Fashion Show

NOZOMI ISHIGURO tambourine

今季のテーマは、ポスト・パンクを代表するニューヨークロックバンド、Talking Heads(トーキング・ヘッズ)の曲名である、「Psycho Killer(猟奇殺人鬼)」。デザイナーが20歳のときに見て感化された、ジョナサン・デミによる彼らのライブ記録映画『ストップ・メイキング・センス』の冒頭で流れる2曲をBGMに、メンズとウィメンズを混ぜ合わせた2部構成のコレクション。

1部はテーマのままにサイコキラーに焦点を当てた、重苦しい雰囲気。複雑なカッティングや、色々な詩を手描きのような字体で綴ったプリントが多数見られ、まるでサイコキラーの混沌とした心理状態を表現しているようだ。独特なフォルムのシルバーサングラスはサイコキラーの象徴。ゆったりとした素材感が妖しい空気感に拍車をかける。

2部はサイコキラーの世界観とはあえて逆説的な試みで、「皆が行きたがるバー、そこはヘヴンというバーなんだ」という歌をモチーフに、「天国」が連想される世界観に。定番のパーカーやジャケットのアイテムに、花柄のプリントやボーダーが華やかな印象を。トレーナーを作る素材をフリルにしたり、フリルに使うチュールをレースにしたりと、素材や装飾へのこだわりが感じられる。未完のバランスを好み、あえて完成せずに、途中なシルエットにしたカッティングはショーの大きなポイント。

曲の最後にサイコキラーは「自分は栄光へと向かっている」と述べている。サイコキラー、そして私達にとっての栄光とは何か。天国は華やかな場所であっても、結局何もない所なのだ。自分達の置かれている状況が、栄光なのではないだろうか。
分かりやすいメッセージを伝えることは出来ないが、洋服でもできることはあるのではないか。デザイナーが考えた先に、たどり着いた答えは、「今ある命を大切にしてほしい」。
当たり前の事ではあるが、今の世の中には大切な心である。

Photo:Tomohiro Horiuchi Text:Kohei Tsurumoto


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