HISUI

今季のテーマは「ながいものにまかれるの?」
震災後に感じた、物事の二面性、善と悪では判断できない現代の社会、情報や価値観の多様性によって誰もが信頼する「大きな物語」の弱体化から、ことわざ「ながいものにまかれろ」が意味する「強いものに従うとよいことがある」ことに反抗しアイデンティティを形成する時代は終わり、その「ながいもの」と共存していく世界になりつつあるのではないのか、というデザイナー伊藤弘子氏の問いかけによって制作された。「ゆれるゾウ」と「浮いているヒトたち」の3体によって表現されたインスタレーションだ。

まず目を引くのは一枚のベニア板から製作された玉乗りのゾウのオブジェ、「ゆれるゾウ」。ゾウはことわざの中で、自分より「チカラのあるもの」として表される。国家、権力の象徴であり、テーマにある「ながいもの」である。近年の震災を含めた大きな変化によって変わらざるを得なくなった社会と個人の関係性、それを踏まえて変化の時期に来ていることが、「ながいもの」であるゾウが別のものに巻かれ「ゾウの形をした抽象的なながいもの」として表現されている。
また倒れる事の無い玉の上に乗る不安定な状態のゾウは、不安を感じながらも倒れないゾウを見つめる私達に何かを訴えてくる。
 
その隣に寄り添うようにたたずむ三体の「浮いているヒトたち」。ゾウと同様、帯のように切り出した一枚の布を蛇腹にし、留めたもの。三体それぞれが宙に浮かんでいる。この宙に浮かんだ状態は、変化の過渡期である社会での不安定な私たちの状態を示しており、思考・選択のプロセスを経て地に足が着くのではないか、と伊藤氏は考える。

本来の「ながいもの」としての存在が薄らぎ、「ながいもの」に代わる「大きな物語(=ことわざ、宗教、思想)」が台頭せず、すべてを受け入れる事ができない。だからといって全てを否定することのできない世界。解釈や物事を見る方向によって全てが変化する不安定なこの世界において、次の一歩をどう踏み出せばいいのかという迷いや葛藤。

オブジェクトとしての制作は無いが、ゾウと反対の「弱きもの」として「かみつきウサギ」がいくつかのアイテムで登場する。「弱きもの」であるウサギの強い歯で、理不尽な「ながきもの」に対しての反抗をすることを表している。
→hirokoito@HISUI 2012-13 A/W Collection

Text:Yoshiaki Miyahara

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