闇に溶け出す。
黒の胸元が深く開いたV字のロングドレス、黒のレザーブルゾン、永遠と黒に埋め尽くされた世界。シャープなカッティングとハードな素材感に時折レースやチュールを挟み込むことでfur furの甘さ加減を調整する。悪魔のようだが、艶感のある油絵のようなヘアメイクはドイツのアーティスト、アレキサンドラ・フォクトの絵画にインスパイアされている。ドレスに使用したウールの圧縮フラノはウールにローラーをかけて仕上がる素材で頑丈なため、床にも敷き詰められた。

「furというブランドだった時の気持ちに戻してみた」とチダコウイチ氏。また「11シーズン目を迎えたにあたり、自身の中にある「可愛い」が徐々に増えてきたことで、それは自分なのかという疑問も湧き一度原点のかなりハードな部分を出していきたいと思った」と語る。

重厚感のある長い毛足でカールのかかったファーコート、オーガンジーを粗く束ね重ねたドレス、布の中心に穴を開けて被ったような一切の装飾がないドレス。同じような素材、空間、音が複数に重なった時に露になるエレガンスが浮かび上がる。

「僕はこのブランドは夜をテーマに絞っている。夜にクリエイションをすることが多く、その中で起きる事象であったり出会いというものが実際のショーの構成に繋がっている。何がテーマかと言われたら暗闇や真っ暗の中というのが物作りのテーマになっていてそれが今回出せたのではないかと思う」

捨てては作るを繰り返し、移ろいゆくクリエイションが立ち戻りながら再び新たな扉を開けた。

Text:Tomoka Shimogata


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